ストラーデ・ビアンケ2025:落車を喫したポガチャルがピドコックとの真っ向勝負を制して史上初の大会連覇で通算3勝目、ピドコックは力尽き2位、ウェレンスが追走から飛び出しUAEが1-3


©Strade Bianche
「白い悪魔」全行程の3分の1が未舗装路という悪路のレース、ストラーデ・ビアンケは今年も刺激的な展開となった。昨年度は世界チャンピオンのタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツXRG)が80㎞以上を独走するという圧倒的な強さで2度目の勝利を飾ったが、今年の注目は大会史上誰も成し得ていない連覇をポガチャルが成し遂げるかだった。そしてその期待通り、ポガチャルがまたしても独走で見事に大会連覇を達成てみせた。途中舗装路の高速コーナーで単独落車、路面を滑った上に草むらに転落し1回転、破れたジャージで戦列復帰した男はそこからピドコックに合流を果たすと、残り18.8㎞での15%の勾配の未舗装路激坂区間で座ったままペースアップ、あっという間にポガチャルを置き去りにして一人旅での勝利をもぎ取って見せた。これが通算3勝目、史上初の連覇、更には通算獲得標高3900mの難コースを史上最速の平均時速40.7㎞で駆け抜けるという圧倒的なパワーで、自らの勝利数を通算92勝に伸ばした。

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長丁場のレースが動いたのは、昨年度ポガチャルが仕掛けたポイント近く、だが仕掛けたのはポガチャルではなくトム・ピドコック(Q36.5プロサイクリング)だった。新天地で軽やかに躍動する男は、「勝ちに来た」と語る通り、明確に勝利を視野に入れてポガチャルに対して揺さぶりをかける。そしてこの仕掛けがきっかけとなりポガチャル、ピドコック、コナー・スイフト(イネオス・グレナディアス)の3人がレースの先頭へと踊りでる。

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ポガチャルも無理にピドコックを引き離すような仕掛けはせず、更にその背後の追走もベン・ヒーリー(EDエデュケーション・イージーポスト)やペッロ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス)らとの差も1分半前後で推移したまましばらくの膠着状態となる。しかし残り49㎞で思わぬハプニングが起きる。舗装路区間の下り左カーブで、ポガチャルの後輪がスリップしそのまま落車、ハイスピードのままバイクと共に路面を滑り、そのまま路肩の草むらへと落ちてしまう。更にはそこが段差だったこともありポガチャルはさらに空中で1回転してしまう。背後にいたポガチャルはバイクコントロールでこれを回避しそのまま通過、スイフトは避けきれずに道路わきに泊まる形となった。

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ポガチャルは通り過ぎて振り返り状況を確認、間一髪だったとばかりに軽く首を左右に振る。ポガチャルはすぐさま自分のバイクまで戻ると、チームスタッフが用意した新しいバイクを受け取らずそのまま落車したバイクで再スタート、しかしバイクは損傷しており、結局交換を余儀なくされた。ピドコックにとっては千載一遇のチャンス化に思われたが、ピドコックはここで加速をしないで一定のペースで走り続ける。猛追するポガチャルは先に戦列に復帰したスイフトを捉え、さらに置き去りにし、僅か3㎞ほどでピドコックへと合流を果たした。ピドコックは明らかに意識的にポガチャルを待っており、合流後半身に擦過傷を追っているポガチャルへと言葉をかける。
そしてここからこの二人はそのままペースを落とすことなく走り続ける。一方でスイフトは追走集団へと呑み込まれていく。この集団にはポガチャルのアシストを務めていたティム・ウェレンス(UAEチームエミレーツXRG)がおり、追走集団のペースアップを阻むアンカー役として睨みを利かせていた。

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そして迎えた残り18.8㎞、最大勾配15%の激坂区間でポガチャルが座ったまま一気にペースを上げる。腰を上げてダンシングで対応したピドコックだったが、あっという間にその差は開いてしまう。白い土煙の中で、ポガチャルの背中はあっという間に消えていった。ここから3㎞で30秒の差が開いてしまう。そしてその背後ではウェレンズが満を持して追走集団からアタック、追走集団でひたすら足を温存し続けた男はあっという間に3位で独走態勢を築くと、ピドコックに追いつくべく猛チャージを見せる。残り11㎞を切るとポガチャルとピドコックの差は1分にまで広がり、ピドコックとウェレンスの差も40秒ほどとなる。そしてこのタイム差はこのままゴールまで続いた。残り3㎞を切り勝利を確信したポガチャルは、沿道の観客とハイタッチをしたりしながら笑顔で町中の最後の激坂を余裕で上っていった。最後はペースを落としてガッツポーズでゴール、偉大な男がまた一つ勲章を積み重ねた。ピドコックは粘り切りそのまま2位、グランツールのワイルドカード争いをしているチームに貴重な結果をもたらした。そしてウェレンスも大会での自身の過去最高順位に並ぶ3位で表彰台の一角を獲得した。UAEチームエミレーツXRGはチームとしてワン・スリーフィニッシュを達成した。

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「ゴールラインを超えるまでは楽しかったよ。アドレナリンが出尽くしたんで、今は徐々に痛みが来ているよ。でも勝てたことには変わりないし怪我の具合が酷くないことを願いたいし、実際そこまで酷くはないと思うよ。まああそこではただのオーバースピードだよね。このコースを20回近くも走ってるしよくわかってはいたんだけどね。でもそれでもああいったミスはするんだよね。正直あの瞬間は自分が大丈夫なのかも判断できなかったよ。とりあえずバイクにまたがって再スタートしたら、壊れていたんだよ。だから交換するしかなかったね。落車したときは、結構肉体的なダメージが残って出力が上がらなくなったりするもんなんだけど、でも今回は最後まで走り切れてよかったよ。」ポガチャルはレース後饒舌に語ったが、痛みのせいか表情は引きつっていた。
また2位に終わったピドコックは、「今までの中で一番惜しかったね。でも惜しいでは勝てない。調子もよかったし、コンディションもよかった。彼との一騎打ちもここまで長いのは初めてだったし楽しかったよ。ポガチャルが仕掛けたときに、なんとなく待っている感があったからそれに乗ったんだよ。そして彼が落車したときも、待つべきだと思ったから待ったんだ。でも最終的な結果にはちょっとがっかりだね。彼はスーパーマンかな?僕だったら間違いなく落車の影響が出ると思うよ。彼を解剖してみても、ただの人間という事がわかるだけなんだろうけどね(笑)」と語り、あまりの次元の違いう走りに苦笑いを見せた。
果たして今年のパリ~ルーベにポガチャルは出場するのか、それが気になるところだ。

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ストラーデ・ビアンケ2025順位
優勝 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツXRG) 5h13’58”
2位 トム・ピドコック(Q36.5プロサイクリング) +1’24”
3位 ティム・ウェレンス(UAEチームエミレーツXRG) +2’12”
4位 ベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト) +3’23”
5位 ペッロ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス) +4’20”
6位 マグナス・コルト(UNO-Xモビリティ) +4’26”
7位 ジャンニ・フェルメールシュ(アルペシン・ドゥクーニンク) +4’29”
8位 ミカエル・ヴァルグレン(EFエデュケーション・イージーポスト) +4’37”
9位 レナート・ファン・イートフェルト(ロット) +4’47”
10位 ロジャー・アドリア(レッドブル・ハンスグロエ) +5’06”
H.Moulinette