ツール・ド・フランス第11st:総合勢の直接対決勃発!ポガチャルアタックもヴィンゲガードが猛追からの逆転ステージ勝利!エヴァネポエル粘って踏みとどまる、ログリッチゴール手前で落車


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昨日のスローペースなレースは、総合系にとっては休息日のようなもの、その反動ともいえるような激しい直接バトルが第11ステージでは繰り広げられた。チームメイトたちのいつも通りの鬼引きから、残り31.6㎞、頂上まで1㎞で満を持してアタックを決めたタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)が独走態勢を築く。あまりの切れ味にライバルたちはすぐには反応できない。ヨナス・ヴィンゲガード(ヴィズマ・リースアバイ)、プリモズ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグロエ)、そしてレムコ・エヴァネポエル(ソウダル・クイックステップ)のトップ4はここから激しいバトルをゴールまで続けることとなる。

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先頭で山頂を超えたポガチャルに続いて、ヴィンゲガード、ログリッチ、エヴァネポエルの順で間隔をあけて通過していく。さらにはカルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアス)、ジョアオ・アルメイダとアダム・イェーツのUAEチームエミレーツアシストコンビがそれを追う。だがダウンヒルでポガチャルとヴィンゲガードの差が広がっていく。そしてそのヴィンゲガードにログリッチとエヴァネポエルが合流を果たす。ポガチャルと後続との差が広がったことで、これで勝負あり、誰もがそう思ってしまった。

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しかし再び上りに転じると、ここからヴィンゲガードが驚異の走りを見せる。ログリッチとエヴァネポエルを置き去りにしてぐんぐんとポガチャルとのタイム差を詰めていく。一時は40秒ほどまで広がっていたタイム差はあっという間に詰まり、軽快にペダリングするヴィンゲガードのペダリングに対し、ポガチャルのペダリングは徐々に鈍くなっていくと、残り14.8㎞で遂にポガチャルに追いついてしまう。ここからヴィンゲガードとポガチャルはゴールまで山岳ランデブーすることとなった。その背後ではエヴァネポエルとログリッチが一進一退の攻防を続ける。

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ポガチャルとヴィンゲガードはゴールまで駆け引きを続けると、残り150mで先行していたヴィンゲガードが山頂ゴールまでスプリントを開始する。すぐさまポガチャルがそれに反応するが、ヴィンゲガードはゴールラインまで譲らず、ポガチャルのステージ13勝目を阻止、自らツール4勝目を挙げた。死んでいてもおかしくなかった大事故での大けがからわずか3か月、歴代最強とも言われ始めているポガチャルを力でねじ伏せるその走りは圧巻という他ないだろう。
その背後ではエヴァネポエルの背後を走っていたログリッチが残り1.2㎞でまさかの単独落車を喫してしまう。それでもログリッチは再び走り出しエヴァネポエルに遅れてステージ4位に入ったが救済措置によりエヴァネポエルと同タイム扱いとなった。総合トップ4が直接対決で繰り広げた激しいバトルは、間違いなく歴史に残る名勝負となった。

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211㎞の長丁場のレースは、完全にUAEチームエミレーツがポガチャルのために準備を整えていた。この日も当然逃げが発生したが、総合バトルと、山頂通過でのボーナスタイムなどを狙うために、逃げ切りを容認しない姿勢が序盤から見て取れた。EFエデュケーション・イージーポストがリチャード・カラパズとベン・ヒーリー、アルベルト・ベッティオールの3名を逃げに送り込み、積極的にレースを動かす。さらには山岳での組織力では劣る、ヴィズマ・リースアバイクもワウト・ファン・アールトらを動かすが、UAEチームエミレーツがそれを残り135㎞まで抑え込んだ。
しかし残り130㎞で遂にこの日の逃げが容認される。動いたのはまたしてもEFエデュケーション・イージーポストのカラパズ、ヒーリーを含むら10人、しかしUAEチームエミレーツは最大でも3分差ほどの射程圏内に逃げをとどめ続けた。

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そして残り50㎞を切るとUAEの猛追が始まる。この日は昨今のレースで見られるようなハイペースで展開してきたが、それは山岳の上りでもお構いなし。ぐんぐんとペースを上げライバルチームのアシストを削り、エースを孤立させていく。そんなかファン・アールトはコーナーで沿道の段差を見逃し派手に落車、バイクが破損しこの日の役目をここで終えてしまう。

