アムステルゴールドレース2025:独走のポガチャルを猛追で捉えたエヴァネポエル、それに食らいついていったスケルモースが三つ巴のスプリントを制して大金星!

いよいよ春のクラシックも後半戦、アルデンヌクラシックが開幕した。その最初のレースはビール会社がスポンサーで、表彰台でシャンパンではなくビールが登場することでも有名なアムステルゴールドレースだ。アップダウンの激しい丘陵地帯を駆け抜けるレースが多く、ここ5大会の優勝者も、マシュー・ファン・デル・ポエル(アルペシン・ドゥクーニンク)、ワウト・ファン・アールト(ヴィズマ・リースアバイク)、ミカル・クウィアトコウスキー(イネオス・グレナディアス)、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツXRG)、トム・ピドコック(Q36.5プロサイクリング)と全員が自転車競技での新旧世界チャンピオンという強豪が制している大会だ。しかも毎年コース設定が変わることで、連覇が難しくなっているのも特徴だ。

©Amstel Gold Race
そして今年の大会は今シーズン絶好調の世界チャンピオンのポガチャルと、復活してきた新世代エースの一角レムコ・エヴァネポエル(ソウダル・クイックステップ)、さらにはクラシックスペシャリストだが今シーズンここまで調子が上がらないファン・アールトによる三つ巴のバトルが予想されていた。しかしそんな面々をから勝利を奪い去ったのはマティアス・スケルモース(リドル・トレック)だった。昨年度のブエルタ・ア・エスパーニャで総合5位、ステージレースでの総合優勝経験もある24歳が、クラシックで優勝候補たちを抑えて大金星を挙げた。

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255㎞のレースが大きく動いたのは残り47㎞、ポガチャルがアタックを決め独走態勢へと持ち込む。ポガチャルの十八番の長距離単独逃げは決まる確率が極めて高く、追走集団では誰が積極的に追うのかでお見合いとなることも、独走を許す要因となっていた。だがこの日のレースでは様相が異なっていた。先日復帰戦のブラバンツ・ペイユを制したエヴァネポエルは、集団の他の選手の動きなどお構いなしに自らの力で追走を始める。これがポガチャルの独走に匹敵する走力で容赦なく追走集団を削っていった。そしてタイム差も開くことなく20秒前後で推移、そしてこの動きにただ一人対応してきたのがスケルモースだった。

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残り15㎞で20秒差だったが、残り10㎞では10秒差となり、追いつくのは時間の問題となった。グランツールでもポガチャルのライバルとなるエヴァネポエルにとっては、超級山岳よりは丘陵の激坂のほうがポガチャルを上回れる可能性が高く、その通りの展開となる。しかしそのエヴァネポエルの背後には、何とか食らいついているスケルモースが不気味な存在となっていた。

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残り8㎞、遂にエヴァネポエルがポガチャルを捉える。するとそのまま一気に加速してエヴァネポエルが仕掛ける。ポガチャルはしっかりと対応するが、ここで二人の駆け引きでペースが落ちかけるが、今度は後続に追いつかれるのを嫌ったスケルモースがペースを上げていく。そのまま迎えた残り2.4㎞でのカウベルグだったが、これも決定的な差をつけるには至らず、3人の戦いはまさかのゴールスプリントへと持ち込まれた。先行したのはエヴァネポエル、そしてそれにポガチャルが反応したが、最後尾のスケルモースはその二人の背後からスプリントを開始すると、そのまま横並びでゴールラインを駆け抜けた。写真判定の結果、タイヤ2本分ほどの差でスケルモースに軍配、予想外の男が最強の2人、エヴァネポエルとポガチャルを撃破するという大金星を挙げて見せた。

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「脚がいっぱいいっぱいで引けない、とエヴァネポエルに言い続けていたんだよ。でもどうしても表彰台に上りたかったので、駆け引きが始まった時は引いたんだよ。表彰台でも十二分な結果だったけど、最後はがむしゃらにスプリントをしたよ。エヴァネポエルとポガチャルがベストならインドリでコース右側に展開してしまったので、左にいくしかなかったんだ。まさか勝てるなんて夢にも思っていなかったよ!とにかく信じられないよ!1か月ほど前に亡くなった祖父にこの勝利を捧げるよ。」スケルモースは誰も予想すらしなかった世界チャンピオンと五輪チャンピオンというロード界の2強を力でねじ伏せての勝利にも、実感がわかないようだった。
ミラノ・サンレモ、パリ~ルーベと勝利を逃してきたポガチャルは、またしても勝利を逃して表彰台獲得にとどまった。これでも十分すぎる実績ではあるのだが、常に勝利を狙う姿勢を見せ攻撃し続ける男には、さすがに連戦での疲れが見え隠れしていた。「後ゴールが5m手前だったらよかったのにね。悔しいよ。アラフィリップと仕掛けたときに、彼がそのままもっと一緒に走ってくれると思ったんだけど、あまりにも速く単独になってしまったからね。エヴァネポエルとスケルモースの2対1になってからは、向かい風もあってタイム差を広げられなかったよ。」ポガチャルは珍しく弱音にも近い状況説明を口にした。
3位には終わったがエヴァネポエルは順調なようだ。クラシック前半戦を休まざるを得ない状況で出遅れたが、その分脚はフレッシュであり、残りのクラシックでも大暴れしてくれそうだ。
ファン・アールトはこのレースでも3人についていけずに追走集団の先頭でゴールし4位、ポガチャルらのライバルと呼ぶには今シーズンの実力では難しそうだ。また昨年度覇者のピドコックは9位と伸びなかった。

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アムステル・ゴールドレース2025順位
優勝:マティアス・スケルモース(リドル・トレック) 5h49’58”
2位:タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツXRG)
3位:レムコ・エヴァネポエル(ソウダル・クイックステップ
4位:ワウト・ファン・アールト(ヴィズマ・リースアバイク) +34”
5位:マイケル・マシューズ(ジェイコ・アルーラ)
6位:ルイ・バレ(インターマルシェ・ワンティ)
7位:ロメイン・グレゴワール(グルーパマFDJ)
8位:ティス・ベノート(ヴィズマ・リースアバイク)
9位:トム・ピドコック(Q36.5プロサイクリング)
10位:ベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト)
H.Moulinette