ブエルタ・ア・エスパーニャ2024第9st:絶望的だからこその大博打!UAEが3連1級山岳で大逃げからAイェーツがステージ制し総合戦線復帰、カラパズも別途大逃げ大博打で総合2位
昨日までのステージで惨敗と言えるほどの結果しか残せていなかったUAEチームエミレーツ、高らかに総合優勝宣言をしておきながらいいところなく山岳で崩壊、そして昨日のステージ終了後にそのダブルエースの一角、ジョアオ・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)をコロナウイルス陽性で失った。しかしだからこそ今日の3連1級山岳のこの難関ステージでは「もう仕掛けるしかない」、そして「仕掛けても容認される可能性が高い」、だからこその「捨て身の大博打」を仕掛けて見せた。その結果もう一人のエース、アダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ)がチームメイトたちのアシストから58㎞の独走態勢へと持ち込み、見事ステージ優勝を挙げた。しかも総合リーダーのベン・オコナー(デカスロンAG2Rモンディアル)やプリモズ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグロエ)らから山岳とゴールでのボーナスタイムを合わせて4分近くのタイムを奪い返して見せた。これで一気に総合7位まで順位を上げ、総合優勝戦線に一気に復帰してきた。また山岳ポイントも荒稼ぎしたことで山岳賞ジャージもログリッチから奪取して見せた。「今日はただステージを必死で取りに行った、失うものがないから。」そう語る通り、決死の大博打が功を奏したが、本人には考えている余裕はなかったようだ。
そしてこのUAEチームエミレーツの大博打を追うように、別のタイミングで大博打を仕掛けたのがリチャード・カラパズ(EFエデュケーション・イージーポスト)、UAEを追走する逃げ集団形成からこちらも独走態勢へと持ち込み、1分31秒差のステージ2位、そしてこちらも大きく総合順位を上げ総合3位まで順位を上げた。
最後の1級山岳をAイェーツとカラパズに続いて通過したエンリック・マス(モビスター)だったが、山頂通過時点ではログリッチに1分差をつけて優位に立てるチャンスだったが、山頂からの下りコーナーでバランスを崩し後輪が宙に浮いてコースオフしてしまう。落車を避けたことは救いだったが、これで勢いを失ったことでじわじわとログリッチらにタイムを詰められ、ゴールまで残り1㎞強を残して追いつかれてしまった。その為ステージ3位は総合勢によるスプリント勝負となったが、ここでオコナーが予想外の力を見せ3位、ボーナスタイムを獲得してログリッチとのタイム差をまた広げて見せた。
このステージの結果、総合順位は大きく変動、オコナーとログリッチは変わらないが、3位以降が大きく入れ替わっただけではなく、これだけハードなステージも関わらずタイム差は広がらず激戦の状況となっている。カラパズとイェーツがともに表彰台圏内に顔を出し総合3位のカラパズから総合8位のフェリックス・ガル(デカスロンAG2Rモンディアル)までが1分以内にひしめき合う展開、総合10位のダビ・ガウドゥ(グルーパマFDJ)まででも2分しかない接近戦となった。対してセップ・クス(ヴィズマ・リースアバイク)、アントニオ・チベリ(バーレーン・ヴィクトリアス)、マティアス・スケルモース(リドル・トレック)、レナート・ファン・イートフェルト(ロット・デスティニー)が順位を落とす形となった。
178.5㎞のグラナダへと向かう3連1級山岳は、クイーンステージも匹敵するほどの難関ステージ、だがここまで多くを失ってきたチームにとっては一発逆転の大博打を狙えるとあり、多くのチームが積極的に狙っていたが、まず真っ先に動いたのはポイント賞ジャージのワウト・ファン・アールト(ヴィズマ・リースアバイク)だった。そしてすべてのチームが選手を送り込んだ26名の逃げが形成される。その中にはAイェーツ、マルク・ソレル、ジェイ・ヴァインのUAEトリオも入っていたが、すでにタイム差があることことから大きな驚異とみられずに容認された。
タイム差が4分ほどに広がると、メイン集団はデカスロンAG2Rモンディアル、そしてレッドブル・ボーラ・ハンスグロエが交代でペースをコントロールするが、逃げのソレルが強烈な牽引でペースを上げ差は縮まらないどころか、逃げの集団自体が一気に崩壊し9名に絞られる。そしてそんな状況下でメイン集団ではペースを作ってきたダニエル・マルチネス(レッドブル・ボーラ・ハンスグロエ)が早々と脱落してし、思ったように追走のペースを上げていけない。それにより今度はカラパズがアタックをして飛び出していく。だがこれもメイン集団はタイム差があったこともあり追おうとはせず見送ってしまう。
