ツール・ド・フランス第11st:休息日明けは波乱!ステージ最初のアタッカーのアブラハムセンがゴールまで先着!ポガチャルは残り4㎞でまさかの落車も紳士協定で集団が待つ選択

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休息日明けは積極的な動きが発生することが多い。この日のステージも本格的山岳前だけに逃げ切りが容認される公算が高かった。そしてその最初のアタックを決めたヨナス・アブラハムセン(Uno-Xモビリティ)を中心とした逃げ集団を形成、さらにそこから飛び出したアブラハムセンとマウロ・シュミット(ジェイコ・アルーラ)は、追走してきたマシュー・ファン・デル・ポエル(アルペシン・ドゥクーニンク)が背後に迫る中直接スプリント勝負を開始、僅差でアブラハムセンが自身にとってもチームにとっても初となるツール・ド・フランスのステージ勝利をもたらした。シュミットは2位、そして今大会ステージ1勝、マイヨ・ジョーヌ獲得、さらにはあわや178㎞大逃げ勝利と、今大会目立ちまくっているクラシックの帝王ファン・デル・ポエルは勝利こそ逃したがステージ3位、今大会とにかく印象に残りまくる活躍を繰り広げている。

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そんな中メイン集団で波乱が起きる。残り4㎞でなんとタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツXRG)が前を走っていたトビアス・ヨハンセンが前方の動きに合わせてコース右側へと走った際に、後ろにいたポガチャルの前輪を払いのける形となり、ポガチャルは落車、そのままスライドしながらロードファニチャーにぶつかり止まった。すぐに起きあがるがチェーンが外れており、自ら直そうとするがすぐにシマノのニュートラルサービスが駆け寄りチェーンを戻し再スタートを切った。そのままその手前の上りでメイン集団からちぎれた後続集団に合流しメイン集団復帰を図る。
そのメイン集団のペースは上がっていたが、なんとここで総合リーダーのベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト)がポガチャルがここでこのような形でタイムを失うべきではないと主張、集団全体にペースダウンを促した。いわゆる紳士協定でもあり、昔から暗黙の了解としてプロ選手が行う行動ではあるが、昨今は「運も実力の内であり紳士協定を行わないのが勝負の世界」、という主張も多くいため、どうなることかと固唾を飲んで世界中が見守ったが、結果的にポガチャルはライバルたちの行為に救われる形となった。ゴール後に無線でチームに対し、「皆(一緒に走っている選手たち)を尊敬する、皆に感謝!」と口にした。擦過傷は多くあるが、骨折や大きなけがはなく、明日以降も問題なく出走は可能だ。

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そんなステージは157㎞のショートステージだが、獲得標高1600mでアップダウンが続くクラシックのようなステージ、そしてスタートの腹が降られると同時にアブラハムセンが飛び出していく。すぐさまシュミットとダビデ・バレリーニ(XDSアスタナ)が合流し、その背後では合流を果たすべくワウト・ファン・アールト(ヴィズマ・リースアバイク)を中心に何度となくアタックが繰り返されるが、これがなかなか決まらない。その後残り90㎞でフレッド・ライト(バーレーン・ヴィクトリアス)とマシュー・ベルガドー(ダイレクトエナジーズ)が合流し、先頭の逃げは5名となる。
更にその背後では幾度となく飛び出そうという動きが起きるが成功はしなかった。だが集団が中間スプリントに差し掛かるあたりでメイン集団自体が分裂、このタイミングでファン・デル・ポエルやファン・アールト、アルノー・デ・リー(ロット)ら5人が追走集団を形成することに成功する。先頭の5人との差は50秒ほどとなり、メイン集団はその後方2分半ほどまで広がり、この日は多くの分裂が発生したまま展開していくこととなった。
残り40㎞で30秒、残り20㎞で20秒と先頭の5人とクラシック王者2名含む5人の追走集団との差はじわじわと縮まっていくが、捉えるには至らない。そして残り15㎞、上りでクイン・シモンス(リドル・トレック)が先頭の5人めがけて飛び出していく。だが時を同じく先頭の逃げ集団でもアブラハムセンがアタック、シュミットを連れて抜け出していった。

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残り10㎞、激坂山岳に突入してもアブラハムセンとシュミットは快調に飛ばし、追走とその背後のファン・デル・ポエルらとの差は縮まらないどころか広がりを見せる。ここでしびれを切らしたファン・デル・ポエルがアタック、一気に追走集団を捉えるとそのまま抜き去り、単独3番手で山頂を超えていく。ここからは先行する二人とファン・デル・ポエルの壮絶な追いかけっことなった。下りから平坦に、個人TTモードで激走をするファン・デル・ポエルだったが、先頭の2人も大きな駆け引きをすることなくそのまま走り続けると、残り1㎞ファン・デル・ポエルが8秒差にまで迫っても冷静さを失わない。駆け引きをすれば追いつかれる、ならばハイペースなままスプリトンへ、これが趣味っととアブラハムセンの答えだった。最後はお互いバイクを投げ出しての僅差のスプリントは、この日最初のアタックを決めたアブラハムセンに軍配が上がった。

