ツール・ド・フランス第12st:またしても混沌としたスプリントを制したのはギルメイ!これで今大会ハットトリック達成!ログリッチがまさかの落車でタイクロスでリタイア、総合優勝争いは3強に
勝負には運がつきものだ。そしてその運はときに自分で手繰り寄せたり、手放したりもできてしまう。昨日のステージ残り1.2㎞で落車をしたプリモズ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグロエ)だったが、救済措置が適応され一緒に走っていたエヴァネポエルと同じタイムが与えられ、タイムロスを逃れた。これに対しては各方面から、総合勢の直接対決でそれをやっては、仕掛けること自体が無意味になりかねないケースであり、必要がなかったのでは、との声が各方面から聞こえてきた。そんな救われたログリッチだったが、この日も残り12㎞で落車、今回は完全にもらい事故で、背の低い中央分離帯に気づかなかったアレクセイ・ルチェンコ(アスタナ・カザフスタン)がコース反対側から吹き飛んできたことで、それに乗り上げるような形で落車、ジャージの右肩は破れ、ヘルメットも破損するほどの衝撃だった。
ログリッチはすぐさま起き上がり、レッドブル・ボーラ・ハンスグロエはチーム一丸となってチームTTモードで猛追を始めたが、スプリントへ向けてさらにペースが上がっていたメイン集団との差は見る見る間に広がっていってしまった。結局このステージだけで2分27秒のタイムロスを喫し、総合6位まで順位を下げた。昨日まで4強による総合優勝争いが繰り広げられていたが、思わぬ形でそのうち1強が脱落、3強による総合バトルへと変貌してしまった。
そんな終盤にドラマがあったステージは、スプリント勝負へと持ち込まれた。この日も有力な隊列ないままに、入り乱れての混沌としたスプリント勝負となったが、鮮やかな走りで集団をかき分けて上がって来たポイント賞ジャージのビニアム・ギルメイ(インターマルシェ・ワンティ)が、誰よりもしなやかなスプリントでコースど真ん中をぶち抜いた。これで今大会3勝目、ハットトリックを達成した。ステージ2位には一度は進路をふさがれたがスローダウンからラインを変えて再スプリントをしたワウト・ファン・アール(ヴィズマ・リースアバイク))が何とか結果を残した。そのファン・アールとの進路を妨害したとして、ステージ3位に入ったアルノー・デマール(コフィディス)は降格処分、またステージ5位に入ったマーク・カベンディッシュ(アスタナ・カザフスタン)も位置取りの中で大きく進路を左右に変えたことが危険行為として降格処分となった。
203.6㎞の第12ステージは、カベンディッシュのリードアウト、ミカエル・モロコフ(アスタナ・カザフスタン)がコロナウイルスに感染で未出走になり、各チームがマスクや密を避けるなどリスク回避をする行動を徹底し始めた。他にも総合有力候補だったが体調不良となったペッロ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス)やファビオ・ヤコブセン(DSMフィルメニッヒ・ポストNL)が体調不良からリタイアとなった。
しかし一度レースが始まれば、激しいアタックの応酬が始まる。山岳賞ジャージを繰り下げで着用するヨナス・アブラハムセン(Uno-Xモビリティ)はこの日も元気に飛び出すと、第9ステージを制したアンソニー・トゥルギス(ダイレクトエナジーズ)ら4人がこの日の逃げを形成する。トゥルギスのダイレクトエナジーズは、チームトラックが夜間に窃盗の被害にあい、バイクとメカニックの道具を失うなどしたため、スペアバイクでの走らねばならない状況だった。
この日の集団をコントロールしたのはインターマルシェ・ワンティ、モビスター、アルペシン・ドゥクーニンクらスプリンターチーム、逃げを常に射程圏内の3分以内を泳がせ続ける。その逃げ集団ではアブラハムセンが僅かな山岳ポイントを積み重ねる。そしてこの日積み重ねたポイントでポガチャルと並び、さらにもう一日山岳賞ジャージの着用を自らの手で確定させた。
