ツール・ド・フランス2022St.5:石畳でユンボ・ヴィズマに悪夢!ダブルエースにトラブルでタイムロスも、マイヨ・ジョーヌのファン・アールトが激走で耐える、春先まで無所属のクラークが勝利!(ダイジェスト動画あり)
パリ~ルーベを彷彿とさせる石畳の第5ステージは、選手たちの実力だけではなく、「運」も試されるステージとなった。昨日圧倒的なパフォーマンスを見せ、チーム力と組織力を見せつけたユンボ・ヴィズマにとっては、改めてその組織力を披露する場とはなったが、それは悪夢のようなヨナス・ヴィンゲガードとプリモズ・ログリッチのダブルエースのトラブルによるものだった。それぞれメカトラと落車でタイムを失う悪夢に近い一日となってしまった。しかしそれを最低限に抑えたのは、総合リーダーの証マイヨ・ジョーヌを着用するワウト・ファン・アールト(ユンボ・ヴィズマ)の怒涛の走りだった。連日レースの中心にいる男が、この日は自らの勝利を捨ててでもエースたちを救う役回りを最後まで演じて見せた。対して昨日アシストの少なさを露呈したタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)はノートラブルで走り切り、ライバルたちとのタイム差を広げることに成功した。
そんな総合勢にとっての荒れたステージは、逃げ切りで勝利が決まる形となった。スタート直後から逃げたのは、連日逃げ続けているマグナス・コルト(EFエデュケーション・イージーポスト)らを含む6人、徐々に人数を減らしながらも、最後まで追走の集団に追いつかれることなく、最後は3人でのゴールスプリント勝負となった。そして写真判定にまでもつれる大接戦を制したのはサイモン・クラーク(イスラエル・プレミアテック)、春先まで所属チームが見つからなかった男が、拾ってくれたチームに最高の恩返しを果たした。タコ・ファン・デル・ホーン(インターマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオー)はあと僅かなところで大金星を逃した。「チャンスをくれたイスラエルプレミアテックには感謝しかない。だからチームにとって初のツールの勝利がもたらせてよかった。」ベテランのクラークの勝負勘は健在だった。
逃げの6人の後ろで、ドラマは起こり続けた。新旧シクロクロス世界王者のファン・アールトとマシュー・ファン・デル・ポエルはともにこのステージの有力な優勝候補だったレース中盤から始まる11の石畳セクターの序盤からファン・アールトは落車、ファン・デル・ポエルは何度となくパンクに泣かされる。そして追走の集団は石畳で分断されていく。総合勢で最初に脱落したのはベン・オ・コナー(AG2Rシトロエン)、セクター9でパンクを喫すると、そのままメイン集団に追いつくことができなかった。そして残り35㎞過ぎのセクター6から、ユンボ・ヴィズマの悪夢が始まる。まずはポガチャルらと追走のメイン集団にいたヴィンゲガードがパンク、慌ててチームメイトのバイクをもらうが、これがサイズが大きすぎサドルに座って漕ぐことができない、そしてすぐさま下がってきたもう一人のアシスト、スティーブン・クライズワイク(ユンボ・ヴィズマ)のバイクをもらうも、このタイミングでようやくチームカーが到着、スペアバイクへと乗り換え、追走を開始する。
ここでユンボ・ヴィズマは大きな選択をする。メイン集団にはログリッチにクリストフ・ラポルテ(ユンボ・ヴィズマ)のアシストただ一人を残し、総合リーダーのファン・アールトも下がってヴィンゲガードの追走を牽引する決断に出る。昨日も勝利し絶好調の総合リーダーのこの日の勝利の可能性を閉ざしても、エースをアシストして総合を狙うことに徹したのだ。
しかしこの直後、残り30㎞でさらなる悪夢がユンボ・ヴィズマを襲う。ラウンドアバウトに置かれた藁のバリアがモトバイクによってずれて路上に出っ張ってしまい、これに引っかかったログリッチが落車してしまう。この落車でログリッチは肩を脱臼、沿道の観客の椅子を借り座って肩をはめるのに時間を要した。これでヴィンゲガードらの追走のさらに後ろまで下がってしまうこととなる。ただヴィンゲガードの追走アシストに人数を割いているユンボ・ヴィズマは、ログリッチに十分にアシストを割けない。
ポガチャルはジャスパー・ストゥーベン(トレック・セガフレド)と共に追走集団から飛び出し、先頭の逃げ集団を追う。その背後のメイン集団のさらに後ろにいるヴィンゲガードの集団には、途中落車を喫したゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアス)、さらにはアダム・イェーツとダニエル・マルチネスのイネオス・グレナディアス集団も加わり、猛追を仕掛ける。
ポガチャルは追走で後続とのタイム差を広げたかったが、不慣れな石畳をうまくこなしているとはいえ最後は失速、先頭の逃げ集団のゴール後、51秒後にゴールした。バーチャルでのマイヨ・ジョーヌは二転三転し続けたが、猛追を仕掛けたファン・アールトはその背後13秒差にまで迫り、エースのヴィンゲガードのタイムロスを最小限にとどめるとともに、自らのマイヨ・ジョーヌも守り切った。しかしログリッチは2分以上と大きくタイムを失い、順位を大きく下げた。これでユンボ・ヴィズマはエースがヴィンゲガード一本に絞る可能性が高くなるとともに、イネオス・グレナディアスの3人が総合トップ10に顔を出し、不気味な存在となっている。ポガチャルはライバルの自滅に伴いタイム差を広げる大チャンスではあったが、思ったよりも広がることがなかった。
「今日は予定していた戦略が何一つ実行できなかったよ。こんなはずじゃなかったんだけど、たった10㎞ほどの間に、すべてが最悪な方に出てしまったよ。結果追走に時間を費やすだけで終わってしまった。でもチームワークを優先することには躊躇はなかったよ。でも今日は目論見が崩れてしまったので、ただ耐えるだけのステージになってしまったよ。」ファン・アールトはレース後冷静に語った。
ツール・ド・フランス第5ステージダイジェスト
ツール・ド・フランス第5ステージ順位
1位 サイモン・クラーク(イスラエル・プレミアテック) 3h13’35”
2位 タコ・ファン・デル・ホーン(インターマルシェ・ワンティゴベール・マテリオー)
3位 エドヴァルド・ボアッソン・ハーゲン(トータルエナジーズ) +02”
4位 ニールソン・パウレス(EFエデュケーション・イージーポスト) +04”
5位 マグナス・コルト(EFエデュケーション・イージーポスト) +30”
6位 ジャスパー・ストゥーベン(トレック・セガフレド) +51”
7位 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)
8位 ヤスパー・フィリップセン(アルペシン・ドゥクーニンク) +1’04”
9位 ファビオ・ヤコブセン(クイックステップ・アルファヴァイニル)
10位 ルーカ・モッツァート(B&BホテルズKTM)
ツール・ド・フランス総合順位
1位 ワウト・ファン・アールト(ユンボ・ヴィズマ) 16h17’22”
2位 ニールソン・パウレス(EFエデュケーション・イージーポスト) +13”
3位 エドヴァルド・ボアッソン・ハーゲン(トータルエナジーズ) +14”
4位 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ) +19”
5位 イブ・ランパート(クイックステップ・アルファヴァイニル) +25”
6位 マッズ・ペデルセン(トレック・セガフレド) +36”
7位 ヨナス・ヴィンゲガード(ユンボ・ヴィズマ) +40”
8位 アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアス) +48”
9位 トム・ピドコック(イネオス・グレナディアス) +49”
10位 ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアス) +50”
H.Moulinette