ジロ・デ・イタリア第20st:まさかの大逆転!サイモン・イェーツが2018年にジロを失ったフィネストレでアタックを決め逃げ切り、デル・トロとカラパズは駆け引きが失敗で失速、ハーパー逃げ切り勝利

3週間にわたるレースの最後に、まさかの結末が待っていた。駆け引きはときには自ら落とし穴を掘ることになるのだ・・・。昨日まで圧倒的優位に立っていた総合リーダーのアイザック・デル・トロ(UAEチームエミレーツXRG)、そして果敢なアタックを仕掛け続けたリチャード・カラパズ(EFエデュケーション・イージーポスト)の2人はこの日もアタックから優位に展開を進める。しかしこの日はサイモン・イェーツ(ヴィズマ・リースアバイク)がこの二人に追いつきそのままアタックを仕掛ける。カラパズは一度はこれを潰すが、2度目のアタックはデル・トロに反応させようと傍観すると、そのままサイモン・イェーツの姿は遠ざかっていった。

©Giro d’Italia
デル・トロは徹底してカラパズマーク、総合3位のサイモン・イェーツを負うことはしない。対してカラパズからしても、狙うは総合優勝であり、デル・トロを振り切らねばそれは達成できない。しかしデル・トロはただカラパズに張り付き、一切動こうとしない。ここでカラパズはは駆け引きに出る。カラパズは猛追をやめ、デル・トロ自身に総合リーダージャージを守るための牽引をさせようと試みるが、これをデル・トロが拒否、2人は上りで完全スローダウンをしてしまい、一度は遅れた総合4位のデレク・ジー(イスラエル・プレミアテック)が簡単にそれに追いついてしまう。
このカラパズの博打、そして動かなかったデル・トロ、これが結局致命的となる。それに対し2018年にセストリエール峠でクリス・フルーム(当時チームスカイ/現在イスラエル・プレミアテック)に総合リーダージャージを奪われたサイモン・イェーツはその悪夢を払拭するかのように躊躇なく踏み続け、フィネストレの頂上通過時点で2分以上のタイム差をつけバーチャルで総合リーダーの座を奪い取る。それでも追走のペースは上がらない。カラパズに牽引させたいデル・トロ、そしてそれを拒むカラパズ、タイム差は下りに入ってもさらに広がっていく。

©Giro d’Italia
そしてその下りで逃げ集団に乗っていたワウト・ファン・アールト(ヴィズマ・リースアバイク)がこれ以上ないタイミングでサイモン・イェーツに合流を果たし、ここからパワフルな牽引を見せ更にそのタイム差を広げていく。タイム差はあっという間に4分差まで広がり、デル・トロはカラパズに話しかけるが、カラパズは黙って首を横に振る。これで勝負あり、サイモン・イェーツはここからゴールのセストリエール峠の上りでさらにタイム差を広げ、結局5分以上のタイム差をつけステージ3位でゴール、そして大逆転で総合リーダージャージのマリア・ローザを手にした。

©Giro d’Italia
この日のステージはEFエデュケーションイージーポストが主導権を握り続け、UAEチームエミレーツXRGのアシスト勢を削っていく。しかしこの2チームの最大のミスは、お互いを意識した戦略の中で、先行する逃げに誰も送り込まなかったことだろう。対してヴィズマ・リースアバイクは逃げに最強アシストのファン・アールトを送り込み、そしてメイン集団の走りはEFエデュケーション・イージーポストとUAEチームエミレーツXRGに便乗する形を取った。これが結果的に戦略的優位をサイモン・イェーツにもたらした。2018年は圧倒的な強さを見せ総合リーダージャージを守り続けたが、今年はステージ勝利が一度もなく、圧倒的な走りを一度も見せないまま、勝負どころのこのステージでの一発勝負に持ち込んだ事が功を奏した。

©Giro d’Italia
そんなステージは序盤から逃げ続けたクリス・ハーパー(ジェイコ・アルーラ)、そしてアレッサンドロ・ヴェッレ(アルケアB&Bホテルズ)の2人が最後まで逃げきって見せた。最後はそろって独走となったが、ハーパーはこれでチームに今大会2勝目をもたらした。ヴェッレは最後はサイモン・イェーツが背後まで迫ったが、何とか粘り切りステージ2位、チームにとっても大きな結果となった。

