ブエルタ・ア・エスパーニャ第5st:唯一の平坦ステージを制したのはまさかの21歳、新鋭ビットナー!ファン・アールトとグローヴスに割って入り撃破!想定外の勝者はスプリンターの自覚なし
思わぬ勝利、思わぬ勝者、そして勝利した当人が自覚ないままに最強のスペシャリストたちを撃破してしまった。パヴェル・ビットナー(チームDSMフィルメニッヒ・ポストNL)は自らが「スプリンターだとは思ってはいない。」と口にしながらも第2ステージで6位、第3ステージで5位と、ワウト・ファン・アールト(ヴィズマ・リースアバイク)とカデン・グローヴス(アルペシン・ドゥクーニンク)の影に隠れていたものの、スプリンターとしての資質の一端を見せていた。そしてこのステージではこの二人の対決に注目が集まる中、そのバトルに真っ向勝負で割って入ると、力づくでファン・アールとを僅差でかわしてグランツール初勝利を挙げて見せた。新鋭のチェコ人の21歳は、今大会でもポイント賞争いに割って入ってきそうだ。
今大会唯一の平坦ステージは当然のようにスプリンターたちにとっては輝ける場所、だがその中心はすでにファン・アールトとグローヴスの一騎打ちになると予想されていた。グローヴスのスプリント勝利に全てを賭けるアルペシン・ドゥクーニンクにたいし、ファン・アールトはあくまでも自由の身、チームはセップ・クス(ヴィズマ・リースアバイク)での総合優勝狙いであり、サポートは期待できない。しかしそんなことはお構いなしのファン・アールトは、グローヴスをぴたりとマークする。
第3ステージの勝利同様に、ファン・アールトは全く同じ作戦に打って出る。少し早めと思われるタイミングでコース左脇の狭い隙間へと展開すると、そのタイミングでグローヴスはファン・アールトの位置を確認するために振り返るが、右を見て、左を見た瞬間目に飛び込んできたのはすでにスプリントを開始したファン・アールトの背中だった。慌ててスプリントを開始するグローヴスだが、時すでに遅し、全くファン・アールトには追いつけない。代わりにファン・アールトをぴたりとマークしていたビットナーが、ファン・アールトをリードアウトに利用しコース中央へと展開すると、ファン・アールトにスプリントでの真っ向勝負に挑む。ドンピシャのタイミングでバイクを前方へと投げ出すと、僅差の写真判定の結果、勝利の女神はビットナーに微笑んだ。完全にグローヴスを出し抜いたはずのファン・アールトは「なぜ君がそこにいる?」と言わんばかりの驚きの表情を見せた。誰もが予想もしなかったような大金星、ビットナーの今後が楽しみだ。
この日も36度越えの着熱地獄、昨日は暑さに多くのクライマーがタイムを失う形となったが、今日のようなステージも油断をすれば大きくタイムを失いかねないだけに、緊張感と緊迫感が漂い続けるステージとなった。この日も二人の逃げが発生、今大会早くも3度目の逃げとなるイボン・ルイス(エキッポ・ケルンファルマ)とチームとしてマイステージ仕掛けるエウスカルテル・エウスカディのトミン・ユラスティが残り40㎞まで逃げ続けた。メイン集団は暑さもあり、積極的な動きをなかなか見せなかったが、逃げ切りなど容認できないスプリンターチームが動き出すと、一気にレースは活性化した。逃げを捉えるとここからは各チームのトレイン同士の駆け引きがゴール直前まで続いた。
この日の救済措置区間は残り4㎞、幸運にもそのラインを超えてから総合9位のミケル・ランダ(T-REX・クイックステップ)はパンク、事なきを得た。そしてゴール勝負は圧倒的に戦力を割いているアルペシン・ドゥクーニンクの絶対的優位に思われたが、トレインのスピードに支配力がない。その為ファン・アールトは予定通り早目に仕掛けることを選択し、見事に遂行、しかし予想外の男、ビットナーに勝利をさらわれる結果となった。
パヴェル・ビットナー(ステージ1位)
「今最強のスプリンターの一人、ファン・アールトに勝てたなんて驚きだよ!僕はスプリンターじゃなくてクラシックライダーなんだよ。でもこれから適性を見直さないといけないかもね。今日はチームメイトに「やれるかもしれない」と話したんだよ。あとは自分を信じて走ったよ。そうしたらチャンスが目の前に広がったんだ。あとはもう必死で踏み込むだけだったよ。」
ワウト・ファン・アールト(ステージ2、ポイント賞1位)
「イメージ通りにすべてうまく事を運んだんだよ。グローヴスをマーク、そして早めの仕掛け。でも最後はバイクを投げ出すタイミングがずれたよ。横に並んだビットナーの影に惑わされてしまったよ。勝負の一瞬のあやだけど、結果このミスは高くついたね。」
プリモズ・ログリッチ(総合1位)
「暑すぎて、我慢してゆっくりと追うのが楽なのか、それとも少し速度を上げて風を感じるべきなのかがよくわからなくなったよ。」
ブエルタ・ア・エスパーニャ第5ステージ順位
1位 パヴェル・ビットナー(チームDSMフィルメニッヒ・ポストNL) 4h25’28
2位 ワウト・ファン・アールト(ヴィズマ・リースアバイク)
3位 カデン・グローヴス(アルペシン・ドゥクーニンク)
4位 ブライアン・コカード(コフィディス)
5位 ステファン・キュング(グルーパマFDJ)
6位 コルビン・ストロング(イスラエル・プレミアテック)
7位 ヨナタン・ナルバエス(イネオス・グレナディアス)
8位 アルネ・マリット(インターマルシェ・ワンティ)
9位 ジャンマルコ・ガルフォリ(アスタナ・カザフスタン)
10位 アントニオ・ソト(エキッポ・ケルンファルマ)
ブエルタ・ア・エスパーニャ総合順位
1位 プリモズ・ログリッチ(レッドブル・ボーラハンスグロエ) 18h58’36”
2位 ジョアオ・アルメイダ(UAEチームエミレーツ) +08”
3位 エンリック・マス(モビスター) +32”
4位 アントニオ・チベリ(バーレーン・ヴィクトリアス) +38”
5位 レナート・ファン・イートフェルト(ロット・デスティニー) +41”
6位 フェリックス・ガル(デカスロンAG2Rモンディアル) +47”
7位 ブランドン・マクナルティー(UAEチームエミレーツ) +50”
8位 マティアス・スケルモース(リドル・トレック) +58”
9位 ミケル・ランダ(T-REX・クイックステップ)
10位 アレクサンダー・ヴラソフ(レッドブル・ボーラ・ハンスグロエ) +1’00”
H.Moulinette