シクロクロス世界選手権:本命なき激戦は東京五輪MTB金メダルのピドコックが圧勝!アップダウンと担ぎもあるオフロードで平均時速40㎞オーバーの高速バトルで独走勝利!
アメリカで行われたシクロクロス世界選手権、世界の頂点を巡るバトルは、過去7年間世界チャンピオンの座を分け合ってきたマシュー・ファン・デル・ポエル(オランダ)が背中の痛みの再発で未出場、ワウト・ファン・アールト(ベルギー)が機たるロードシーズン春のクラシックへ向けての準備に専念するため、時差のあるアメリカでのレースを断念し、ツートップ不在となった。そうなれば誰もにチャンスがある状況、今年間シリーズ戦では7人の勝者が生まれ、その中でもこのコースで勝利したことのあるクインテン・ヘルマンス(ベルギー)が有利かに思われたが、こちらは渡米前の検査でコロナ陽性となり出場ができなかった。そうなれば年間7勝で王者となったイーライ・イザービット(ベルギー)が本命視された。しかし勝利の女神は東京五輪MTB金メダリストのトム・ピドコック(イギリス)の圧倒的な走りに微笑んだ。これでピドコックはジュニア、U-23 、そしてエリートとすべての階級で世界の頂点に立った。
今年間シリーズ戦第2戦とは打って変わって温度も15度と春先のような陽気となり、路面が固く引き締まった状態は、超高速バトルになることを予感させた。パワーとスピード、そしてトリッキーなコーナーが行く手を阻む中、レースはスタートから目まぐるしく先頭争いが変わる展開となる。ベルギーはわかりやすくピドコックをマーク、マイケル・ファントゥーレンハウト(ベルギー)やトゥーン・アールツ(ベルギー)、ローレンス・スウィーク(ベルギー)らが加速を繰り返し脚を使わせる作戦に出る。しかしロードでみっちりと昨年度絞られてきたピドコックにとっては、この緩急ある走りは全く問題にはならなかった。対してベルギーは1周目で一人落車で攻め手を失うと、エースのイザービットがこの緩急ある展開に苦戦し始める。
ジャシュア・ドゥバウ(フランス)やラース・ファン・デル・ハール(オランダ)、クレメント・ヴェントゥリーニ(フランス)らも積極的な走りを見せ、ベルギーは数的優位による攻撃を思ったように続けられなくなっていく。すると9周回の4周目、ピドコックが早くも飛び出していく。もうこうなればライバルたちは必死に追いすがるしかなかった。ロードで鍛えられた走りは高速のコースではまさに鬼に金棒、さらにMTBで培った体幹の強さで、バイクを大きく傾けながらコーナーを小気味よくクリアしていく。さらにはピドコックのためだけに作られている特別マシンのトップチューブが、担ぎに特化しており、階段セクションでも軽やかに駆け抜けていく。
徐々にその差は開くと30秒ほどまで広がり、その差はゴールまで縮まることはなかった。最後はスーパーマンポーズのパフォーマンスでゴール、東京五輪MTB金メダリストはシクロクロスでも金メダルを獲得、世界の頂点に立った。2位争いは必死に追走を続けたイザービットとファン・デル・ハールが最後まで激しく競り合ったが、最後はゴール前でスプリント力に優れるファン・デル・ハールが勝利し銀メダル、イザービットは銅メダルに終わった。さらになんとか4位争いではファントゥーレンハウトが入ったが、5位にヴェントゥリーニが入り、シクロ大国ベルギーにとっては惨敗とも言える結果となった。
「きついレースになるとは思っていたよ。ベルギー勢が徹底マークしてくるのはわかっていたからね。でもまずはそれに離されないように徹していたら、自分の脚の調子がかなりいいことを自覚したんだ。それに多くの選手が上りセクションを仕掛けどころだと睨んでいたけど、そういうときって他のセクションが勝負の分かれ目になるんだよね。」勝利したピドコックは22歳らしからぬ冷静沈着な姿勢でレースを制した。イギリスは今週末ジュニア女子でもゾエ・バクステッド(イギリス)が勝利するなど、一躍シクロクロス大国に名乗りを上げた。
2位を確保したファン・デル・ハールは、「序盤はあまり調子が良くなかったんだよ。でも徐々にいい感じになっていったね。でもピドコックが仕掛けたタイミングで凡ミスをしてしまい、それで一気に差が広がったんだよ。気が付いたらもうどうしようもない状態になっていて、これは2位狙いに切り替えるしかないと判断したんだ。本当はもう少し早く仕掛ける予定だったんだけど、ヴェントゥリーニがペースを上げイザービットを翻弄してくれたんだ。その分僕は自分の勝負に徹することができたね。あとはもう銀か銅か、正直もうこの時点ではメダルの色はどうでもよかったよ。スプリントは僕の方が上なのはわかっていたし、ただライバルより前でゴールしたかっただけだよ。」、とレース後に語った。
一方でベルギーのエースという重圧に飲み込まれたイザービットは、「今日はベルギーチームの作戦通りに進んでいたよ。でもピドコックが仕掛けたタイミングで、僕の位置取りが悪かったよ。猛追したけど、もうどうにもならなかったよ。あとはファン・デル・ハールとの一騎打ちになったけど、ここでもついていけなかったよ。今日は銅メダル以上の結果は無理だったよ。」、と完敗を認めた。
シクロクロス世界選手権フェイエットヴィル・アメリカ
金メダル:トーマス・ピドコック(イギリス) 1h00’36”
銀メダル:ラース・ファン・デル・ハール(オランダ) +30”
銅メダル:イーライ・イザービット(ベルギー) +32”
4位:マイケル・ファントゥーレンハウト(ベルギー) +52”
5位:クレメント・ヴェントゥリーニ(フランス) +57”
6位:トゥーン・アールツ(ベルギー) +1’02”
7位:イェンス・アダムス(ベルギー) +1’06”
8位:ローレンス・スウィーク(ベルギー) +1’16”
9位:ケヴィン・クーン(スイス) +1’36”
10位:ダーン・ソート(ベルギー) +1’44”
H.Moulinette