世界選手権トラック競技2024:日本勢躍動!山﨑賢人が37年ぶり2人目の競輪世界王者に!窪木一茂が日本初のスクラッチ世界王者に!男子スプリント、佐藤水菜がそれぞれ日本初の銅
日本では競輪が公営競技のイメージだけが定着しているが、世界では趣味としても競技としても人気の自転車競技がトラック競技だ。KEIRIN(競輪)はもはや世界標準用語として通用するほどであり、趣味で気軽にトラックを楽しむ人たちが多い。世界選手権スプリントで10連覇を達成した中野浩一の名も、今でもレジェンドとしてその名を口にする人が多いほどだ。それほどまでに人気の競技であるトラックの世界選手権で、日本勢が躍動している。オリンピックでは全くいいところなく終わった日本勢だが、自転車競技最高峰の世界選手権で二つの金メダルと二つの銅メダルを獲得した。
まずは競輪で37年ぶり、日本人2人目の世界チャンピオンの輝いたのは山﨑賢人だ。競輪は少人数で競い合う競技で着順で競われる。通常国際大会では各組6人での勝負となり、今大会も1回戦から決勝まで、最大で4レース戦うこととなる。大本命は史上最強のトラック選手の呼び声高く、オリンピックと世界選手権で18個の金メダルを獲得しているハリー・ラブレイセン(オランダ)、世界選手権の競輪でも過去3つの金メダルを獲得しており、先日のパリ五輪でも競輪で金メダルを獲得している。 ボンバーヘッドアフロの男、山﨑賢人はオリンピック出場は逃したが、今大会へはアジアチャンピオン枠で出場している。1回戦2着、2回戦3着で準決勝へと進むと、準決勝でも2着で決勝へと駒を進めた。そして迎えた決勝レース、そこにラブレイセンの姿はなかった。なんと準決勝で敗退を喫したのだ。純粋に力だけでは勝てないのが競輪であり、駆け引きと位置取りという要素が、思わぬ展開を生み出すことがあるのだ。
ラブレイセン不在となれば、主役となるのは昨年度の競輪覇者のケヴィン・キンテロ(コロンビア)だペースメーカーのモトバイクが退避する残り3周を前に展開が動き出す。すると残り2周で3番手につけた山﨑は、そこから最後尾から順位を上げてきたキンテロをぴたりとマークする。最終周回、そのキンテロをリードアウトに使い一気にペースを上げた山﨑は、そのままアウトからキンテロを追い抜きにかかる。外側から抜くという事はそれだけ遠回りすることになるため、力がなければ勝つことはできないが、山﨑はそのまま一気に先頭に躍り出るとそのまま先頭でゴール、1987年の本田晴美以来となる世界チャンピオンとなった。
競輪順位
金メダル 山﨑賢人
銀メダル ミカエル・ヤコブレフ(イスラエル)
銅メダル ケヴィン・キンテロ(コロンビア)
もう一つの金メダルは男子スクラッチで窪木一茂が掴み取った。35歳のナショナルチーム最年長であり、実績は間違いなくナンバーワンだ。ロードの選手としても走りながらトラック競技も行い、今は競輪選手としても活躍している窪木は、過去2022年、2023年とこのスクラッチで銀メダルを獲得していた。スクラッチとはエンデュランス競技の一種であり、特定の周回数の後にフィニッシュラインを超えた順位を競う競技だ。わかりやすく言えば、その先頭でゴールしたものが勝者、というロードレースのトラック版ともいえる競技だ。長距離種目であり、集団から飛び出しライバルたちを周回遅れにすることもできるのが特徴だ。そしてこれが勝負のカギともなる。
今大会は60周(15㎞)で行われ、ロードではおなじみのエリア・ヴィヴィアーニら24名が顔を揃えた。レースは穏やかに進んでいったが、残り35周で展開が一気に動く。2名が飛び出し、メイン集団を周回遅れにするべくハイペースで刻んでいく。しかしその逃げがメイン集団に追いつく前の残り25周で窪木が飛び出していく。そしてここから次々と選手たちが飛び出していく。続々とラップ(メイン集団を周回遅れにすること)が発生する中、残り14周で主催国デンマークのトビアス・ハンセンが飛び出していく。これに遅れて飛び出した窪木はハンセンがメイン集団へ追いつきラップとした段階でレースの先頭扱いとなる。そして窪木はイギリスとドイツの選手と共に3名でラップを成功させると、そのタイミングで集団全体の緊張感が緩んだ。
このタイミングでアレックス・フォーゲル(スイス)がアタックを敢行すると、またしても窪木が追走で飛び出していく。フォーゲルはこの時点でラップをしていない選手だったことで、またしてもレースの先頭は窪木となり、ここから残り5周、単独での逃げ切りを目指すこととなった。そして残り周回を一人で逃げ続けた窪木が、後続と1/4周の差をつけて単独ゴール、ついに念願の日本人初の世界チャンピオンの座をつかんだ。
スクラッチ順位
金メダル 窪木一茂
銀メダル トビアス・ハンセン(デンマーク)
銅メダル クレモン・プティ(フランス)
銅メダルを獲得したのは男子チームスプリントと女子スプリントだ。男子チームスプリントはパリ五輪でも5位に入り日本記録を叩き出したメンバー、長迫吉拓、太田海也、小原佑太がそのまま出場した。チームスプリントでは、出場した15チームでまずTT形式で順位を決めると、その中でトップ8が勝ち抜けとなり1回戦へと進む。1回戦からは予選の順位に応じて1対1の勝負での勝ち上がりとなり、そのタイムでメダル争いのラウンドを行うこととなる。つまり勝負に勝った上で良いタイムを出さねばならないのだ。予選3位で通過した日本は難なく1回戦で勝利した。そしてこの1回戦のタイムでも3位となり、イギリスと銅メダルを賭けた勝負に挑むこととなった。第一走は0.3秒の遅れをとったものの、第2走で逆転すると、最終走者の小原がそのままの勢いでゴール、日本のチームスプリントで初となるメダルをもたらした。
チームスプリント順位
金メダル オランダ
銀メダル オーストラリア
銅メダル 日本
女子でもスプリント初のメダリストが誕生した。スプリントは2本先取の3本勝負となる。予選5位の佐藤は、まず準決勝で予選1位のエマ・フィヌカン(イギリス)と対決するが2本先取され敗北、銅メダル争いへ挑むこととなった。そして迎えた銅メダルを賭けた対決、今度は予選2位通過のソフィー・ケープウェルと対決するとここで勝負巧者ぶりを見せる。1本目を先取して迎えた2本目、1周回目でケープウェルが駆け引きをしようとバンク上部に移動するが、そのタイミングで躊躇なく先行していく。慌ててケープウェルはそれを追うが、最後まで追いつくことができなかった。これで勝負あり、2本目も制した佐藤が日本女子初のスプリントメダリストとなった。
女子スプリント
金メダル エマ・フィヌカン(イギリス)
銀メダル ヘティ・ファン・デ・ヴォウ(オランダ)
銅メダル 佐藤水菜
H.Moulinette