ツール・ド・フランス2022St.11:チーム力炸裂!中盤のユンボ・ヴィズマが波状攻撃から最後はヴィンゲガードがアタックを決め勝利で総合首位!ポガチャルついに陥落!総合大シャッフル(ダイジェスト動画あり)


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長いツール・ド・フランスの歴史の中で2度目の登場となったゴールのコル・ドゥ・グラノン、初めて登場したときは、歴史に残る名選手のベルナール・イノーがマイヨ・ジョーヌを失った。そして2度目の登場となった今大会では、一部の隙もないと思われてきた絶対的王者、3連覇へ向けてまっしぐらかと思われたタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)が完敗ともいえる失速で、マイヨ・ジョーヌを明け渡すこととなった。歴史に残る激戦、これからも語り継がれるであろう名勝負と言えるステージとなった。

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ステージ優勝をしたのは昨日まで総合3位のヨナス・ヴィンゲガード(ユンボ・ヴィズマ)、このステージだけでポガチャルに3分近いタイム差をつけての圧勝、一気に総合リーダーに躍り出た。今大会打倒ポガチャルを掲げ最強メンバーを揃えてきたユンボ・ヴィズマの作戦が、大会中盤、クイーンステージ前の山岳で見事炸裂、難攻不落と思われたポガチャルを派手に撃破することに成功した。これでポガチャルはステージ3位のロメイン・バルデ(チームDSM)にも抜かれ総合3位、ステージ4位のゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアス)とも僅か4秒差、ステージ2位で大きくジャンプアップを果たしたナイロ・キンターナ(アルケア・サムシック)とのタイム差も15秒と、昨日までの圧倒的優位から一変、ライバルたちのど真ん中に放り出される形となった。

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この日のレースが大きく動いたのは、一級山岳のテレグラフ峠、そして今大会の最高到達地点、標高2642mの超級山岳、名物ガリビエ峠だった。先行する逃げにスタミナ十分のポイント賞リーダー、ワウト・ファン・アールト(ユンボ・ヴィズマ)を送り込んだユンボ・ヴィズマは、ポガチャルに対して波状攻撃を仕掛ける。まず仕掛けたのはヴィンゲガードだった。さらに第5ステージで落車、脱臼をしてしまい総合リーダー争いから一歩脱落したプリモズ・ログリッチ(ユンボ・ヴィズマ)が連続してアタック、総合から脱落しているとはいえ、総合優勝を狙えるだけの実力があり、エースでもあるこの男の動きを、ポガチャルは見逃すわけにはいかない。この波状攻撃に加え、ユンボ・ヴィズマはクリストフ・ラポルテとティス・ベノート、スティーブン・クライズワイクというアシストを残しており、ポガチャルは完全に孤立無援で踏ん張らねばならない状況が続く。ポガチャルも負けじとアタックを仕掛けるが、これはあくまでも牽制のみ、アシストがいないポガチャルはチームメイトの助けを待たざるを得ない状況となる。
ようやくマルク・ソレル(UAEチームエミレーツ)が合流し、さらにブランドン・マクナルティ(UAEチームエミレーツ)も追いつき、ライバルにペースを握られないために集団の先頭を引くこととなる。他の総合総合上位勢もこのポガチャル対ユンボ・ヴィズマに翻弄され、脱落と集団復帰を繰り返すことなる。

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そしてガリビエの頂上まで6㎞、ユンボ・ヴィズマがさらなる攻めに転じる。今度はべノートのアタックからログリッチ、ヴィンゲガードとまたしても波状攻撃を加えつつ、セップ・クスとスティーブン・クライズワイク(ともにユンボ・ヴィズマ)というトップクラスのクライマーが合流し、8人中4人がユンボ・ヴィズマと言う優位な状況を作り出す。バルデ、キンターナとトーマスらはポガチャルの動きだけに注目し、事の成り行きを見守りつつ自分のペースで走り続ける。

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しかし頂上までの上りでログリッチが脱落すると。ここでポガチャルが逆襲に出る。一気にペースを上げ、ユンボ・ヴィズマのアシスト勢をすべて振り切り、残るはヴィンゲガードのみとなり、バルデ、トーマス、キンターナの各チームのエースとクライズワイク、クス、アレクセイ・ルチェンコ(アスタナプレミアテック)らがそれを追う。このままポガチャルらはガリビエを超えていくが、その背後ではダビ・ガウドゥ(グルーパマFDJ)がチームメイトに守られじわじわとペースアップ、アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアス)らも加わり、さらには先行していた逃げのファン・アールトは躊躇なくペースを落としログリッチのところまで下り、そのまま猛追を開始、総合上位勢がポガチャルらにまたも合流を果たす。