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ファン・デル・ポエルはあと一歩届かず3位、ぐったりとうなだれてのゴールとなった。その後次々と選手たちがゴール、そして総合上位勢はポガチャル合流後はそのまま流すようにして最後まで走り切った。ヒーリーは初めてのマイヨ・ジョーヌをきっちり守り切り、さらにもう一日着用することとなった。
ヨナス・アブラハムセン(ステージ1位)
「4週間前、ベルギーツアーで鎖骨を骨折してしまったんだ。その時は病院のベッドでツール出場が無くなったと思い号泣していたんだ。でも翌日からトレーニングを再開して、ツール出場を目指したんだ。そうしたらこうして出場できただけではなく、勝利まで挙げられたよ!シュミットは本当に今日最初から最後まで強かったよ。振り切ることもできなかったからね。最後は自分に”勝たなきゃ”と言い聞かせながら、彼の背後を取って最後の瞬間まで時を待ったんだ。今日はスタートと同時に飛び出していたから、うまく立ち振る舞わないと勝てないと思ったんだ。あとはもうスプリントに全てを賭けたよ。メイン集団からあまりタイムを与えられなかったんで、最後まで逃げきれるかがわからなかったんだよ。だから最初から最後まで全力だったし、何とか勝てて良かったよ。」
ベン・ヒーリー(総合1位)
「マイヨ・ジョーヌを守るのはストレスだったね。スタート直後のアタックの応酬の中でまさかの遅れをとってしまったよ。チームメイトが必至でメイン集団に戻してくれて、それでようやくスイッチが入ったよ。」
「最後はもう平坦だったし、そんなにタイムが付くところでもないんだから、ポガチャルを待とうということになったんだ。無線でポガチャルの落車が聞こえて、すぐにヴィンゲガードに話したんだ。こんな形で、ポガチャルからタイムを奪ってもつまらないだろうしね。そうしたらあとはポガチャルへの敬意が皆をうごかしたんだよ。立場が変われば、こうして敬意を払ってもらえたら嬉しいし、真っ向勝負の中で決着はつけるべきだからね。」

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タデイ・ポガチャル(総合2位)
「皆(一緒に走っている選手たち)を尊敬する、皆に感謝!」
「大丈夫だよ。ただ山岳前日なので腹が立つけどね。残念ながら僕の前にいた選手は僕の位置を把握していなかったんだよ。だから僕の前輪をさらっていってしまったんだ。運がよかったのは、少しの擦過傷で済んだという事だよ。あの瞬間道路脇の縁石に頭がぶつかると思ったんだ。でも僕の皮膚は丈夫だったね。そこまでに摩擦でスローダウンしてくれたよ。」

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ツール・ド・フランス第11ステージ順位
1位 ヨナス・アブラハムセン(Uno-Xモビリティ) 3h15’56”
2位 マウロ・シュミット(ジェイコ・アルーラ)
3位 マシュー・ファン・デル・ポエル(アルペシン・ドゥクーニンク) +07”
4位 アルノー・デ・リー(ロット) +53”
5位 ワウト・ファン・アールト(ヴィズマ・リースアバイク)
6位 アクセル・ローランス(イネオス・グレナディアス)
7位 フレッド・ライト(バーレーン・ヴィクトリアス)
8位 マシュー・ベルガドー(ダイレクトエナジーズ)
9位 クイン・シモンス(リドル・トレック)
10位 ダビデ・バレリーニ(XDSアスタナ) +1’11”
ツール・ド・フランス総合順位
1位 ベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト) 37h41’49”
2位 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツXRG) +29”
3位 レムコ・エヴァネポエル(ソウダル・クイックステップ) +1’29”
4位 ヨナス・ヴィンゲガード(ヴィズマ・リースアバイク) +1’46”
5位 マッテオ・ヨルゲンセン(ヴィズマ・リースアバイク) +2’06”
6位 ケヴィン・ヴォークラン(アルケアB&Bホテルズ) +2’26”
7位 オスカル・オンレイ(ピクニック・ポストNL) +3’24”
8位 フロリアン・リポウィッツ(レッドブル・ボーラハンスグロエ) +3’34”
9位 プリモズ・ログリッチ(レッドブル・ボーラハンスグロエ) +3’41”
10位 トビアス・ヨハンセン(Uno-Xモビリティ) +5’03”
H.Moulinette












