東京五輪MTB女子クロスカントリー:近代五輪自転車競技では初、スイスが金、銀、銅独占!脳トレをメニューに組み込んでいるネフが鮮やか独走勝利、シーズン好調のメダル候補は皆撃沈


©Jolanda Neff
オリンピックという場所は、やはり思わぬ結果が当たり前のように起きる可能性があるのだ。女子クロスカントリーでは、1904年以来、近代五輪では初となる一か国による金、銀、銅独占となった。今シーズン好調なメダル候補たちが軒並み結果が残せない中で、ヨランダ・ネフ、シナ・フレイ、リンダ・インダーガンドのスイス3人衆が偉業を達成してのけた。これでMTBでは男子の銀メダルと合わせて、6つ中4つのメダルを獲得の荒稼ぎとなった。

©Jolanda Neff
金メダルを獲得したネフは、男子金メダルのピドコック同様に、シクロクロス、ロードレース、MTBと3足の草鞋で活躍、特にMTBでは2014、2016、2017,2018,2020,2021年と5度のスイスチャンピオンとなり、2015,2016,2018年にはヨーロッパチャンピオン、2017年には世界チャンピオンも獲得している。またシクロクロスでも2019年にスイスチャンピオンとなり、ロードでも2015,2018年にスイスチャンピオンとなっている。
大雨による路面コンディションの影響でコース変更とコース短縮があり、選手たちにとっては精神的に切り替えが必要となるなど、難しいレースとなった。今シーズンワールドカップシリーズで負け知らずのロアナ・レコム(フランス)を筆頭に、前回五輪金メダリストのジェニー・リスベッズ、さらには現世界チャンピオンのポーリーン・プレヴォ(フランス)など強豪が顔を並べる中で、ネフは2019年の落車での脾臓と肺破裂、さらには復帰した今シーズンは6週間前にワールドカップシリーズ戦で手を骨折と怪我が続き本命視されてはいなかった。

©Jolanda Neff
しかし昨晩の雨とぬかるんだ泥という悪条件が味方する。スタート直後こそレコムが先行したが、1周目でネフが先頭に躍り出ると、反応できたのはプレヴォのみだった。しかしそのプレヴォが下りで落車すると、そこからはもう一人舞台だった。もともとテクニカルな走行が得意でライン取りに秀でているネフは、他の選手たちがスリップ、落車、バイクを押すようなセクションも難なくクリアしていく。そのまま後続に大差をつけて独走で勝利を決めた。さらにフレイとインダーガンドが4位以降に差をつけ銀、銅を獲得した。今シーズン負けなしだったレコムは6位、プレヴォは10位、リズベッズは14位に終わった。
その圧倒的な勝利の裏には、ずっと続けてきた精神コントロールのトレーニングがあった。脳トレでもあり、自分の感情をコントロールするトレーニングを積んできたことで、突然の状況変化にも柔軟に対応、冷静に状況を見極め金メダルを獲得した。
「”この変化する状況での勝利は、非常に価値がある”って言われたの。”MTBとは何たるかを知る者が勝つ”ってね。もちろん技術が必要だけど、それ以外のすべてが要求されたのが今日のレースだったわ。とにかく勝てたのが最高!」

©Jolanda Neff
「よりよいパフォーマンスをするためには、もっとプッシュして攻めればいいんだけど、それは同時に自分自身の感情をコントロールしなきゃいけないの。イケイケで調子に乗れば、絶対にぼろが出る。攻めても冷静な判断力を失わないように気持ちをコントロールすることが重要なの。そうしないとリラックスもできないし、エレガントで美しい走りなんてできないでしょ。それに、”レースがすべてじゃない、人生にはもっと楽しめることがある”って気持ちをコントロールしていると、レースでは余裕が持てるでしょ。」ネフはチャンピオンとは何たるかを体現して見せた。個の精神力の強さでプレッシャーをも楽しみに変えて完璧な勝利を演出した。
東京五輪MTB女子クロスカントリー
金メダル ヨランダ・ネフ(スイス) 1h15’46”
銀メダル シナ・フレイ(スイス) +1’11”
銅メダル リンダ・インダーガンド(スイス) +1’19”
4位 カタ・ブランカ・ファス(ハンガリー) +2’09”
5位 アン・テルプストラ(オランダ) +2’35”
6位 ロアンナ・レコム(フランス) +2’57”
7位 エヴィー・リチャーズ(イギリス) +3’23”
8位 ヤナ・ベロモイナ(ウクライナ) +3’54”
9位 ハーリー・バットン(アメリカ) +4’27”
10位 ポーリーン・プレヴォ(フランス) +4’32”
H.Moulinette