ブエルタ・ア・エスパーニャ2024第16st:コヴァドンガ劇場でドラマ連発!ソレルが何度遅れるも粘り勝利、ファン・アールトが山岳賞ポイント賞加算も怪我リタイア、オコナーが5秒差で首位キープ
ドラマが起きる山岳、超級山岳コヴァドンガは予想通り様々なドラマを演出してくれた。ステージ優勝争い、山岳賞争い、ポイント賞争い、そして総合争いのその全てでドラマチックな展開が待っていた。しかしそこには明暗もくっきり、その最大の犠牲者となってしまったのはワウト・ファン・アールト(ヴィズマ・リースアバイク)だった。春先のレースで鎖骨を骨折し前半戦を棒に振ったが、ツール・ド・フランスでようやく復帰を果たすと、パリ五輪でも結果を残し、このブエルタ・ア・エスパーニャではチームから完全に自由が与えられての出場となった。そして今大会、ポイント賞で独走態勢を築き、そして山岳賞でもこの日の逃げに乗り1級山岳2つを立て続けに制して首位をがっちりとキープしていた。そしてそのまま先頭集団で最後のコヴァドンガを迎えるはずだった。
しかしそこで思わぬ落車に見舞われてしまった。この日すでに一度序盤で落車をしていたファン・アールトは先頭から二人目を走っていたが、目の前のフェリックス・アングルハート(ジェイコ・アルーラ)が落車、それを避けたかのように見えた。しかしバランスを崩したファン・アールトはそのまま体の右側、右腕と右足を岩場の斜面に強く接触させてしまう。出血しながら何とか再スタートを切ったが、右足の痛みからビンディングを嵌めることも漕ぐことも出来ずにストップ、バイクを降りた。その後チームカーのトランクに座って治療を受けるも、痛みに耐えかねてうめき声をあげ、さらには血の気が失せた表情で呆然としていた。その後病院へと直行した。幸いなことに骨折こそなかったものの、傷が深く、世界選手権に間に合うかは微妙な状況だ。また稀な山岳賞ジャージとポイント賞ジャージのダブル獲得狙っていたが、それらを保持したままのまさかのリタイアとなってしまった。
その代わりに山岳賞ジャージ首位に躍り出たのは繰り下げで山岳ジャージを着用し、この日逃げに乗っていたファン・アールトと真っ向勝負をしていたジェイ・ヴァイン(UAEチーム・エミレーツ)、そしてポイント賞は大差をつけられていたカデン・グローヴス(アルペシン・ドゥクーニンク)が引き継ぐこととなった。
そんなステージはUAEチームエミレーツがまたしても3人を逃げに送り込んでステージ優勝争いを優位に進めた。マルク・ソレル、ヴァイン、そしてアイザック・デル・トロが積極的に逃げを牽引し勝負を優位に進め続けた。そして最初に脱落したソレルだったが、そこから粘りの走りで何度も脱落から追いつき、さらにアタックをするという不屈の走りを見せる。そして最後は独走しゴール、チームに今大会3勝目をもたらした。
そして総合優勝争いも勃発する。まず仕掛けたのは総合5位のミケル・ランダ(T-REX・クイックステップ)だった。そして少し間をあけてエンリック・マス(モビスター)がペースアップ、これで集団は一気に人数を減らし総合上位争いとなるが、ここでマイヨ・ロホのベン・オコナー(デカスロンAG2Rモンディアル)が苦しむ。リチャード・カラパズ(EFエデュケーション・イージーポスト)、プリモズ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグロエ)、そしてダビ・ガウドゥ(グルーパマFDJ)の4人はランダに追いつき置き去りにすると、そのまま4人でゴールラインまで一進一退の攻防を続けたが、それに対してじわじわとタイム差を広げられ、単独でコヴァドンガで必死の防戦となる。何とか粘りの走りを見せると、ログリッチに58秒差でゴール、僅か5秒というタイムだが総合リーダーの座を守り抜いて見せた。
休息日明けの第16ステージ、181.5㎞のステージでは3つの山頂が選手たちを迎え撃つ。そんなステージも今大会の傾向から逃げ切りが容認されるという予想から17人に逃げが決まる。今大会すでに総合を諦めたUAEチームエミレーツは結果を求めて毎ステージのように逃げに乗っており、このステージでも3名を送り込むことに成功する。総合に影響のないメンバーが揃ったことでメイン集団は逃げを大きく容認、タイム差は残り60㎞の時点で9分近くまで広がっていく。
