ツール・ド・フランス第18st:逃げ容認で総合沈黙、逃げ続けたベテランのカンペナールツが念願のツール初ステージ優勝!ゴール後涙止まらず、スマートにそしてずる賢く勝利へのこだわり貫く
誰もが一度は夢見る大舞台グランツールへの出場、そしてその先にあるさらに大きな目標がグランツールでのステージ優勝だ。その中でも最高峰の目標がツール・ド・フランスでのステージ優勝、選手を志す者が夢見る栄冠だ。そして長年にわたりその夢を追い続けたベテランが、ついその勝利を手中に収めた。ヴィクトル・カンペナールツ(ロット・デスティニー)はTTスペシャリストとしては名の知れた存在、アワーレコードの世界記録も一時は保持するなど、スピードマンとしても有名だ。そして昨年度も何度となくステージ優勝を目指し逃げに乗り続け、ツール・ド・フランスで総合敢闘賞も獲得した。しかしそれでも遠かった勝利の為に、男は冷静冷徹になり、手段を択ばず勝利にストイックに向かった。
逃げ集団から飛び出した3人、ミカル・クウィアトコウスキー(イネオス・グレナディアス)、カンペナールツ、そしてマッテオ・ヴェルシャー(ダイレクトエナジーズ)は、背後から追いすがる追走の面々との距離を保ちながら、さらに駆け引きをせねばならない状況だった。しかし逃げ切りを確定させたい元世界チャンピオンのクウィアトコウスキーと逃げ集団の中では足を温存し続けたカンペナールツ、さらに初愁傷を狙うヴェルシャーは積極的な走りに徹する。それぞれがそれぞれの思惑で駆け抜けて迎えたゴール勝負、ひときわパワーのあるカンペナールツがその貯め込んだ脚力を開放、見事にスプリントを制して念願のステージ優勝を挙げた。来年度以降の契約に関してなかなかまとまらなかったこともあり、精神的に不安な状況となった時も、身重ながらに支えてくれた彼女への感謝の言葉を涙ながらに口にした。
総合勢はこの日の山岳では動かず、お互いを牽制しながらも集団でゴールし、明日からの山岳最終2連戦へ向けて体力の温存を図った。
この日が最後のステージ優勝のチャンス、そう思っていた選手たちは多かった。残すは山岳2連戦と個人TTとなれば、すべてで総合勢が間違いなく動いてくる、だからこそこのステージを明確にターゲットとしていた選手たちはスタート直後からアタックを開始する。この日は3級山岳が連なるステージだけに、少人数での逃げはあまりメリットがない。だからこそ有望な逃げに乗りたいとばかりに駆け引きは続く。そしてスタートから30㎞以上を走り、ようやくこの日の37名の大所帯の逃げが決まった。
そしてこの日スプリンター勢が逃げに乗らなかったことで、実質的にポイント賞争いはほぼ決着、最終日まで完走すればビニアム・ギルメイ(インターマルシェ・ワンティ)が史上初の有色人種タイトルホルダーとなる。
この日も活発だったのは、昨日ステージを制したカラパズ、そしてアタック連発男のベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト)。チームメイトの2人はこの日も積極的に展開をかき回し続けた。逃げ集団の中でも激しい駆け引きが続けば、おのずと戦況は地力のある選手が残っていく形となる。総合でも実績のあるジャイ・ヒンドリー(レッドブル・ボーラ・ハンスグロエ)や、ワウト・ファン・アールト(ヴィズマ・リースアバイク)、クウィアトコウスキーやカンペナールツといった中堅、ベテランの動きが、徐々にライバルたちを蹴落としていく。
そしてクウィアトコウスキーとがアタックを仕掛け僅かなリードを作ると、追走していたトバイス・ヨハンセン(Uno-Xモビリティ)が残り34㎞の下りで落車、これで間ができたことで追走の手が休まってしまい、クウィアトコウスキーに追いつくことができたのはカンペナールツとヴェルシャーの2人だけだった。
そしてこれに乗り遅れたファン・アール、トム・スクインス(リドル・トレック)らの猛追が始まる。しかし地力のある3人は最後までそのタイム差を大きく詰めさせることなく展開、残り10㎞で追走との差を50秒保ったまま、ゴールスプリントまで持ち込んだ。すると最初に動いたのはヴェルシャー、しかしこれにはクウィアトコウスキーもカンペナールツも動かずただ加速で追いつくと、今度はクウィアトコウスキーが先頭で駆け引きが始まる。ここで最後までタイミングを計り続けたカンペナールツが加速、その馬力にはさすがの2人もなす術がなかった。ヴェルシャーは2位、クウィアトコウスキーは3位に終わった。
そして総合勢はなんの動きもないままに展開、ゴールまでアシスト勢がエースを守り続けてのゴールとなった。
ヴィクトル・カンペナールツ(ステージ1位)
「プロとして、ツールにまず出場、そして完走しなければならない。そしてツールでの勝利は誰もが夢見る世界。僕は新人でも若手でもない、でもこの勝利をずっと長きにわたり夢見続けてきたんだ。春先のクラシックの後は正直しんどかったんだよ。契約の延長に関して口約束だけであとは音沙汰なしの日々が続いたからね。。そんな時に彼女が支えてくれたんだ。高度トレーニングにも身重の体で付き合ってくれて、息子も無事生まれたんだ。そして息子の顔を見たら、世界が一変したんだ。まだまだ選手生活はこれからだ、って思えたんだ。今日は逃げに乗った時に、賢く振舞ったんだよ。少し汚いやり口だったかもしれないけど、限界感を出したんだ。それで脚が貯められたんだよ。でもそれが勝つということなんだよ。」
タデイ・ポガチャル(総合1位)
「明日はディフェンシブに走るよ。(攻撃は最大の防御が口癖)」
ツール・ド・フランス第18ステージ順位
1位 ヴィクトル・カンペナールツ(ロット・デスティニー) 4h10’20”
2位 マッテオ・ヴェルシャー(トータルエナジーズ)
3位 ミカル・クウィアトコウスキー(イネオス・グレナディアス)
4位 トム・スクインス(リドル・トレック) +22”
5位 オイエル・ラズカノ(モビスター)
6位 バート・レメン(ヴィズマ・リースバイク)
7位 クリス・ニーランツ(イスラエル・プレミアテック)
8位 ジャイ・ヒンドリー(レッドブル・ボーラ・ハンスグロエ) +37”
9位 ワウト・ファン・アールト(ヴィズマ・リースアバイク)
10位 マイケル・マシューズ(ジェイコ・アルーラ)
ツール・ド・フランス総合順位
1位 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ) 74h45’27”
2位 ヨナス・ヴィンゲガード(ヴィズマ・リースアバイク) +3’11”
3位 レムコ・エヴァネポエル(ソウダル・クイックステップ) +5’09”
4位 ジョアオ・アルメイダ(UAEチームエミレーツ) +12’57”
5位 カルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアス) +13’24”
6位 ミケル・ランダ(ソウダル・クイックステップ) +13’30”
7位 アダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ) +15’41”
8位 ギウリオ・チッコーネ(リドル・トレック) +17’51”
9位 デレク・ジー(イスラエル・プレミアテック) +18’15”
10位 サンティアゴ・ブイトラゴ(バーレーン・ヴィクトリアス) +18’35”
H.Moulinette