そしてカラパズは先頭の逃げから下がってきたジェームス・シャウ(EFエデュケーション・イージーポスト)と合流し、さらにペースを上げていく。更に今度はダレン・ラファーティー(EFエデュケーション・イージーポスト)が合流し、さらにペースを上げていく。これでUAE主導の先頭集団、そして間にカラパズ、そしてメイン集団の3部構成となる。
そしてこの日二つ目の1級山岳、2回にわたって通過する1級山岳のアルト・デ・ハラザナスの頂上を前に早々とAイェーツが仕掛ける。ソレルのペースアップからヴァインへとバトンタッチ、気が付けばそれについていけたのはガウドゥだけとなっていた。そしてそのまま山頂まで行くかに思われたが、なんと残り58㎞を残しAイェーツは一人旅を選択する。
先頭で山頂を通過したAイェーツに対し、ガウドゥが1分、カラパズが1分40秒差で続く。そしてログリッチやオコナーの総合勢は5分半遅れての通過となった。そしてここからAイェーツの更なる攻撃が始まる。単独となっても落ちないペースに、カラパズとの差はジワリと広がり、更に後方のメイン集団とは7分弱にまで広がっていく。さすがにこれはまずいとレッドブル・ボーラ・ハンスグロエが追走を開始するが、それでおもタイム差は大きくは縮まらない。
そしてそのまま迎えたこの日最後の山頂までの上りで、メイン集団で動きが起きる。ペースが思ったように上がらないレッドブル・ボーラ・ハンスグロエに対し、マスが渾身のアタックを仕掛け、最大勾配17%越えの激坂を駆け上がっていく。ログリッチはこれに反応せず、またオコナーがガルのアシストを受け淡々と上っていく。
そして頂上を超えての下りに入ってもAイェーツのペースは一切衰えず、またカラパズのペースのほぼ同じで推移する。メイン集団は必死の攻めで僅かながらタイムを縮めるが、それでも最後まで詰め切れずに3分45秒遅れてのゴールとなった。
アダム・イェーツ(ステージ1位、総合7位)
「暑すぎだよ。ようやくグランツールで久しぶりに勝てたよ。チームメイト達が超ハイペースを維持し続けてくれたから、早めの仕掛けだったけどもうぞこから全開で行くだけだったよ。もう総合順位なんて関係なく、ただ今日のゴールだけを必死に目指したよ。ただステージ勝利だけを目指していたんだよ。失うものがもうなかったからね。」
ベン・オコナー(ステージ3位、総合1位)
「カラパズには驚かされたけどね。一番暑くて皆がぐったりしているときに仕掛けたからね。あと今日は自分ができることをやっただけだよ。それに今日のステージの走りで、簡単に総合争いの土俵から突き落とされないことも皆がわかったと思う。昨日よりも全然よかったよ。Aイェーツが勝ったことは気にしていないよ。今日彼を容認したのも、彼が最優先事項ではなかったからだよ。順位を下げていたからの賭けに出ていたのは知っていたしね。でも勝利にはおめでとうと言いたい。」
プリモズ・ログリッチ(ステージ9位、総合2位)
「正直きつかった。今日はあの走りが限界だったよ。ゴールも意識がもうろうとしていて順位とかよくわからなかったよ。ただ涼んでドリンクを飲みたかったよ。」
ブエルタ・ア・エスパーニャ第9ステージ順位
1位 アダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ) 4h42’28”
2位 リチャード・カラパズ(EFエデュケーション・イージーポスト) +1’39”
3位 ベン・オコナー(デカスロンAG2Rモンディアル) +3’45”
4位 ミケル・ランダ(T-REX/クイックステップ)
5位 フラン・リポウィッツ(レッドブル・ボーラ・ハンスグロエ)
6位 パヴェル・シヴァコフ(UAEチームエミレーツ)
7位 カルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアス)
8位 プリモズ・ログリッチ(レッドブル・ボーラハンスグロエ)
9位 ダビ・ガウドゥ(グルーパマFDJ)
10位 エンリック・マス(モビスター)
ブエルタ・ア・エスパーニャ総合順位
1位 ベン・オコナー(デカスロンAG2Rモンディアル) 36h09’36”
2位 プリモズ・ログリッチ(レッドブル・ボーラハンスグロエ) +3’53”
3位 リチャード・カラパズ(EFエデュケーション・イージーポスト) +4’32”
4位 エンリック・マス(モビスター) +4’35”
5位 ミケル・ランダ(T-REX・クイックステップ) +5’17”
6位 フラン・リポウィッツ(レッドブル・ボーラ・ハンスグロエ) +5’29”
7位 アダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ) +5’30”
8位 フェリックス・ガル(デカスロンAG2Rモンディアル) +5’24”
9位 カルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアス) +6’00”
10位 ダビ・ガウドゥ(グルーパマFDJ) +6’32”
H.Moulinette