ブエルタ・ア・エスパーニャ2024第15st:無謀と勇敢は紙一重、カストリーリョが限界越えの走りで霧の激坂山頂制し2つ目の大金星!ログリッチがタイムを詰めるもオコナーが粘り首位死守
若さというのはときに限界を超える可能性を見せてくれる。3日前に創設者の死を悼んで喪章をつけて自らの初勝利とチーム初のグランツール初勝利を達成、大金星で一躍その名を知らしめたパブロ・カストリーリョ(エキッポ・ケルンファルマ) がまたしても大金星を挙げた。前回同様に逃げに乗り逃げ続けたカストリーリョは、パヴェル・シヴァコフ(UAEチームエミレーツ)とアレクサンダー・ヴラソフ(レッドブル・ボーラ・ハンスグロエ)の3人となった超級山岳にはいっても後も何とか強豪二人に食らいついていく。一人だけずっと頭が左右に小刻みに揺れ苦しげな表情で走り続けると、勾配がきつい区間では体全身を大きく左右に振り辛うじて離されずに喰らいつき続けると、残り3㎞で平均勾配20%の超激坂区間に入る瞬間に渾身のアタックを敢行する。
無謀とも思えるアタックだが、ここからの激坂区間でじわじわとその差を広げ始める。平均で20%、最大勾配は24%越え、更には立ち込める霧がその視界を遮り状況判断も難しくなる。そんな中でも前回同様に何度となく背後を振り返り確認しつつ走り続ける。すると残り900mでヴラソフが追い付いてくる。しかしそれでも全身を揺らしながら何度となく瞬発的な加速を繰り返し、残り400mで再びヴラソフを再び突き放すとゴールラインでは咆哮、誰も予想できなかった2つ目の大金星を挙げて見せた。プロ2年目の23歳がプロ初勝利、そして2勝目をどちらもグランツールの山岳で逃げ切って勝利するという大きな仕事をやってのけた。
その背後ではそごうバトルも勃発、残り3㎞までに大きく人数を減らすと、激坂区間に突入と共にフラン・リポウィッツ(レッドブル・ボーラ・ハンスグロエ)の急加速からプリモズ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグロエ)がアタックを決める。それに反応できたのはエンリック・マス(モビスター)のみ。そして総合リーダーのベン・オコナー(デカスロンAG2Rモンディアル)はセップ・クス(ヴィズマ・リースアバイク)、ミケル・ランダ(T-REX・クイックステップ)、ダビ・ガウドゥ(グルーパマFDJ)、リチャード・カラパズ(EFエデュケーション・イージーポスト)、マティアス・スケルモース(リドル・トレック)らとともに霧に突入していく。先行したログリッチだが、それほどの切れ味がない。途中マスに逆転を許し差をつけられるも、ゴール前で再び加速し何とかマスと同タイムでゴールした。
それにスケルモース、カラパズ、クス、ランダの順でゴールし、オコナーがログリッチから38秒遅れでゴールし、この日も総合リーダージャージを守って見せた。このステージを終え総合順位ではログリッチが43秒差まで迫まった。だがログリッチが最後の頂上ゴール決戦を前にスペシャルバイク交換した後に、集団復帰に自チームカーをドラフティングに使用してアドバンテージを得たとして20秒のペナルティーとなった。その為オコナーに対しては18秒タイムを削るに留まることとなり、タイム差は1分3秒差となった。
総合3位のマス、4位のカラパズ、5位のランダが42秒差の中にひしめいている。さらに総合トップ10はシャッフルされた。そして新人賞ジャージ争いが連日のようにジャージが入れ替わっている。リポウィッツ、カルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアス)、スケルモースが18秒差の中におり、最後まで目が離せない展開となりそうだ。
第15ステージは143㎞で獲得標高が3800m、だがその最後の超級山頂ゴールは、難関20%越えが3㎞もゴールまで続くだけに、逃げ切りは容易ではない。更にそれに加え総合バトルが間違いなく勃発することが明確なこともあり、逃げ切りは容認されない可能性が高かった。それでもこの日も総合バトルから脱落しているUAEチームエミレーツはチーム総合と山岳賞という二つのタイトルは狙えるため、結果を残すべく動いた。