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そして迎えた残り11.3㎞からの最後の超級山岳、グラノン峠でそのドラマは待っていた。先行して逃げ続けているワーレン・バルギル(アルケア・サムシック)らの背後で始まった直接対決、ここでも先に仕掛けたのはユンボ・ヴィズマ、ログリッチが加速をするが、これは復活したUAEチームエミレーツのアシスト、ラファル・マイカが対応、このペースが結果としてヴィンゲガード以外のユンボ・ヴィズマ勢をすべて脱落させることとなる。しかしポガチャルの挙動にはいつもの余裕が感じられない。するとキンターナ、バルデと順にアタックを決め、さらには残り5㎞でヴィンゲガードがまたしてもアタックを仕掛ける。マイカはこれに歯を食いしばり反応したが、振り返ればエースのポガチャルが全く動けなくなっていた。それを確認したヴィンゲガードは、ここから怒涛の走りを見せる。

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そのままぐんぐんとペースを上げ、残り4㎞ではすでに先行していたチームメイトのとバルギルを捉えていたキンターナを抜き単独先頭に躍り出る。こうなれば後はもう鬼の形相でゴールまで一切力を抜くことなく走り切り勝負あり、見事力技でステージ優勝を決めた。キンターナが2位、バルデがそのすぐあと3位で入り、トーマスが4位、さらにはガウドゥ、イェーツと続き、ようやくポガチャルがゴールした。これで総合順位は一気に大シャッフル、総合7位までが3分台のタイム差となっており、大会前の予想をはるかに上回る大混戦となっている。

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「タイム差が広がっていっているのが、追い風になったのは間違いないよ。最後の超級は本当にきつかったよ。とにかく早く終われ、と思っていたよ。実は練習の時はこの最後の上りをさぼったんで、今日が初めてだったんだよ。残り3㎞からはもう頭の中が真っ白だったよ。もちろん今日のチームの攻撃はリスキーだったよ。でも僕もログリッチもツールで総合2位になっていて、ここで何かしなければ、また2位で終わると思ったんだ。今日は改めてログリッチの偉大さを感じたよ。彼がいなければ、僕はポガチャルに真っ向勝負は挑めなかったからね。最後は直接対決になったけど、あそこでも自分が動かなければ負ける、と思っていたので仕掛けたんだよ。とにかく今日はうちのチームの精神力の強さを感じただろ。」ヴィンゲガードは今日の勝利がチームの勝利であることを強調した。

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そして後れを取ったポガチャルは、その以後追いついてきたライバルたちに次々とかわされていく。最後まで粘りの走りは見せたものの、ステージ7位と完敗、ゴール後はメディアに取り囲まれながら息を切らせながらうつむき呼吸を整えた。その後ヴィンゲガードを祝福するも、その笑顔には一抹の寂しさを感じさせた。「まだツールは終わっていない」と発言する通り、まだ大会は中盤に差し掛かったばかり、難関ステージが明日以降も続くことを考えれば、まだまだ波乱は起きそうな予感がする。
ツール・ド・フランス第11ステージダイジェスト
ツール・ド・フランス第11ステージ順位
1位 ヨナス・ヴィンゲガード(ユンボ・ヴィズマ) 4h18’02”
2位 ナイロ・キンターナ(アルケア・サムシック) +59”
3位 ロメイン・バルデ(チームDSM) +1’10”
4位 ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアス) +1’38”
5位 ダビ・ガウドゥ(グルーパマFDJ) +2’04”
6位 アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアス) +2’10”
7位 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ) +2’51”
8位 アレクセイ・ルチェンコ(アスタナプレミアテック) +3’38”
9位 スティーブン・クライズワイク(ユンボ・ヴィズマ) +3’59”
10位 ワーレン・バルギル(アルケア・サムシック) +4’16”

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ツール・ド・フランス総合順位
1位 ヨナス・ヴィンゲガード(ユンボ・ヴィズマ) 41h29’59”
2位 ロメイン・バルデ(チームDSM) +2’16”
3位 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ) +2”22”
4位 ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアス) +2’26”
5位 ナイロ・キンターナ(アルケア・サムシック) +2’37”
6位 アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアス) +3’06”
7位 ダビ・ガウドゥ(グルーパマFDJ) +3’13”
8位 アレクサンダー・ヴラソウ(ボーラ・ハンスグロエ) +7’23”
9位 アレクセイ・ルチェンコ(アスタナプレミアテック) +8’07”
10位 エンリック・マス(モビスター) +9’29”
H.Moulinette