ツール・ド・フランス第15st:ヴィズマ・リースアバイクが全開攻撃からのヴィンゲガードのアタックをポガチャルが一蹴、独走で14勝目!プラトーベイユでパンターニの登坂記録を3分40秒更新!
休息日前の山岳ステージ、「明日のステージのほうが僕向き」と答えていたディフェンディングチャンピオンのヨナス・ヴィンゲガード(ヴィズマ・リースアバイク)がいかにタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)に対して攻撃を仕掛けるかに注目が集まった。そしてその結果その果敢な攻撃はポガチャルによって跳ね返され、さらには逆襲にさらされ、タイムを失う形でのステージ2位に沈んだ。ポガチャルはヴィンゲガードの攻撃を一蹴、最大ライバルのヴィンゲガードをリードアウトにするかの様な走りで圧倒、独走へと持ち込み、ツール・ド・フランスのステージ通算14勝目を挙げるとともに、総合のライバルたちを大きく突き放し、ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスのダブルがいよいよ夢物語ではなくなってきた。
昨日はUAEチームエミレーツがパワフルな牽引でライバルたちのアシストやエースを削りまくり、そこからのアシストのアタック、さらにはアシストまで到達して再加速という徹底した攻撃で最後はポガチャルが独走、レースを掌握して見せた。そしてこの日はヴィズマ・リースアバイクがUAEチームエミレーツに対してその牙をむいた。最後の頂上ゴールへの長い上りで、総合10位のマッテオ・ヨルゲンセン(ヴィズマ・リースアバイク)が猛加速を見せる。これにより各チームどんどんと選手を失っていく。チームラジオからは「加速し続けてポガチャルを振るい落とせ」と指示が飛ぶ。
しかしヨルゲンセンの走りで振り落とせたのは総合4位でポガチャルの右腕、ジョアオ・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)までで、ポガチャルはついに引き離せなかった。そして残り10.5㎞でヴィンゲガードがアタックを仕掛けると、すぐさま反応できたのはポガチャルだけだった。総合3位のレムコ・エヴァネポエル(ソウダル・クイックステップ)はここでついていくことができない。さらにはそごう5位のカルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアス)も脱落してしまう。
総合1位と2位の直接対決、見ごたえある走りの結末は、残り5.3㎞でペースが落ちたのを見計らったかのようにポガチャルがアタック、ヴィンゲガードは反応するまでもなくじわじわとその差は広がっていった。しかしそれでもヴィンゲガードはコースわきのバリアに接触しそうになりながらの攻めの走りを最後まで続け1分8秒遅れのステージ2位でゴールした。そして総合3位のレムコ・エヴァネポエルも2分51秒遅れのステージ3位でゴール、その総合力の高さを見せつけた。
この最後のプラトーベイユの頂上決戦で、ポガチャルは従来の記録である”海賊”マルコ・パンターニが1998年に打ち立てた最速登坂記録の43分21秒を3分40秒も上回る39分41秒で上り切って見せた。昨今のハイペースに加え、最高峰同士がアタックを躊躇なく仕掛けた結果とはいえ、これだけの大幅なタイム更新は驚きだ。ヴィンゲガードとエヴァネポエルの記録もパンターニを上回っており、この3人の走りは天才クライマーと呼ばれた男をそろってクリアしたことになる。
またポガチャルはこれでステージ14勝となり、一時代を築いた名スプリンター、マルセル・キッテルと並ぶと同時に、弱冠25歳にして伝説の名選手ジャック・アンクティルの通算16勝まであと2勝と迫った。
197.7㎞の長丁場、各得票恋5000m越えの難関ステージはフランス革命記念日でもあり、最高潮に盛り上がった熱気にフランス人選手たちが序盤からアタックを見せる。ダビ・ガウドゥ(グルーパマ・FDJ)やロメイン・バルデ(DSMフィルメニッヒ・ポストNL)らが動きをみえるが、この日の序盤はUAEチームエミレーツがいつも通りハイペースを維持し、わずかなリードしか許さない。さらにはこの加速で早くも脱落者が次々に発生、多くの選手がスタート直後よりオーバータイムによる失格と戦うステージとなった。
その後21名の逃げが構成されるが、これも昨日同様に中間スプリントまで、その後はステージ優勝を狙う選手たちが前線で逃げ続けた。連日のベン・ヒーリーとリチャード・カラパズ(共にEFエデュケーション・イージーポスト)に加え、エースを失いステージ狙いに切り替えたジャイ・ヒンドリー(レッドブル・ボーラ・ハンスグロエ)、総合系のエンリック・マス(モビスター)らが顔を揃える。メイン集団では今度はヴィズマ・リースアバイクがペースを作り、一旦は逃げのメンバーとのタイム差が3分半を超えていく。
