パリ五輪MTB:男女ともにレジェンド級オールラウンド選手が制覇!男子は自転車界ピドコックが驚異的な走りでオリンピック連覇!女子はモデルも務める世界選手権15個の金メダルのプレヴォ!
ロードレース界には、シクロクロス界からやってきた3強がいる。その誰もがシクロクロス世界チャンピオンになっているが、そのうち一人だけがMTBでも世界の最高峰に立っている。トム・ピドコック(イギリス)は、身長170㎝の小柄な選手でありながら、その抜群のバイクコントロールとボディバランスを武器に、東京五輪MTBで金メダルを獲得、並みいる専業MTBライダーを蹴散らして、200歳にしてその頂点に立った。そして迎えた今年のパリ五輪、つい先日まで世界最高峰のロードレース、ツール・ド・フランスに出場していた(コロナ感染でリタイア)男が、世界最高峰の舞台でまたしても躍動して見せた。またしても専業MTBライダーを相手にひときわ小柄なピドコックが力技でレースを支配、そして最終ラップで歴史的な激闘を繰り広げた末にジュリアン・アブサロン(フランス)以来二人目のオリンピックMTB連覇を成し遂げて見せた。
ここ5年間で、2020年にE-MTB世界選手権金メダル、2021年と2024年にオリンピック金メダル、2022年にシクロクロス世界選手権金メダル、2023年にMTB世界選手権XC金メダルと、毎年オフロード競技で金メダルを獲得している。またロードレースでは2021年にブラバンツ・2023年にペイユ、ストラーデ・ビアンケ、そして今年はアムステルゴールドレースと3つの最高峰のクラシックレースも制し、ロード、シクロクロス、MTBの3競技全てで最強の男となっている。タデイ・ポガチャル(スロヴェニア)が歴代最強のロード選手なら、24歳のピドコックはすでに歴代最強のオールラウンド自転車選手と言っても過言ではないだろう。ちなみにピドコックはロード世界選手権でもジュニア時代に個人TTで金メダル、U‐23ロードで銅メダルを獲得している。
日本人とさほど体格差のない170㎝58㎏の男は強かった。スタートこそMTBシリーズ戦の順位の関係で、スポットでしか参戦していないピドコックは後方からのスタートとなった。1周4.4㎞のコースを7周回する今年のレースは、序盤は伝説のMTB選手、あとは金メダルだけが欲しいニノ・シュルター(スイス)を筆頭に、東京五輪銀メダルのマテアス・フロッキガー(スイス)、そしてアラン・ハサリー(南アフリカ)らが先頭集団を形成する。ピドコックは後方から徐々に番手を上げ、あっという間に先頭集団へと合流を果たす。
そしてスタートから30分ほどで先頭に躍り出たピドコックはそのままアタックを敢行、東京五輪でライバルたちをすべて置き去りにしたスタミナとパワーをここでも見せる。これに対応できたのはヴィクトル・コレツキー(フランス)とフロッキガーだけだった。しかしフロッキガーが脱落、その背後にいるハサリーらに合流する。
2強によるバトルが続くかに思われたが、なんと4周目にピドコックがまさかのパンク、ピットでのタイヤ交換を余儀なくされる。慌てふためくピットでの前輪交換、だが、ピドコックは落ち着いた様子でドリンクを飲んで一切の焦りが見えない。そして再スタートを切ったピドコックだったが、この時点で40秒近い遅れとなっており、ここからの挽回は一見不可能化に思われた。案の定先行した選手たちを抜くのに手間取り、一時なタイム差が40秒を超えていくが、そこから先行する逃げを抜きにくいコースのあちらこちらで順番にパスしていくと、6周目には3位まで浮上、前に残すのはハサリーとコレツキーだけとなる。この段階でコレツキーとのタイム差は27秒、まだ挽回には時間がかかるかに思われた。しかし前がクリアになったことで、ここからピドコックの爆走猛追が始まる。
あっという間にハサリーに追いつくとパス、そのままハサリーを引き連れて最終周回に突入する直前にコレツキーを遂にとらえる。3人となったまま残り1周のベルが鳴ると、ここから一進一退の攻防が続く。抜きどころが少ないMTBでは勝負どころが限定される。しかしそのセクションごとに順位が入れ替わる目まぐるしい展開となるが、最後は2股にコースが分かれたセクションで、ピドコックが勝負に出る。内側を選択したピドコックは思い切り加速、その出口でコレツキーとホイールが接触しながらもそのまま前に出る。コレツキーはバランスを一瞬失いかけるが何とか立て直した。しかしこれで結果的に勝負あり、ピドコックはそのまま先頭でゴールを果たし、オリンピック連覇、2つ目の金メダルを手にして見せた。コレツキーは2位、ハサリーが3位に入り、南半球の南アフリカにとってはMTB初のオリンピックメダル獲得となった。
「いろいろと考えは巡っていたけど、ここへ来たらきっちりと頭の整理ができたよ。コレツキーがホームの利があるのはわかっていたからね。パンクは序盤だったから焦らなかったよ。ピットに着いたらスタッフが準備できていなかったけど、それでも素早く対応してくれたからね。」ピドコックはどこまでも冷静だった。
女子は2014年度世界選手権ロード金メダル、MTBでは世界選手権でなんと12個の金メダル、更には2015年に世界選手権シクロクロス金メダル、2022年世界選手権グラベル金メダルと輝かしい経歴を持つポーリーン・フェラン・プレヴォが、過去3度挑みながらメダルが遠かったオリンピックで念願の金メダルを獲得した。今シーズン限りでMTBを引退、来年からはロードに専念すると語っている最強女王が最後に大きな勲章を手にした。
「自分が勝ったことが信じられない!今シーズンはこのレースの為に全てを注ぎ込んできたの。」と語り、またレース前にはチームメイトであるピドコックから「いつものワールドカップシリーズだと思って走れ」とアドバイスをもらっていたことを明かした。
パリ五輪MTB男子
金メダル トム・ピドコック(イギリス) 1h26’22”
銀メダル ヴィクトル・コレツキー(フランス) +09”
銅メダル アラン・ハサリー(南アフリカ) +11”
4位 ルーカ・ブレイド(イタリア) +34”
5位 マティアス・フロッキガー(スイス) +1’20”
6位 サミュエル・ゲイズ(ニュージーランド) +1’41”
7位 ライリー・エイモス(アメリカ) +1’46”
8位 チャーリー・アルドリッジ(イギリス) +2’10”
9位 ニノ・シュルター(スイス) +2’22”
10位 ダビ・ヴァレロ(スペイン) +2’27”
パリ五輪MTB女子
金メダル ポーリーン・フェラン・プレヴォ(フランス) 1h26’02”
銀メダル ハリー・バッテン(アメリカ) +2’57”
銅メダル ジェニー・リゼベッヅ(スウェーデン) +3’02”
4位 パック・ピータース(オランダ) +3’23”
5位 エヴィー・リチャーズ(イギリス) +3’27”
6位 ローラ・スティガー(オーストリア) +4’13”
7位 アレッサンドラ・ケラー(スイス) +4’41”
8位 サマラ・マックスウェル(ニュージーランド)
9位 アンネ・テルプストラ(オランダ) +5’33”
10位 ブランカ・ヴァス(イタリア) +5’40”
H.Moulinette