スタート直後から激しいアタックの応酬となると、結果的にシヴァコフ、ジェイ・ヴァイン、マルク・ソレルの3名を逃げに送り込み、この3名がほかチームの協力関係なく積極的な牽引を見せる。だがメイン集団もこの日はエースのミケル・ランダ(T-REX・クイックステップ)で勝負をするT-REX・ソウダル・クイックステップが主導権を握り、速いペースでこれを追走し、大きなタイムアドバンテージを与えない。
先頭集団ではその速いペースで次々と選手たちが脱落、そしてそのまま突入したゴールまでの18.7㎞の頂上ゴール勝負に突入すると、残されたのはシヴァコフ、ヴラソフ、カストリーリョの3人のみ、しか思後続との差は2分弱と逃げ切りは難しいと思われた。しかしこの3人のペースは衰えなかった。カストリーリョの苦しそうな走りから、実力者のシヴァコフとヴラソフの一騎打ちになるかと思われたが、歯を食いしばりながら遅れまいとするカストリーリョの走りからは、執念すら感じられた。
そして残り3㎞、メイン集団とのタイム差をおよそ2分でキープし続けたまま、激坂区間への突入したカストリーリョは渾身のアタックを決める。勇気ある仕掛けでもあるが、距離を考えれば単独で逃げ切るのは困難ともいえる無謀なアタックと誰の目にも映った。しかしここから驚異の粘りを見せると、総合勢のバトルが全く追いつけないその先で、ステージ優勝を決めて見せた。
パブロ・カストリーリョ(ステージ1位)
「今朝の段階では全く勝てるとは思っていなかったよ。最初の勝利はもう何が何だかわからなかったけど、今日は勝利をしたという実感はあるよ。本当に最高のブエルタになっているよ。ヴラソフが迫った時も、彼の表情を見たら苦しそうだったので、これはいけると思ったんでもう一回力を振り絞ったんだよ。」
ベン・オコナー(総合1位)
「みんな僕が今日ジャージを失うと思っていたようだけど、それが間違いだと証明できたね。今日のゴール勝負はひたすら個の勝負だったね。それに霧で何も見えなかったよ。これで総合は10日連続だっけ、オーストラリア人最長なの?それは光栄だよ。」
ブエルタ・ア・エスパーニャ第15ステージ順位
1位 パブロ・カストリーリョ(エキッポ・ケルンファルマ) 3h45’51”
2位 パヴェル・シヴァコフ(UAEチームエミレーツ) +12”
3位 アレクサンダー・ヴラソフ(レッドブル・ボーラ・ハンスグロエ) +31”
4位 エンリック・マス(モビスター) +1’04”
5位 プリモズ・ログリッチ(レッドブル・ボーラハンスグロエ)
6位 マティアス・スケルモース(リドル・トレック) +1’09”
7位 リチャード・カラパズ(EFエデュケーション・イージーポスト) +1’13”
8位 セップ・クス(ヴィズマ・リースアバイク) +1’22”
9位 ミケル・ランダ(T-REX・クイックステップ) +1’27”
10位 ダビ・ガウドゥ(グルーパマFDJ) +1’37”
ブエルタ・ア・エスパーニャ総合順位
1位 ベン・オコナー(デカスロンAG2Rモンディアル) 60h19’22”
2位 プリモズ・ログリッチ(レッドブル・ボーラハンスグロエ) +1’03”
3位 エンリック・マス(モビスター) +2’23”
4位 リチャード・カラパズ(EFエデュケーション・イージーポスト) +2’44”
5位 ミケル・ランダ(T-REX・クイックステップ) +3’05”
6位 フラン・リポウィッツ(レッドブル・ボーラ・ハンスグロエ) +4’33”
7位 ダビ・ガウドゥ(グルーパマFDJ) +4’39”
8位 カルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアス) +4’40”
9位 マティアス・スケルモース(リドル・トレック) +4’51”
10位 パヴェル・シヴァコフ(UAEチームエミレーツ) +5’12”
H.Moulinette