先行する逃げは分断と合流を繰り返すが、残り15.8㎞で最後の頂上ゴールに向かう上りに入ると、ヒンドリー、カラパズら残されたメンバーがアタック合戦を始める。そしてその背後ではヴィズマ・リースアバイクが、残された2枚のカード、ウィルコ・ケルデルマンとヨルゲンセンで一気にペースを上げていく。しかし長丁場で2枚のアシストということは、早目の仕掛けとなることは見えていた。残り10.5㎞で最後のヨルゲンセンがアシストを終えて離脱すると、後はヴィンゲガードが自力で何とかするしかなかった。しかしポガチャルの走りはヴィンゲガードを上回り、史上最強の男がその名に相応しい走りで勝利を決めた。
これで総合上位のタイム差は、総合2位のヴィンゲガードが3分9秒差、総合3位のエヴァネポエルが5分19秒差、そして総合4位以下が皆10分以上と大きく開く形となった。この段階においてもUAEチームエミレーツは総合トップ10にポガチャル以外に総合4位のアルメイダと総合7位のアダム・イェーツを残しており、盤石の布陣と言えるだろう。
タデイ・ポガチャル(ステージ1位、総合1位)
「パンターニを知るには僕は若すぎるけど、彼が残した功績と伝説は知っている。それらを超えていきたいね。ヴィズマ・リースアバイクとヴィンゲガードは素晴らしいペースで走っていたよ。さらにそこからヴィンゲガードがアタックしたんだけど、でも着いていく中で、自分が仕掛けられるタイミングを見つけたんだ。だからアタックをしたし、そこからいかに引き離していけるかだったんだよ。でもチームラジオからずっと35秒と言われ続けて、あまり広がっていない、また追いつかれるかもと焦ったから、最後のゴールの瞬間までプッシュし続けたんだ。」
ヨナス・ヴィンゲガード(ステージ2位、総合2位)
「今できる最高のパフォーマンスをしたと思うよ。チーム戦略も完璧、脚もよく回っていたし、これ以上はない過去最高のパフォーマンスができたと思うよ。でもポガチャルがそれを上回ったということだよ。だからがっかりはしていないよ。まだ大会は一週間あるし、逆転できるチャンスはあるし、ポガチャルにも調子が悪い日だってあるだろうからね。まだ諦めないよ。
レムコ・エヴァネポエル(ステージ3位、総合3位)
「最初は二人を追おうとしたんだよ。ヴィンゲガードがペースを落としたら、僕がカムバックできると思ったんだよ。でも結局自分のペースで行くことを決めたんだ。リスクを取らずに、マイペースで走るほうがベストだと思ったんだ。ポガチャルがアタックするまではタイム差は維持できていたからね。地に足をつけて、淡々とこぎ続けるだけだよ。」
トビアス・ヨハンセン(この日の逃げ)
「ポガチャルとヴィンゲガードが追い付いてきて、あっという間に置いて行かれたけど、あまりの速さに同じ競技をしているとは思えなかったよ。あまりの強さに嫌いになりそうだけど、でも彼らは本当に格好良くて、サイクリングを盛り上げてくれているんだよ。ただ僕らにはちょっとハードルが高すぎて、別次元なんだけどね。」
ツール・ド・フランス第15ステージ順位
1位 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ) 5h13’55”
2位 ヨナス・ヴィンゲガード(ヴィズマ・リースアバイク) +1’08”
3位 レムコ・エヴァネポエル(ソウダル・クイックステップ) +2’51”
4位 ミケル・ランダ(ソウダル・クイックステップ) +3’54”
5位 ジョアオ・アルメイダ(UAEチームエミレーツ) +4’43”
6位 アダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ) +4’56”
7位 サンティアゴ・ブイトラゴ(バーレーン・ヴィクトリアス) +5’08”
8位 カルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアス)
9位 リチャード・カラパズ(EFエデュケーション・イージーポスト) +5’41”
10位 フェリックス・ガル(デカスロンAG2Rラモンディアル) +5’47”
ツール・ド・フランス総合順位
1位 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ) 61h56’24”
2位 ヨナス・ヴィンゲガード(ヴィズマ・リースアバイク) +3’09”
3位 レムコ・エヴァネポエル(ソウダル・クイックステップ) +5’19”
4位 ジョアオ・アルメイダ(UAEチームエミレーツ) +10’54”
5位 カルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアス) +11’21”
6位 ミケル・ランダ(ソウダル・クイックステップ) +11’27”
7位 アダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ) +13’38”
8位 ギウリオ・チッコーネ(リドル・トレック) +15’48”
9位 デレク・ジー(イスラエル・プレミアテック) +16’12”
10位 マッテオ・ヨルゲンセン(ヴィズマ・リースアバイク) +16’32”
H.Moulinette