©Giro d’Italia
サイモン・イェーツ(ステージ3位、総合1位)
「言葉がないよ。カラパズとデル・トロの2人から何とか距離を取ろうと仕掛けたんだよ。脚が良く回っていたからね。そしてファン・アールトが待ってくれていたのが決め手だったね。・・・とにかく感無量だよ・・・。」
アイザック・デル・トロ(総合2位)
「満足はしているよ。もちろん最終日に総合リーダージャージを失ったのは残念だけど、こういうことがあるのがレースなんだよ。サイモン・イェーツが一番賢かったんだよ。サイモン・イェーツがアタックをしたとき、僕も対応はできたんだけど、一番総合が近いのはカラパズだったから、彼をマークしたんだよ。無理してオーバーペースになって失速したことが今大会もあったから、マイペースで行くことにしたんだ。カラパズが総合2位だから負うべきだと思ったんだ、だから彼に”僕は牽引しないよ”と言ったんだ。そうしたら彼はペースを落としたんだ。僕にも追走を求めたんだよ。上りは長いし僕も脚を残しておきたかったから自分が引くのは嫌だったんだ。でもタイム差が広がってしまったんで頂上手前で流石に引いたりもしたし、下りでも追うかとカラパズに聞いたんだけど、拒否されたんだよ。あとはチームを待ってゴールするだけだったよ。総合優勝できるだけの脚は残っていたよ。でも勝負ってこういうもんだよね。優勝を逃したことよりも、事前の想定以上の総合2位にハッピーだよ。」
リチャード・カラパズ(EFエデュケーション・イージーポスト)
「今日は脚もあったし戦略的にも僕らは最強だったはず。でも勝ったのは一番賢かった人間だよ。デル・トロはあんな走りをして総合優勝を失った。彼はレースというものをわかっていないね。だから賢い人間が勝利を手にしたんだよ。」
アダム・イェーツ
「正直どうしてこうなったのかわからないよ。でもがっかりはしていない。デル・トロはまだ21歳、これからの選手だからね。僕らはチームとして今大会うまく機能し続けたよ。でもそれがポガチャルや、今日の僕の兄弟サイモンのように力で押し切られたら、結果はこうなるんだよね。でもこれで頭を下げてはならないと思う。胸を張って前を向くべきだと思うよ。」

©Giro d’Italia
ジロ・デ・イタリア第20ステージ順位
1位 クリス・ハーパー(ジェイコ・アルーラ) 5h27’29”
2位 アレッサンド・ヴェッレ(アルケアB&B ホテルズ) +1’49”
3位 サイモン・イェーツ(ヴィズマ・リースアバイク) +1’57”
4位 ジャンマルコ・ガロフォリ(ソウダル・クイックステップ) +3’32”
5位 レミー・ロシャス(グルーパマFDJ) +3’57”
6位 マルティン・マルセルーシ(VFグループバルディアーニCSFファイザネ) +4’31”
7位 カルロス・ヴェローナ(リドル・トレック)
8位 マックス・プール(ピクニック・ポストNL) +6’45”
9位 アイザック・デル・トロ(UAEチームエミレーツXRG) +7’10”
10位 ジュリオ・ペリッツァーリ(レッドブル・ボーラハンスグロエ)
ジロ・デ・イタリア総合順位
1位 サイモン・イェーツ(ヴィズマ・リースアバイク) 79h18’42”
2位 アイザック・デル・トロ(UAEチームエミレーツXRG) +3’56”
3位 リチャード・カラパズ(EFエデュケーション・イージーポスト) +4’43”
4位 デレク・ジー(イスラエル・プレミアテック) +6’23”
5位 ダミアーノ・カルーソ(バーレーン・ヴィクトリアス) +7’32”
6位 ジュリオ・ペリッツァーリ(レッドブル・ボーラハンスグロエ) +9’28”
7位 イーガン・ベルナル(イネオス・グレナディアス) +12’42”
8位 アイナー・ルビオ(モビスター) +13’05”
9位 ブランドン・マクナルティ(UAEチームエミレーツXRG) +13’36”
10位 マイケル・ストーラー(チュードル・プロサイクリング) +14’27”
H.Moulinette