ツール・ド・フランス第5st:先日チッポリーニ越えのマン島ミサイルが今度はメルクス越え達成!ゴールの瞬間にチェーンが外れるもカベンディッシュがツールステージ35勝目の偉業達成!
記録というのはいつか破られるためにある。しかし伝説の名選手エディ・メルクスが残した記録は偉大でなかなか破られることがないまま現在に至る。そしてその中の一つ、ツール・ド・フランスの通算ステージ勝利数の記録が遂に破られた。マーク・カベンディッシュ(アスタナ・カザフスタン)は勝利数でタイ記録の34勝で並んでいたが、昨年はシーズン終了後の引退を一度は表明し記録更新を狙うもいいところなくリタイアとなり、もう一年挑戦をすると宣言をして今シーズンを迎えた。そして迎えた今シーズン、研ぎ澄まされた野生の本能は健在だった。先日はツアー・オブ・ハンガリーで偉大なスプリンター、マルコ・チッポリーニ越えの164勝目を挙げた男が、165勝目ではメルクス越えという偉業を成し遂げて見せた。
今年のツール・ド・フランス第5ステージは、残り5㎞を切ってからコース幅が細くなったり広がったりするコースにより、各チームの隊列が崩れてエースをアシストするのが困難な混沌とした状態となる。そしてそんなレースこそがマン島ミサイルと呼ばれてきた男にとっては大チャンスとなる。最終コーナーを抜け直線に入ると、混戦の中するすると前方に抜け出ていくと、先行したパスカル・アッカーマン(イスラエル・プレミアテック)の背後をきっちりマーク、視野が開けた瞬間にコース反対側へと一気に進路を進め加速、その速度に唯一食らいついたのはヤスパー・フィリップセン(アルペシン・ドゥクーニンク)だったが、全く並ぶことも出来ずにカベンディッシュが歴史を作る瞬間を最も近くで眺めることとなった。カベンディッシュは勝利を確信して手を挙げた瞬間になんとチェーンが脱落するも、そのまま惰性でゴールし、歴史にその名を刻んだ。多くの選手たちが握手と祝福の言葉をかけると、カベンディッシュは今までに見せたことのないような安堵の表情を見せた。
そしてこの日ポイント賞ジャージはマッズ・ペデルセン(リドル・トレック)とビニアム・ギルメイ(インターマルシェ・ワンティ)の先着者が獲得することとなっていたが、ペデルセンがゴール直前で落車、これによりギルメイが先日のアフリカ系有色人種として、エリトリア人としてのツール・ド・フランス初ステージ勝利に続いて、アフリカ系有色人種として、エリトリア人として初のポイント賞ジャージを獲得した。
昨日の総合バトルから一転、この日はスプリンターたちにとっては待ちに待った勝利の匂いのする一日、各チームとスプリンターたちは、ようやく巡ってきたチャンスを掴むべく、激走する。しかしこの日は中央分離帯などのコース上の障害物に多くの選手が泣かされることとなった。集団後方の選手にとっては、目の前の選手が突然道路障害物を避けられると、行き場を失うことになるのだ。マイヨ・ジョーヌのタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)もあわや障害物に接触かと思われたが、神業的バイクコントロールでこれを回避した。しかしそのあおりを食らってその背後にいたペッロ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス)は落車、首を振りながら起き上がり、再スタートを切った。
さらにはヨナス・ヴィンゲガード(ヴィズマ・リースアバイク)の貴重なアシストでもあるクリスト・ラポルト(ヴィズマ・リースアバイク)も障害物を避けようとした選手に前輪をひっかけられ落車するなど、大事には至らないながらもコースに翻弄されることとなった。
そんな街中のコース設定が、この日の最後のスプリントまで影響を及ぼした。残り5㎞の救済措置ゾーンまでは総合系チームがけん引したが、それを過ぎたとたんにアルペシン・ドゥクーニンクや、インターマルシェ・ワンティ、アスタナ・カザフスタンなどが順番に先頭に出るなど、目まぐるしく展開が変わっていく。さらにはコーナーの連続、そしてコーナーの立ち上がりが突然細くなるコース設定などが徐々に集団を縦に伸ばしていった。
今大会出場チームの中で唯一チームとしてのステージ勝利が全くないUNO-Xモビリティは、山岳賞ジャージのヨナス・アブラハムセンがチームのスプリントエース、アレクサンダー・クリストフのために仕事をすると、そのクリストフはカベンディッシュとフィリップセンに次ぐステージ3位に入った。
しかしこの日の主役はカベンディッシュ、ピークを過ぎたとは思えない爆発的な加速の前に今大会終結した世代最強のスプリンターたちは何もできないままに敗北することとなった。はまれば強い、勝負師の嗅覚の凄さをいうものを改めて思い知るステージとなった。
マーク・カベンディッシュ(ステージ1位)
「正直自信を失ってはいたんだよ。でもアスタナは僕を出場させるというギャンブルに出たんだ。チームにとっても僕中心でステージ勝利を狙うという一択のギャンブル、そんな賭けに監督のビノクロフが出てくれているんだから、もうやるしかないよね。ツールの勝利は特別なんだよ。これでUCI世界ランクの1位になれるわけではないけど、でもこの勝利というのがいかに特別なものかはわかるだろ。チームプレイという意味では綺麗な隊列で勝負に持ち込めたわけではなかったけど、でもあの段階で僕があのポジションにいられたのはチームのおかげなんだよ。そして体が今までのようにベストではないのであれば、あとは頭を使って勝負するだけだよ。」
タデイ・ポガチャル(総合1位)
「子供のころ、兄貴や友達とカベンディッシュが爆発的に勝利するのを見て熱狂したんだよ。今はそんな彼と6年プロ生活を共にして、友人にもなれたんだ。ツールステージ35勝、僕の12勝なんて足元にも及ばないよ。歴史的瞬間に立ち会えてうれしいよ。」
ツール・ド・フランス第5ステージ順位
1位 マーク・カベンディッシュ(アスタナ・カザフスタン) 4h08’46”
2位 ヤスパー・フィリップセン(アルペシン・ドゥクーニンク)
3位 アレクサンダー・クリストフ(UNO-Xモビリティ)
4位 アルノー・デ・リー(ロット・デスティニー)
5位 ファビオ・ヤコブセン(チームDSMフィルメニッヒ・ポストNL)
6位 パスカル・アッカーマン(イスラエル・プレミアテック)
7位 アルノー・デマール(アルケアB&Bホテルズ
8位 ゲルベン・タイセン(インターマルシェ・ワンティ)
9位 ビニアム・ギルメイ(インターマルシェ・ワンティ)
10位 マリン・ファン・デン・ベルグ(EFエデュケーション・イージーポスト)
ツール・ド・フランス総合順位
1位 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ) 23h15’24”
2位 レムコ・エヴァネポエル(ソウダル・クイックステップ) +45”
3位 ヨナス・ヴィンゲガード(ヴィズマ・リースアバイク) +50”
4位 ホァン・アユソ(UAEチームエミレーツ) +1’10”
5位 プリモズ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグロエ) +1’14”
6位 カルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアス) +1’16”
7位 ミケル・ランダ(ソウダル・クイックステップ) +1’32”
8位 ジョアオ・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)
9位 ギウリオ・チッコーネ(リドル・トレック) +3’20”
10位 イーガン・ベルナル(イネオス・グレナディアス) +3’21”
H.Moulinette