パリ五輪男子ロードレース:世代最強が完勝!個人TTも制したエヴァネポエルが残り3.9㎞でパンクでバイク交換も貫録の独走金メダルで男子初のダブル!地元フランスがマデュアスとラポルトで銀銅!
今ロードレース界でだれが最強かと聞かれたら、本当に悩んでしまう。歴代最強と言われているタデイ・ポガチャル(スロベニア)と答える方も多いだろうが、それに待ったをかけることができるとすればレムコ・エヴァネポエル(ベルギー)だろう。すでにグランツールのブエルタ・ア・エスパーニャを制し、初出場となった今年のツール・ド・フランスでもポガチャルに真っ向勝負を挑んで総合3位となった男は、パリ五輪において、世界チャンピオンとして挑んだ個人TTで金メダルを獲得すると、その勢いのままにロードレースでもアタックを自ら仕掛け集団から飛び出すと、最後は独走態勢へと持ち込む。その走力で圧倒的なタイム差を付けながら、残り3.9㎞ではパンクでバイク交換を余儀なくされる。無線が使用されていないことから、後続との差をよく知らなかったことから焦りを見せたが、バイク交換をしてもなお後続の姿は見えなかった。もはや敵なし、そう思わせる走りで個人TTと合わせて同一大会二つ目の金メダルをロードレースでも獲得、男子では史上初の今大会のロードバイク種目を総ナメとなった。
「攻撃は最大の防御」それが口癖の男がいなくとも、その波及効果はすべての選手たちに行きわたっている。273㎞の長丁場のレースでなんと残り90㎞を残して始まったアタックの応酬、そのど真ん中にエヴァネポエルもいた。マシュー・ファン・デル・ポエル(オランダ)ら、クラシックレースを主戦場とする強者たちが動き出すと、レースはさらにヒートアップしていった。
まず大きく動いたのがベン・ヒーリー(アイルランド)、グランツールでも逃げまくる男がオリンピックでもその本領を発揮する。アレクセイ・ルチェンコ(カザフスタン)と共に仕掛けると、この動きに字レース序盤から逃げ続けていたメンバーはあっという間に呑み込まれ、金メダルをめぐる思惑が明確に回り始める。
その背後でも激しい応酬が繰り広げられ、エヴァネポエルも様子見でアタックをすると、メイン集団の数はどんどんと減っていく。ベルギーとオランダはわかりやすい波状攻撃を仕掛け、どんどんとライバルたちを削っていく。普段はプロとしてチームメイトであっても、国別となるオリンピックではライバル、しかしお互いの手の内を知っているだけに、容赦ない攻撃が続く。
先頭ではヒーリーが素晴らしい走りを続け、残り60㎞を切っていく。するとここで新たなアタックがかかり、ニルス・ポリット(ドイツ)、ヴァレンティン・マデュアス(フランス)、フレッド・ライト(イギリス)、マイケル・ウッズ(カナダ)、ステファン・キュング(スイス)、マルコ・ハラー(オーストリア)ら実力者とセインバヤ・ジャンバラマンツ(モンゴル)が飛び出していく。この動きに乗れなかったのが、明確に勝利を狙いに来ているオランダ、ベルギーとデンマークだった。
残り46㎞、背後のメイン集団では新旧シクロクロス世界王者のマシュー・ファン・デル・ポエル(オランダ)とワウト・ファン・アールト(ベルギー)が激しいアタックの応酬を始める。それにマッテオ・ヨルゲンセン(アメリカ)やジュリアン・アラフィリップ(フランス)などが反応するなど、激しい駆け引きが遠慮なく続く。
そんな中、一瞬の間隙を縫って、残り38㎞でエヴァネポエルが単独でヒーリー後方の追走集団へとブリッジを仕掛ける。あっという間に追走集団に追いつくと、エヴァネポエルはここからさらにペースを上げる。先行するヒーリーもたまらずここで捉まるが、それと同時にこの集団自体も一気に絞られ、マデュアス、キュング、ハラーしかついていくことができない。そして残り28㎞の上りでエヴァネポエルはさらに加速、これで先頭はマデュアスとエヴァネポエルの2人だけにまで絞られてしまう。
その背後のメイン集団では何とか局面を打開すべくファン・デル・ポエルがアタックを仕掛けるが、チームメイトのエヴァネポエルが先行したファン・アールとがこのアタックを潰しにかかる。この完璧なチームワークのおかげで追走集団のエヴァネポエル追走が機能しない。
そうなればもうエヴァネポエルにとってはあとはどこでマデュアスを振るい落とすかとなった。そして残り15㎞、ついにエヴァネポエルが満を持してアタック、これにマデュアスは全くついていくことができない。これで勝負あり、ここからエヴァネポエルは個人TTモードに入ると、どんどんと後続との差を広げていった。その後残り3.9㎞でパンクでのバイク交換を余儀なくされたが、焦るエヴァネポエルとは裏腹に、十分なタイム差をつけられたマデュアスの姿は全く見えてこない。再スタートを切ったエヴァネポエルは並走するバイクに後続とのタイム差を確認しようやく安堵の表情を見せた。そして遂に過去誰も男子では成し得なかった個人TTとロードレースのダブル金メダルを達成、ゴールでバイクを止めると、大観衆の声援の中その余韻に浸った。
「正直ぐったりだよ。男子史上初のダブル達成は素直にうれしいよ。新たな歴史の1ページだろ。マデュアスが疲れているのがわかったので、あの坂でアタックを敢行したんだ。あとそこからはもうひたすら踏み続けるだけだったよ。残り4㎞あたりでパンクしたときも、チームカーが準備できていなかったので内心焦りまくったよ。でも後から知ったけど、十分にタイム差が開いていたんだね。ここの1か月足らずで、成し遂げたかった目標を次々と達成できた。ツールでの表彰台、そしておりっピックの個人TTとロードでの金メダル、これ以上のシーズンはないよ!」2015年にはサッカーのベルギージュニア代表だった男が、9年後全く異なる競技で世界の頂点に立った。
マデュアスは地元の声援を受け粘りの走りを最後まで続け、単独でゴール、銀メダルを獲得した。その背後まで迫った追走集団ではクリストフ・ラポルト(フランス)がスプリントを制し銅メダルを獲得、地元フランスとしては納得の銀・銅メダル獲得となった。
またMTBを制したトム・ピドコック(イギリス)もこのレースに出走、13位でレースを終えた。「MTBでの金メダルの後取材の連続と皆の祝福が止まらなくて寝られなかったよ。いろいろあってレースに集中ができなかった」と語った。
パリ五輪男子ロードレース
金メダル レムコ・エヴァネポエル(ベルギー) 6h19’34”
銀メダル ヴァレンティン・マデュアス(フランス) +1’11”
銅メダル クリストフ・ラポルト(フランス) +1’16”
4位 アッティラ・ヴァルター(ハンガリー)
5位 トム・スクインス(ラトヴィア)
6位 マルコ・ハラー(オーストリア)
7位 ステファン・キュング(スイス)
8位 ヤン・トラトニック(スロヴェニア)
9位 マッテオ・ヨルゲンセン(アメリカ)
10位 ベン・ヒーリー(アイルランド) +1’20”
H.Moulinette