ツール・ド・フランス第19st:ポガチャル強し!圧倒的走りでステージ4勝、通算ステージ15勝目!ヴィンゲガードは敗北に涙止まらず、総合は実質決着、カラパズが山岳賞を奪取
今大会の最重要ステージのクイーンステージは一体どのステージなのか、その質問に総合リーダーのタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)は「決める必要ある?すべてのステージが勝負」と言い切った。そして先日今日のステージのことを聞かれて、「攻撃は最大の防御」と自らの信念を口にした。そして一見ヴィズマ・リースアバイクの攻撃的ステージと思われたこのステージでも、逃げで先行していたマッテオ・ヨルゲンセン(ヴィズマ・リースアバイク)でステージを狙いに来ているような動きを察すると、総合2位のヨナス・ヴィンゲガード(ヴィズマ・リースアバイク)の調子が上がらないことを認識、早々とUAEチームエミレーツはお得意のチームプレイの鬼引きを開始する。それによりヴィンゲガードはアシストを次々と失っていく。
今大会最高到達地点の2802mのボネット山の頂上までにメイン集団はその数を大幅に減らすと、イソラ2000の頂上ゴールまでの残り10㎞の段階で僅か7名にまで人数を減らす。ポガチャルはまだこの段階でもジョアオ・アルメイダとアダム・イェーツ(ともにUAEチームエミレーツ)という総合4位と7位の最強アシスト勢を残しており、さらに加速しいく。ヴィンゲガード、そして総合3位のレムコ・エヴァネポエル(ソウダル・クイックステップ)とアシストの総合6位にミケル・ランダ(ソウダル・クイックステップ)、さらに総合9位のデレック・ジー(イスラエル・プレミアテック)も粘っているが、圧倒的優位のポガチャルは満を持して残り8.6㎞でアタックを敢行する。しかしいつものような切れ味鋭いアタックではなく、ジワリと加速をしてペースを上げていく。これに反応こそしたヴィンゲガードとエヴァネポエルだが、ポガチャルのハイケイデンス走法に全くついていくことができない。
じわりじわりと広がっていくその差、その間にもポガチャルにはチームから「ステージ勝利に届くので行け」との指示が出る。その通り一切ペースを落とさず妥協なき走りを続けるポガチャルは、先行していた逃げのリチャード・カラパズ(EFエデュケーション・イージーポスト)、そしてサイモン・イェーツ(ジェイコ・アルーラ)を捉えそのまま置き去りにする。二人とも一旦は着いていこうとするが、そのペダリングはあまりにも違い過ぎた。さらに先頭を走り続けるヨルゲンセンを残り1.9㎞で追いつくとここでさらに加速、着いていくことさえ許さない圧倒的な力の差を見せつける。
そしてそのままゴールラインまでペースを落とすことなく走り続け単独でゴール、自ら4勝目をアピールして見せた。ポガチャルが笑顔で勝利を祝う中、逃げの3人を間に挟んでエヴァネポエルとヴィンゲガードがゴールした。しかしここでヴィンゲガードは号泣、敗北と大会3連覇が遠のいたことを痛感した瞬間、感情が爆発した。これで総合争いではポガチャルとヴィンゲガードのタイム差は5分3秒、エヴァネポエルとは7分1秒となり、最後の山岳ステージを前に実質総合優勝争いが決した形となった。
ステージ4位でゴールしたカラパズは、この日も山岳ポイントを荒稼ぎし、ポガチャルからそのジャージを奪い取ることに成功、実力者がさらに地道に結果を残した。
僅か132.8㎞のショートステージ、しかし最高到達地点は2800m越えで酸素も薄い。そんなステージは多くの選手にとってはただのサバイバル、しかしステージ優勝を狙うクライマー、そして総合系のチームにとっては直接対決の場、お互いの駆け引きは序盤から始まる。時速60㎞というハイペースの中でアタックの応酬の末、カラパズやSイェーツ、イーガン・ベルナル(イネオス・グレナディアス)ら21名の大所帯の逃げが決まる。この中にはヴィズマ・リースアバイクはヨルゲンセン、クリストフ・ラポルト、ウィルコ・ケルデルマンを送り込むことに成功、先行しての待ち作戦のお膳立てが整う。
メイン集団ではUAEチームエミレーツが主導権を握ると、速いペースを刻んでいく。先行するヴィズマ・リースアバイクにとっては追いつかれてしまえば元も子もないため、先行するメンバーは積極的なペースで逃げ続ける。しかし残されたヴィンゲガードを守るべきアシストが、UAEチームエミレーツのペースについていくことができない。気が付けばワウト・ファン・アールト(ヴィズマ・リースアバイク)らアシスト2名が脱落、残り2名もついていくのが必至の状況で、ヴィンゲガードは早くも丸裸にされてしまう。
超級山岳のボネット山に入ってもペースを落とさないUAE チームエミレーツは、アシスト勢が順番にきっちりと仕事をこなしていく。このペースにライバルたちはただ耐えるしかない状況だけが続いていく。それどころか各チームのエースクラスまでもが脱落、総合トップ20圏内の選手も順番に苦悶の表情を浮かべながら脱落していく。この段階でUAEチームエミレーツはヴィズマ・リースアバイクがステージ優勝を狙いに行くと判断、だがそれでも追走の手を緩めない。ポガチャルはライバル達とのタイム差を広げるだけでなく、明確にこのステージの優勝を意識しており、UAEチームエミレーツはそのための任務を遂行し続けた。
