世界選手権2021男子エリートロード:アラフィリップが20km以上を残して仕掛けて飛び出し独走勝利!鮮やかに昨年の再現でアルカンシエルをキープ!開催地元ベルギー完敗でメダルなし
クラシックレースの本場ベルギー、国技でもある自転車レースで強豪選手たちが名を連ね、メダル獲得は至上命題だった。しかしそのベルギー勢の思惑は見事なまでにライバルチームに打ち砕かれてしまった。世界選手権のクライマックス男子エリートロードで沿道の大観衆はブーイングからの静寂、ジュリアン・アラフィリップ(フランス)が全てのベルギーファンの夢を打ち砕く圧倒的な走りで昨年度に引き続き世界の頂点に立った。
あまりにも鮮やかだった。残り20㎞以上を残し、まずはチームメイトの∼のペースアップからのアタック、これでライバルたちに揺さぶりをかけると、先頭集団17人の状況ははっきりとした。それを理解したアラフィリップは何度となくここから揺さぶりをかける。ライバルにもペースアップを促すしぐさを見せるも、これに誰も反応しない。これでアラフィリップは確信をもって残り15㎞、急勾配で一気に仕掛けて見せた。ライバルたちの視野の先にあったのは、ワウト・ファン・アールト(ベルギー)とマシュー・ファン・デル・ポエル(オランダ)、この2強の存在が展開を大きく変えた。そのまま独走態勢に入ったアラフィリップに対し、お見合い状態となった追走4名、さらにはその背後の12名は、完全にタイミングを逸してしまった。
そのまま最後まで独走を続けたアラフィリップ、まるで昨年のリプレイを見ているかのような鮮やかすぎる勝利で大会連覇、2年連続で世界チャンピオンジャージに袖を通した。
合計で42もの丘を越えていく268.3㎞のこの日のレースは序盤から激しいバトルとなった。クラシックレースさながらのハードなコースは、人数を抱える地元ベルギーとフランスが激しい主導権争いを繰り広げ続けた。序盤に決まった逃げを早々に追撃を開始、ティム・デクレルク(ベルギー)が先頭でペースを上げていく。そんなか、この日の有力候補だったマッテオ・トレンティン(イタリア)、ダビデ・バレリー二(イタリア)、そしてマッズ・ペデルセン(デンマーク)が激しく落車、早々と優勝戦線から姿を消す。
そして残り200㎞で、早くもフランスが動き出す。ここからフランスとベルギーのアタック合戦が始まると、完全に二国間の一騎打ち状態となる。双方アタックを仕掛けあう中で、まずベノワ・コスネフロイ(フランス)が動き、さらにファン・アールトのアシストでありながら、エースクラスの実力者レムコ・エヴァネポエル(ベルギー)が飛び出すと、マグナス・コート・ニールセン(デンマーク)が合流、ベルギー勢がすぐさま追走をブロックして展開の主導権を握る。そしてそのままレースは周回コースへと突入していく。さらにそこにプリモズ・ログリッチ(スロベニア)やキャスパー・アスグリーン(デンマーク)アルノー・デマール(フランス)といった大物たちが合流し、15人にまで膨れ上がる。
するとこの動きに乗り損ねたイタリアが動き追走の姿勢を見せ、ようやくほかの国も活発な動きを始める。そして40㎞を費やし、ようやくこの集団を吸収ことに成功する。しかしそれもつかの間、またしてもアタックの応酬がはじまる。
残り92㎞、エヴァネポエルを中心とした11人の逃げが形成される。すると今度は選手を送り込めなかったイギリスが中心となった追走が始まる。この時点までのあまりの激しい展開に出場選手のおよそ半数がリタイアに追い込まれる。そしてこの逃げ集団に対し、アラフィリップが追走を仕掛け、ファン・アールトらを引き連れ、先頭集団への合流を残り58㎞で果たした。
エヴァネポエルはファン・アールトの為に献身的なアシストに徹し、17名の逃げは完全にメイン集団を引き離す。すると残り25㎞でアラフィリップがまずアタック、しかしこの動きはあまり長くは続かず吸収されてしまう。それでも何度となく揺さぶりをかけ続けるアラフィリップに対し、ファン・デル・ポエルの動きは冴えない。さらにファン・アールトの動きもキレがなく、戦前の優勝候補ツートップの動きが明らかにおかしい。
そして残り20㎞、3度目の正直で激坂で大きくアタックしたアラフィリップに対し、ライバルたちはまず加速についていけず、さらには誰が追走するのかお互いを見あってしまい、気が付けばその差は広がってしまう。何とか追走を仕掛けたディラン・ファン・バーレ(オランダ)、ミカエル・ヴァルグレン(デンマーク)、ジャスパー・ストゥーヴェン(ベルギー)、ニールソン・パウレス(アメリカ)の4名だが、積極性を欠いた追走のため、先頭のアラフィリップとの差は縮まらない。しかしそれでも背後のファン・アールトらからはタイムを稼ぎ出し、銀メダル争いはこの4人に絞られた。
何度となく主催者にタイムを確認しながら逃げ続けたアラフィリプは、残り1㎞を前に勝利を確信、沿道の観客を煽り声援を求める。そのまま余裕をもってガッツポーズでゴール、見事の意大会連覇を成し遂げた。下馬評では不利と言われた男が、自らのスタイルを貫き通し勝利を再び掴み取った。そして2位争いは激しいスプリント勝負となりファン・バーレが銀メダルを獲得した。ヴァるグレンが僅差の3位、写真判定の結果ストゥーヴェンは4位に沈み、地元ベルギー勢はメダルを獲得できないという屈辱の大会となった。単独追走を仕掛けてきたトム・ピドコック(イギリス)は追走4人に届かずパウレスに次いで6位となった。
「去年一年間世界チャンピオンジャージでレースできたのは夢の様だったよ。今日は本当にきつかった分、本当にうれしいよ。とにかくチームの為にも結果が欲しかったし、できる限りいい順位でゴールしたい、というのがモチベーションになっていたんだ。脚は良く回っていたし、仕掛けるしかないと思ったんだ。勝てるとまでは思っていなかったよ。最後は沿道の観衆から「ゆっくり走れ」コールや野次があったけど、それで逆に燃えたね。あとは息子のことが頭の中をよぎったんだよ。」アラフィリップは沿道の観衆の罵倒さえ、そのエネルギーに変えて見せた。
敗北したファン・アールトは、「僕だって人間だよ。アラフィリップが強くて、僕が調子がいまいちだっただけだよ。」とコメント、敗北への失意をにじませた。そして残りの選手たちの多くが、「ファン・アールトとファン・デル・ポエルをマークしていてアラフィリップに対応できなかった」とコメント、2強の存在感がアラフィリップに最高のチャンスもたらした。
世界選手権2021男子エリートロード
1位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス) 5’56’34”
2位 ディラン・ファン・バーレ(オランダ) +32”
3位 ミカエル・ヴァルグレン(デンマーク)
4位 ジャスパー・ストゥーヴェン(ベルギー)
5位 ニールセン・パウレス(アメリカ)
6位 トーマス・ピドコック(イギリス) +39”
7位 ゼネク・スティバー(チェコ) +51”
8位 マシュー・ファン・デル・ポエル(オランダ)
9位 フロリアン・セネシャル(フランス)
10位 ソニー・コルブレッリ(イタリア)
H.Moulinette