世界選手権男女エリートロード:男子は圧巻のトリプルクラウン達成、残り100㎞で仕掛けたポガチャルが52㎞を独走勝利!女子はコペッキーが6人でのスプリントを制し連覇!
世界選手権最終日、世界の注目はタデイ・ポガチャル(スロベニア)に集まっていた。ジロ・デ・イタリア、ツール・ド・フランスを制し、ブエルタ・エスパーニャでの史上初のグランツールスイープを狙うかに思われたが、あえてそれを捨ててまで選択したのはこの世界選手権でのトリプルクラウンだった。過去にはエディ・メルクスとステファン・ロッシュしか達成していないその偉業を、ポガチャルは37年ぶりに難なくあっさりとやってのけた。プレッシャーなどどこ吹く風、「攻撃は最大の防御」を徹底して貫く男は、世界の大舞台でもそれを実践、そして50.5㎞を独走し続け世界の頂点にたった。念願だった世界チャンピオンの証アルカンシエル、そのジャージを手にしたポガチャルは何度となく拳を天に突き上げた。これで今シーズンの勝利数も23にまで伸びた。
長丁場のレース、だからこそ早めの仕掛けの予感と予兆はあった。先行する逃げがリズムを作る中、メイン集団もその数を周回コースに入ってからはラップを重ねるごとに減らしていく。その集団を牽引するのはレムコ・エヴァネポエル擁するベルギー、スロベニア、そして大会連覇を狙うマシュー・ファン・デル・ポエル擁するオランダだった。だがこの段階ですでにスロベニアの作戦は着々と進行していた。逃げの集団に乗っていたのはヤン・トラトニック(スロベニア)、これが大きなカギとなった。
先行していた逃げとの差が縮まってきたタイミングでポガチャルが残り100㎞以上を残してアタックを仕掛ける。あまりにも早い段階での仕掛けに、エヴァネポエル、ファン・デル・ポエル共に動かない。一旦はロベルト・バジョーリ(イタリア)が協調するが、あっという間に脱落、ここからポガチャルが単独でメイン集団との差を開いていく。無線が使えない今大会、選手たちはチーム関係者らに大声でコミュニケーションをとるが、これをしっかりと行っていたのはスロベニアだった。
ドンピシャのタイミングでトラトニックは先頭集団から番手を下げポガチャルが来るのを待つと、合流した二人はそのまま一気に先頭集団まで追いついてしまう。この段階で状況が危険と察したベルギーは猛追を始めるが、その差はおよそ1分まで広がってしまう。ポガチャルはそのまま先頭集団の先頭に出ると、上りでは加速、下りでも積極的に先頭でペースを上げ、平坦ではトラトニックや普段はチームメイトであるジェイ・ヴァイン(オーストラリア)やパヴェル・シヴァコフ(フランス)らにペースを委ねる。
これにより後続のメイン集団はタイム差を縮めることができずに、一人、また一人とベルギーとオランダはアシストを失っていく。僅かだがその差が縮まり40秒ほどとなると、ポガチャルの号令と共にトラトニックが捨て身の走りで先頭集団をペースアップ、そして残り77.7.㎞でポガチャルがまたしても加速しアタックを仕掛ける。これにより先頭はポガチャルとシヴァコフの2人のみとなってしまう。国籍は違えど二人は気の知れたチームメイト、シヴァコフも本来は母国のエースをアシストする立場でありながら、ポガチャルと協調、自らが勝利を狙いに行くかのような動きを見せつつポガチャルを援護する。これによりメイン集団との差はジワリと広がっていく。
そしてこれによりエヴァネポエルはついに焦りを見せる。自らがアタックを仕掛けて集団のペースアップを促すが、皆エヴァネポエルに追いついた瞬間に速度を緩めてしまう。先頭のポガチャル追走に協調を促したい思惑に、誰も乗ってこない。これにはエヴァネポエルは感情をあらわにし、ライバル選手たちに向かって「追わないのか!」と声を上げる。それでもエヴァネポエルを脱落させるほうがメリットがあると踏んだ各チームの選手たちは、エヴァネポエル自身に力を使わせる。これにより気持ちが切れたのか、苛立ちを露骨に見せたエヴァネポエルはこの後目立った動きを取らない様になっていく。