そして最後のイソラ2000の頂上ゴールまでの上りに入ると、総合トップ10の2人のアシストが全開でペースを上げていく。カルトス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアス)、、ギウリオ・チッコーネ(リドル・トレック)、サンティアゴ・ブイトラゴ(バーレーン・ヴィクトリアス)、そしてジーが順番に脱落していく。もうこうなればライバルたちはただひたすらダメージを抑えるために耐えしのぐしかなくなっていく。そして満を持してポガチャルがアタック、急激な加速ではスタミナの消耗が激しい高度のため、ジワリと加速して、そこからハイペースを維持するという走法で走り続ける。ヴィンゲガードは明らかに攻め手を欠いただけでなく、エヴァネポエルについていくことが精いっぱいの状態、総合優勝3連覇の夢はどんどんと遠ざかっていった。
総合では8位から11位までがおよそ1分の中にひしめいており、トップ10をめぐる戦いは最後まで続きそうだ。
タデイ・ポガチャル(ステージ1位、総合1位)
「凄くうれしいよ。ここではジロからツールまでの間ずっとトレーニングをしてきたし、この第19ステージを一つのキーステージとしていたんだよ。全て予定通り、アタックをする場所まで100%予定通りにいったよ。ボネット山ではヴィンゲガードが動いてくると思ったんだけど、でも先頭の逃げの動きが速かったので、ステージ狙いだと気づいたんだ。でもそれも奪い去ってしまったけどね。これで明日はゆとりをもってレースができるよ。完膚なきまでに叩きのめそうとしたかって?そうじゃないよ。でもスタートからヴィズマ・リースアバイクにはプレッシャーをかけられ続けたんで、チームはそれに必死で対応してくれたんだ。だからステージ勝利も欲しかったんだ。これで今大会4勝目で平均すると毎年3勝ずつになっただろ。まだまだ僕は進化していくよ!」
マッテオ・ヨルゲンセン(ステージ2位、総合9位)
「今日はヴィンゲガードのためのサテライトの予定だったんだけど、ステージ優勝を狙えと言われて切り替えたんだ。でもポガチャルが迫っていると聞いたときは、もう悪い予感しかしなかったよ。追いつかれて着いていっても、結局歯が立たないのはわかっていたんで、あの瞬間にがっくり来たよ。勝利まであと一歩まで来ているんだけど、僕はツールと相性が悪いみたいだよ。」
ヨナス・ヴィンゲガード(ステージ6位、総合2位)
「ツールにはもちろん勝ちに来たんだ。準備期間が不足しているのはわかっていたけど、精神的にも充実していたし、調子は悪くはなかったんだ。でもポガチャルのレベルが異次元すぎたよ。最初の週は僕もそれについていけるほど好調だったけど、やっぱり準備不足からくるものをごまかすことはできなかったよ。今日は先行したメンバーに合流して攻める予定だったんだけど、途中ついていくだけでいっぱいいっぱいになり、戦略を変えざるを得なかったんだよ。今大会は完敗だよ。あとは総合2位を守る戦いが残っているよ。」
レムコ・エヴァネポエル(ステージ5位、総合3位)
「ポガチャルが仕掛けたとき、あの場にいた全員が限界だったよ。誰もついていくことができなかったから、あとは自分のペースで走るだけだったね。ヴィンゲガードも本調子ではないことはすぐにわかったんだ。」
ツール・ド・フランス第19ステージ順位
1位 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ) 4h04’03”
2位 マッテオ・ヨルゲンセン(ヴィズマ・リースアバイク) +21”
3位 サイモン・イェーツ(ジェイコ・アルーラ) +40”
4位 リチャード・カラパズ(EFエデュケーション・イージーポスト) +1’11”
5位 レムコ・エヴァネポエル(ソウダル・クイックステップ) +1’42”
6位 ヨナス・ヴィンゲガード(ヴィズマ・リースアバイク)
7位 ジョアオ・アルメイダ(UAEチームエミレーツ) +2’00”
8位 ミケル・ランダ(ソウダル・クイックステップ)
9位 ウィルコ・ケルデルマン(ヴィズマ・リースアバイク) +2’52”
10位 デレク・ジー(イスラエル・プレミアテック) +3’27”
ツール・ド・フランス総合順位
1位 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ) 78h49’20”
2位 ヨナス・ヴィンゲガード(ヴィズマ・リースアバイク) +5’03”
3位 レムコ・エヴァネポエル(ソウダル・クイックステップ) +7’01”
4位 ジョアオ・アルメイダ(UAEチームエミレーツ) +15’07”
5位 ミケル・ランダ(ソウダル・クイックステップ) +15’34”
6位 カルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアス) +17’36”
7位 アダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ) +19’18”
8位 デレク・ジー(イスラエル・プレミアテック) +21’52”
9位 マッテオ・ヨルゲンセン(ヴィズマ・リースアバイク) +22’43”
10位 ギウリオ・チッコーネ(リドル・トレック) +22’46”
H.Moulinette