そんな中ファン・アールトが山頂を連続してトップ通過、しかしその下りで岩肌へと接触し、そのままリタイアとなってしまった。そして迎えた残り12.2㎞、最後のコヴァドンガの上り口では逃げは10名にまで絞られている。この段階ではヴァインがデル・トロの為に牽引、これでソレルが脱落してしまう。しかしここからソレルは追いつくと、残り7㎞で今度はアタックして先頭に躍り出る。そしてこのアタックにより今度はデル・トロが脱落、UAEの戦略が全く見えない状況となる。
このソレルのアタックに反応できたのはフィリッポ・ザナ(ジェイコ・アルーラ)とマックス・プール(チームDSMフィルメニッヒ・ポストNL)のみ、そしてここから3人による駆け引きが始まる。ソレルはアタックをしてプールに追いつかれるとまたしても苦しげな表情となるが、そこからもう一度アタックを決める。すると今度はプールもザナも対応できず、ついに一人旅が始まる。そしてそのままジワリと後続を引き離し、最後まで追いつかれることなくステージを制した。
その背後ではランダの号砲で総合バトルが勃発、するとアシストのいないオコナーはあっさりと遅れてしまう。少しずつタイムが広がっていき、総合リーダージャージを失うのも時間の問題かに思われた。しかし山頂直前の僅かな平坦区間で息を吹き返すと、そこから猛烈な走りで僅かにタイムを奪い返してゴール、何とかもう1日総合リーダージャージを守り抜くことに成功した。
マルク・ソレル(ステージ1位)
「今大会何度もアタックをし続けたけど、ようやく結果が伴ったよ。今日の逃げは本当にレベルが高かった。だから逃げ切りが確定的となれば、勝利するチャンスはあると思っていたんだ。このチームに来て3年、大きな勝利をできていなかったので、ようやくブエルタで勝ててほっとしたよ。」
ベン・オコナー(総合1位)
「(ステージ終了後)下まで下れって言うから下ったのに、そしたらもう一回上れって言われたんだよ。クソ寒いんだよ。今日はとにかくきつかったよ。今日はパワーメーターがなかったんで、よくペースがわからなかったんだよね。いい感じだという実感はあったけど、それでも十分じゃなかったね。いや~今もこうして笑顔で話してるけど、内心穏やかじゃないんだよ(笑)。」
エンリック・マス(総合3位)
「今日は仕掛けたんだけど、僕にその力が足りなかったね。あともうちょっと天候と視界が良いとありがたいね。本当に何も見えなかったんだよね。まあでもそれはログリッチも一緒か。
ミケル・ランダ(総合5位)
「今日早めに仕掛けたのは、総合勢誰か一人でも脱落すればと思っていたんだけどね。オコナーは頑張っているね。チームも不慣れながらもいい仕事をしていると思うよ。彼が勝つなら応援したいね。」
ブエルタ・ア・エスパーニャ第16ステージ順位
1位 マルク・ソレル(UAEチームエミレーツ) 4h44’46”
2位 フィリッポ・ザナ(ジェイコ・アルーラ) +18”
3位 マックス・プール(チームDSMフィルメニッヒ・ポストNL) +23”
4位 ジェイ・ヴァイン(UAEチームエミレーツ) +57”
5位 ヨン・イザギーレ(コフィディス) +1’02”
6位 アイザック・デル・トロ(UAEチームエミレーツ) +1’29”
7位 マルコ・フリゴ(イスラエル・プレミアテック) +1’35”
8位 マシュー・リッチテロ(イスラエル・プレミアテック) +1’47”
9位 エンリック・マス(モビスター) +3’54”
10位 リチャード・カラパズ(EFエデュケーション・イージーポスト)
ブエルタ・ア・エスパーニャ総合順位
1位 ベン・オコナー(デカスロンAG2Rモンディアル) 65h09’00”
2位 プリモズ・ログリッチ(レッドブル・ボーラハンスグロエ) +05”
3位 エンリック・マス(モビスター) +1’25”
4位 リチャード・カラパズ(EFエデュケーション・イージーポスト) +1’46”
5位 ミケル・ランダ(T-REX・クイックステップ) +2’18”
6位 ダビ・ガウドゥ(グルーパマFDJ) +3’48”
7位 カルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアス) +3’53”
8位 マティアス・スケルモース(リドル・トレック) +4’00”
9位 フラン・リポウィッツ(レッドブル・ボーラ・ハンスグロエ) +4’27”
10位 パヴェル・シヴァコフ(UAEチームエミレーツ) +5’19”
H.Moulinette