そんな中ベン・ヒーリー(アイルランド)、トム・スクインス(ラトヴィア)、オスカル・オンリー(イギリス)の3名がメイン集団から飛び出しポガチャルを追走し始める。この段階でポガチャルとヒーリーらが40秒差、エヴァネポエルとファン・デル・ポエルとの差は1分ほどで推移し続ける。タイム差は常に薄氷の1分前後、安全圏ではないと踏んだポガチャルは、ついに残り50.5㎞で共闘してきたシヴァコフを置き去りに一人旅へと飛び出していく。今シーズンストラーデ・ビアンケでの80㎞独走を筆頭に、何度となく見てきたポガチャルの独走劇場がここで開幕する。
タイム差は1分差からほとんど広がることはないが、縮まることもない。今年のコースは総獲得標高が4000m越え、周回ごとに激坂とダウンヒルが繰り返され、テクニカルなコーナーが続きに道路幅が細くなったりを繰り返すため、なかなか集団の利が発揮できない。
しかし地元のマルク・ヒルシ(スイス)が小競り合いが繰り返され続けたメイン集団から豪快なカウンターアタックを決めると、一気に先行していたヒーリーとスクインスに合流、更にこれにエヴァネポエル、ファン・デル・ポエル、今年のブエルタで躍動したベン・オコナー(オーストラリア)、エンリック・マス(スペイン)という強力な7人が合流すると、ポガチャルとのタイム社39秒にまで縮まる。これで万事休すかと思われたが、ポガチャルがここからまたしても超人的な粘りを見せ、タイム差を今一度広げにかかる。すると強力なメンバーが顔を揃えたことで、追走への躊躇が生まれる。心理的に「力を使ったほうが損だ」という考えが、目の前のポガチャルの背中を遠ざけてしまった。
僅か1分前後のタイム差を一人で守り抜いたポガチャル、勝利を確信すると何度もガッツポーズを雄たけびを上げながらゴール、狙い通りの世界チャンピオンジャージ獲得となった。そして2位には集団からする率抜け出したオコナーが入り、ブエルタ・ア・エスパーニャでの驚きの総合2位に続いて、殊勲の銀メダル獲得となった。そして集団スプリントとなった銅メダル争いでは昨年度覇者のファン・デル・ポエルが切れ味鋭く3位、何とかメダル確保した。エヴァネポエルは5位に沈み、オリンピックに続いての個人TTとの2冠は成らなかった。
世界選手権男子エリートロード
金メダル タデイ・ポガチャル(スロベニア) 6h27’30”
銀メダル ベン・オコナー(オーストラリア) +34”
銅メダル マシュー・ファン・デル・ポエル(オランダ) +58”
4位 トム・スクインス(ラトビア)
5位 レムコ・エヴァネポエル(ベルギー)
6位 マルク・ヒルシ(スイス)
7位 ベン・ヒーリー(アイルランド) +1’00”
8位 エンリック・マス(スペイン) +1’01”
9位 クイン・シモンス(アメリカ) +2’18”
10位 ロメイン・バルデ(フランス)
前日に悪天候の中で行われた女子エリートロードは、悪コンディションの中6名によるゴールスプリントまで持ち込まれた。その結果個人TTでも5位に入ったロッテ・カペッキー(ベルギー)が見事ここ大一番での強さを発揮し、スプリント勝利で世界選手権連覇を達成した。銀メダルを獲得したのは個人TT銅メダルのクロエ・ダイガート(アメリカ)、そして銅メダルはエリザ・ロンゴ・ボルギーニ(イタリア)が獲得した。上りでは後れを取り苦戦したコペッキーだったが、「震えるほど寒かった」という下りで抜群の速さを見せゴール勝負にまで持ち込む元に成功した。ゴール前の駆け引きとなれば、トラック競技で培った勝負勘が炸裂、先行したボルギーニを背後からとらえたカペッキーが2012~2013年のマリアナ・フォス(オランダ)以来の連覇となった。
世界選手権女子エリートロード
金メダル ロッテ・カペッキー(ベルギー) 4h05’26”
銀メダル クロエ・ダイガート(アメリカ)
銅メダル エリザ・ロンゴ・ボルギーニ(イタリア)
4位 リアン・リッパート(ドイツ)
5位 デミ・フォレリン(オランダ)
6位 ルビー・ローズマン・ガノン(オーストラリア)
7位 ジャスティン・ゲキエレ(ベルギー) +1’06”
8位 マリアンヌ・フォス(オランダ)
9位 リエンヌ・マーカス(オランダ)
10位 ボランカ・ヴォス(ハンガリー) +3’00”
H.Moulinette