パリ五輪女子ロードレース:フォークナーがゴール直前でカウンターアタックから独走金メダル!超文武両道、ハーバード卒、投資会社設立から選手の異色の経歴がアメリカに40年ぶりの金メダル
人生はいろいろな道がある。代役で回ってきたチャンス、そんなチャンスを引き寄せる運もまた強者の持つ才能だ。そしてさらにそんな才能はレースの場においてさらなる進化を遂げて見せた。自転車レース界において、クリステン・フォークナー(アメリカ)ほど異色な選手、さらに文武両道を貫いている選手も珍しいだろう。世界でも屈指のハーバード大学を卒業し、投資会社の設立に携わり、その段階で趣味として始めた自転車にはまり、27歳で初めて本格的に自転車競技をスタートしたフォークナーは、今大会トラック競技の代表としても選ばれており、そちらが本命であった。しかしロードで出場予定の選手が辞退すると、本業のロードレースでも出場が決定した。
そして迎えたレース終盤、目の前に見えたチャンスに対して貪欲に、そしてクレバーに仕掛けたフォークナーは、一撃必殺、鮮やかすぎるカウンターアタックから独走へと持ち込み、見事金メダルを獲得して見せた。
ゴールまで残り20㎞、先行していたのは歴代最強女子選手のマリアナ・フォス(オランダ)、とハンガリーチャンピオンのブランカ・ヴァス(ハンガリー)だった。激しく展開し続けたレースはここから一気に少数によるメダル争いへと突入していく。この二人を追うのはこの日積極的に潰しあいを演じたメンバーの内、フォークナーと優勝候補筆頭のロッテ・コペッキー(ベルギー)ら僅か5名だった。アメリカはエースのクロエ・ダイガート(アメリカ)が落車、それにより自由を得たフォークナーがしっかりと好ポジションをキープすると、この津壮集団から力業で抜け出していく。それに対応できたのはコペッキーのみだった。
だが一緒に追走していたコペッキーがメダルを欲する気持ちがあふれ出ていたことが仇となる。フォークナーはより多くの時間を追走の牽引をしながらも、先行する逃げの2人が近づくとうまくコペッキーにも脚を使わせる。そして残り3.5㎞、フォスとヴァスにフォークナーとコペッキーが追いついたタイミングで、そのままフォークナーはカウンターアタックを仕掛ける。4人中3人がメダル、だれか一人が落ちることとなる、そんな考えが頭を巡ったのか、フォークナーの背中を前にヨーロッパの3人が完全にお見合いをしてしまう。誰が脚を使うのか、誰も自分が犠牲になって前を追いたくない、そんな後ろ向きの気持ちが完全に勝負を見誤る形となる。トラック競技でも代表入りを決めているほどの独走力を秘めたフォークナーは、ここからあっという間に差を広げていってしまう。これで勝負あり、フォークナーはゴールラインまで力を抜くこと走りきり、見事アメリカに40年ぶりの金メダルをもたらした。
銀メダル争いとなった3名は、横一線、写真判定までもつれ込むスプリント争いの末、大ベテランフォスが銀メダル、コペッキーが銅メダルとなった。
「コペッキーが前に追いつきたいのはわかっていたの。だから協調できたんだけど、4名での勝負になれば分が悪いのは見えていたの。だから追いついたらそのまま気を緩めずアタックをすることにしたのよ。カウンターこそがチャンス、合流して一瞬気が緩むだろうと予測していたので、あれが私にとっての最大のチャンスだと思っていたの。ああいう局面は今シーズン何度か練習していたので、それがハマってよかったわ。」フォークナーはレースをそう振り返った。
「オリンピックでメダルを取る、私はその為に人生の大きな賭けに出たの。仕事も安定も捨てて、レースの世界に飛び込んだの。今それが達成できて、最高の気分だわ。それ以上の言葉が見つからないの。最後も他の選手たちが優勝候補という事は理解していたけど、私は勝つためにレースをしているの。チームパシュートのチームメイトにも”勝ってくるね”と約束していたのよ。でもあくまでもチームパシュートが本命、だからロードでは曲面としてメダルのチャンスがあれば狙いに行く、と割り切って挑んでいたの。」フォークナーは人生における大きな勝負の勝者にもなった。
パリ五輪女子ロードレース
金メダル クリステン・フォークナー(アメリカ) 3h59’23”
銀メダル マリアンヌ・フォス(オランダ) +58”
銅メダル ロッテ・コペッキー(ベルギー)
4位 ブランカ・ヴァス(ハンガリー)
5位 ファイファー・ジョージ(イギリス) +1’21”
6位 マヴィ・ガルシア(スペイン) +1’23”
7位 ノエミ・リュエグ(スイス) +2’04”
8位 カタリナ・ニエウィアドーマ(ポーランド) +2’44”
9位 エリサ・ロンゴ・ボルギーニ(イタリア) +3’05”
10位 マルタ・ラック(ポーランド) +3’27”
H.Moulinette