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そんな中先頭で最後まで逃げ続けていたヒーリーも捉まり、ペースは完全にUAEチームエミレーツとポガチャル主体となっていく。そしてプイ・マリーの上りでポガチャルがアタックを決めると、レースは一気に絞られていった。だが何と言ってもこの日はヴィンゲガードのための一日だった。アシスト勢では劣っても、大会を連覇してきた勝負勘は健在だった。無理をするという選択肢を捨て、自分のペースで追い込んでいくというスタイルで無敵に思えたポガチャルを捉えると、最後までその牙はポガチャルを捕らえて離さなかった。

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ゴールへのスプリントでも完全復活を感じさせる走りで先着、最終的にはわずか1秒だがポガチャルとのタイム差を詰めてこのステージを終えた。だがポガチャルにとってもこのヴィンゲガードの現状の復調は想定を超えていたかもしれない。エヴァネポエルも粘りの走りで総合2位をキープ、総合4位のログリッチまでが総合優勝をまだまだ狙えるポジションで耐えきった。総合5位以下も激戦、総合トップ10入りを目指す各選手たちはこれから激しいバトルを繰り広げることになりそうだ。
ヨナス・ヴィンゲガード(ステージ1位、総合3位)
「この勝利の意味は大きいよ。(涙)この3か月間の時間を考えると、色々な感情がこみあげてくるよ。でも家族抜きには乗り越えられなかったよ。。正直3か月前、落車したときは死ぬかと思ったよ。だから今こうして世界最高峰のレースで勝利できたことは信じられないよ。正直ここまでの回復は想定を超えていたよ。僅か1週間半のトレーニングで、この最高峰のレースでここまで走れていることは、本当に奇跡的だよ。出場できただけでも御の字だと思っていたからね。だからこれからの第2週と最終週も、ただひたすらベストを尽くすだけだよ。どこまで何ができるかはわからないからね。この勝利が大会のというよりも、今シーズンのターニングポイントになれば場いいと思うよ。」
タデイ・ポガチャル(ステージ2位、総合1位)
「きついステージの末にスプリントを狙ったけど、ヴィンゲガードのほうが僕よりも5㎝速かったね。誰の目にもヴィンゲガードは最高の仕上がりだよね。これでフェアな戦いになったと言えるよね。このステージはファンからしても最高のステージだったと言ってもらえるんじゃないかな。今日勝利を逃したのは残念だけど、また僕にもチャンスはあると思うよ。下りでタイムは開いたけど、途中でバイクが滑ったんだ。あれで下りで攻め過ぎてエネルギーを消費し過ぎたのだと思ったよ。ヴィンゲガードのペースを見て、いずれ追いついてくると思ったから待つことに切り替えたんだ。そうすれば少しはリカバリーできるからね。それでスプリント勝負に賭けたんだけどね。別に精神的に追い込まれてはいないよ。これは勝負だし誰もが同じ対等な状況だよ。」
レムコ・エヴァネポエル(ステージ3位、総合2位)
「僕自身ベストな状態ではないよね。ベストなら対応できていたはずだからね。でもいい感じではあると思う。まだ総合2位をキープで来ているし第4ステージのようなタイムロスの仕方ではないからね。」

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ツール・ド・フランス第11ステージ順位
1位 ヨナス・ヴィンゲガード(ヴィズマ・リースアバイク) 4h58’00”
2位 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)
3位 レムコ・エヴァネポエル(ソウダル・クイックステップ) +25”
4位 プリモズ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグロエ)
5位 ギウリオ・チッコーネ(リドル・トレック) +1’47”
6位 ジョアオ・アルメイダ(UAEチームエミレーツ) +1’49”
7位 アダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ)
8位 ミケル・ランダ(ソウダル・クイックステップ)
9位 カルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアス) +1’55”
10位 フェリックス・ガル(デカスロンAG2Rラモンディアル) +2’38”
ツール・ド・フランス総合順位
1位 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ) 45h00’34”
2位 レムコ・エヴァネポエル(ソウダル・クイックステップ) +1’06”
3位 ヨナス・ヴィンゲガード(ヴィズマ・リースアバイク) +1’14”
4位 プリモズ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグロエ) +2’15”
5位 ホァン・アユソ(UAEチームエミレーツ) +4’20”
6位 ジョアオ・アルメイダ(UAEチームエミレーツ) +4’40”
7位 カルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアス) +5’38”
8位 ミケル・ランダ(ソウダル・クイックステップ) +6’59”
9位 デレック・ジー(イスラエル・プレミアテック) +7’09”
10位 マッテオ・ヨルゲンセン(ヴィズマ・リースアバイク) +7’36”
H.Moulinette