しかしこの日の集団はペースが速く、残り44㎞で早くも逃げをすべて吸収すると、さらにハイペースでレースは進んでいく。そして残り12㎞でログリッチを巻き込んだ落車が発生、これによりヤスパー・フィリップセン(アルペシン・ドゥクーニンク)もリードアウトのマシュー・ファン・デル・ポエル(アルペシン・ドゥクーニンク)を失う形となった。ログリッチは起き上がり再スタートをするまでに1分近いタイムを要してしまう。ここからチームTTモードでの追走に入るが、ペースが上がらない。ポガチャルの表情も冴えず、結果この日最大の敗者となってしまった。そしてこのステージでリタイアとなってしまった。すでにアレクサンダー・ブラソフ(レッドブル・ボーラ・ハンスグロエ)も落車による足首骨折で失っており、これでチームは総合18位のジャイ・ヒンドリー(レッドブル・ボーラ・ハンスグロエ)にすべてを託すこととなった。
各チームスプリント勝負へ向けての隊列を組むが今年のスプリントはとにかく混沌とする。そんなかで単独だったギルメイは、チームメイトを見つけると軽く背中にタッチし、自らの存在を伝えると、そのまま一気に最前線へと引っ張りあげてもらう。この動きが絶妙で、ベストポジションを確保したギルメイは一気にスパート、力でごり押しするスプリンターが多い中で、圧倒的に無駄のないスムースなスプリントで今大会3勝目を挙げた。
ビニアム・ギルメイ(ステージ1位)
「まずは勝利する力をくれた神に感謝したい、そして神がいるからこそ成し遂げられた。今大会は調子が良くて、正しいボジションどりと正しいマーク、そして正しい勝負のタイミングを見極められれば勝利できるのだと分かった。そして今日の勝利でもそれを証明できた。このポイント賞ジャージを着用し始めてから、自信がみなぎってくるんだ。自分が今最強であることを証明できているよ。」
タデイ・ポガチャル(総合1位)
「後方で落車の音が聞こえたのはわかっていたけど、ゴールするまで何がどうなったのかは知らなかったよ。ログリッチがタイムを失ったと聞いてショックだったよ。日に日に調子を上げてきているのが見えていたからね。本当に残念だよ。」
ツール・ド・フランス第12ステージ順位
1位 ビニアム・ギルメイ(インターマルシェ・ワンティ) 4h17’15”
2位 ワウト・ファン・アールト(ヴィズマ・リースアバイク)
3位 パスカル・アッカーマン(イスラエル・プレミアテック)
4位 ヤスパー・フィリップセン(アルペシン・ドゥクーニク)
5位 アルノー・デ・リー(ロット・デスティニー)
6位 アレクサンダー・クリストフ(UNO-Xモビリティ)
7位 フィル・バウハウス(バーレーン・ヴィクトリアス)
8位 ブライアン・コカード(コフィディス)
9位 ディラン・グローネウェーヘン(ジェイコ・アルーラ)
10位 ライアン・ギボンス(リドル・トレック)
ツール・ド・フランス総合順位
1位 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ) 49h17’49”
2位 レムコ・エヴァネポエル(ソウダル・クイックステップ) +1’06”
3位 ヨナス・ヴィンゲガード(ヴィズマ・リースアバイク) +1’14”
4位 ジョアオ・アルメイダ(UAEチームエミレーツ) +4’20”
5位 カルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアス) +4’40”
6位 プリモズ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグロエ) +4’42”
7位 ミケル・ランダ(ソウダル・クイックステップ) +5’38”
8位 アダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ) +6’59”
9位 ホァン・アユソ(UAEチームエミレーツ) +7’09
10位 ギウリオ・チッコーネ(リドル・トレック) +7’36”
H.Moulinette