究極の塗装へ、イネオス・グレナディアスがシルバーストーン・ペイント・テクノロジーとタッグを組んでブエルタ中!F1で培われた塗装技術はロードレースでもその力を発揮するのか
技術革新が進む自転車、ロードレースでは空力を考慮し0.1秒でもタイムを削ろうと各社様々な挑戦をしている。そんな中常に最先端を追い求めるイネオス・グレナディアスは、塗装に注目、自動車最高峰のレースF1でもおなじみのシルバーストーン・ペイントテクノロジー(以下SPT)とタッグを組んで究極の塗装に挑んでいる。1000分の1秒を競う世界の技術が、10分の1秒、100分の1秒で勝敗が決するロードレースにも惜しげもなく投入されている。しかしそれは空力抵抗ではなく、あくまでも重量面での配慮のようだ。
今開催中のブエルタ・ア・エスパーニャにイネオス・グレナディアスが持ち込んでいる一部のピナレロのドグマFだが、車体のリア半分がカーボン地のままなのだ。ついでに言えばシートポストも剝き出しのカーボン地(クリアコートのみ)なのだ。
よく軽量バイクを作るために塗装をしないフレームや、薄いコーティングしか施されないフレームはあるが、車体の半分だけに施されているのはあまり見たことがない。チーム曰く、これらはピナレロから供給されたフレームの塗装をSPTが剝がし、再塗装を施したものとのことだ。カーボン地の部分はクリアコートのみ、残りの部分も極めて薄い塗装のみとなっている。あくまでもチームカラーと、既存の塗装デザインをベースにしながら、より軽量化を求めた、というのが正解のようだ。
ブエルタで見受けられたのはカルロス・ロドリゲスとジョシュア・ターリングの高身長選手たちがそれらフレームを使っていた。大柄な選手はどうしても大きなフレームサイズの自転車を使わざるを得ないので、少しでも軽量化を狙ってのようだ。最近では長身の選手でも小型のフレームを使うことが増えているが、やはりそれも限度がある。メーカーによりその差は大きいが、平均的に同じカーボンフレームでも500㎜と580㎜の場合はおよそ80gほどの差があることが多い。
また昨今のフレームは大型化されたチューブにより塗装面積が格段に増えたために、塗装自体の重さはばかにはならないようだ。SPTとイネオス・グレナディアスとの付き合いは長く、2018年ごろから共同で様々な実験を行っていたようだ。現在の時点ではおよそ7%以上の重量削減に成功している。実はSPTはそれ以外にも過去にサンウェブ(現チームDSMフィルメニッヒ・ポストNL)やディメンションデータ(解散)といったチームとも繋がっており、様々なデータを蓄積しており、その一つの結論として今回のイネオス・グレナディアスの塗装があるようだ。
塗装は化粧であるとともに、フレームを保護する最後の仕上げだ。それを薄くするのはあくまでもプロ機材として消耗品であるからであり、軽量化マニアのそれとは意味合いが異なる。果たしてこれが結果につながるのかは未知数だが、プロという性質上、チームも勝利の為に技術と資金は惜しまないというスタンスが明確に見て取れる。これもまたプロスポーツならでは、無駄かどうかは、結果を見て判断をしてくれというところだろう。
H.Moulinette