ブエルタ・ア・エスパーニャ第12ステージ:激坂アングリル勾配20%オーバーで全員苦悶の激しい超低速総合バトル!カーシーが独走で勝利、カラパズがログリッチからリーダージャージ奪取!

僅か100㎞ほどのショートコース、でも時にそれは距離以上の試練を含んでいる。特にそれが激坂を含んだ山があれば、それは多くの選手たちにとってはオーバータイムで失格にならない為のサバイバルとなる。予想以上の高速ペースで超級アングリル峠を迎えた総合勢によるバトルは、必死にこいでいるにもかかわらず止まりそうな勢いでの超低速バトル。誰もが苦悶の表情を浮かべ、歯を食いしばりながらの走行となった。それほどまでに過酷なこのステージで総合優勝争いはさらに大きく絞られることとなった。

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そんなステージを制したのは総合4位につけていたヒュー・カーシー(EFプロサイクリング)。途中一度は遅れるも、歯を食いしばりながらじわじわと追いつくとそのまま先頭集団へと合流しそこからアタック、最後は独走でステージ勝利を挙げるとともに、これで僅差の総合3位まで順位を上げてきた。

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この日は20名の逃げが発生、中でも山岳賞を狙うギヨーム・マルタン(コフィディス)がこの日も山岳ポイントを荒稼ぎし、そのまま逃げの2人と共にアングリルへと突入する。後続のメイン集団は、序盤はモビスターがけん引するも、昨日総合順位を上げたマルク・ソレル(モビスター)がペースが上がらない。アングリル手前の山岳でも後れを取るなど、この日は攻撃の手札が使えない。すると総合リーダージャージのプリモズ・ログリッチ(ユンボ・ヴィズマ)要するユンボ・ヴィズマが積極的な動きを見せ、そのままライバルたちを削りながら最後のアングリルへと突入していく。

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平均斜度14%、最大勾配23パーセントという劇坂の山、あえてつづら折りにせず直線で上るために勾配がきついこの山は、山岳が苦手な選手たちにとっては壁のように立ちはだかる。それでも先頭集団はユンボ・ヴィズマのハイペースでどんどんと上っていく。お得意のトレインはライバル勢のアシストを大幅に削ることに成功、残り10.5㎞で逃げ集団も飲み込み状況はあっという間に総合勢による直接バトルへと持ち込まれる。
残り10㎞時点でユンボ・ヴィズマはまだアシストがペースを上げる中、ログリッチの最大ライバルと目されているリチャード・カラパズ(イネオス・グレナディアス)はすでにアシストがなく単騎となる。モビスターはエンリック・マスとアレハンドロ・バルベルデの2枚、EFプロサイクリングはマイケル・ウッズとカーシーの2枚を揃え、ダニエル・マーティン(イスラエル・スタートアップネーション)も順調に上っている。

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しかしユンボのアシスト、ヨナス・ヴィンゲガードの走りが全員を追い込んでいく。あまりのハイペースアシストに、エースのログリッチまでもが苦しい表情でダンシングをする。これによりバルベルデ、総合7位のフェリックス・グロスチャートナー(ボーラ・ハンスグロエ)、総合10位のミケル・ニエベ(ミッチェルトン・スコット)らが脱落する。

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残り3.5㎞、一旦は集団の最後尾まで番手を下げたマスが一気の加速で先頭に躍り出る。目の前に見える背中は遠ざかってはいかないが、急こう配ではこの10mが10秒以上のタイム差を意味する。これでばらけた集団はヴィンゲガードが離脱し、セップ・クス(ユンボ・ヴィズマ)がログリッチの最終アシストとして動く。ただここでログリッチが伸びてこない。

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残り2㎞を切り勾配は20%を超えて誰もが歯を食いしばりダンシングでなければ上れない状況となる。だがそんな中でログリッチの状況を見た見たカラパズとカーシーはアタックを仕掛け、マスへと合流する。アシストのクスは明らかに余裕があるが、たいしてエースのログリッチが苦しむため、そのサポートに徹する。
そしてカーシーはさらに勾配がきつい状況で踏み込み、単独で先頭に躍り出る。そのまま最後まで独走態勢を守り抜き見事なステージ優勝、アングリルを制したものとしてその名を歴史に刻んだ。ステージ2位にはアレクサンダー・ヴラソフ(アスタナ)、そして3位にはマス、同タイムでカラパズが入り、これでカラパズは再びマイヨ・ロホをログリッチから奪い返した。しかしログリッチが踏ん張り耐え抜いたことで得られたアドバンテージは僅か10秒、タイムトライアルを休息日明けに迎えるだけに納得のいく結果ではなかったようだ。
「2017年のブエルタでのアングリルは覚えていたよ。ただそれでも想像以上だったよ。最後はマスとカーシーと共に仕掛けて、なんとか10秒の貯金を稼げたよ。少ないけどこれは前向きな一歩だよ。あとは個人TTでベストを尽くすだけだよ。とにかくもう一度マイヨ・ロホを奪還できたのは率直にうれしいよ。これがチームが頑張ってきたあかしだからね。」カラパズは淡々と語った。

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「プロ選手共通の夢はグランツールでのステージ優勝だろ。それを達成できたんだよ!言葉では言い表せないよ。これで総合でも僅差だろ、これがエンターテイメントとして皆が見たがっているロードレースだよね。」カーシーは上機嫌だった。
ブエルタ・ア・エスパーニャ第12ステージダイジェスト
ブエルタ・ア・エスパーニャ第12ステージ順位
1位 ヒュー・カーシー(EFプロサイクリング) 3h08’40”
2位 アレクサンダー・ヴラソフ(アスタナ) +16”
3位 エンリック・マス(ドゥクーニンク・クイックステップ)
4位 リチャード・カラパズ(イネオス・グレナディアス)
5位 プリモズ・ログリッチ(ユンボ・ヴィズマ) +26”
6位 セップ・クス(ユンボ・ヴィズマ)
7位 ダニエル・マーティン(イスラエル・スタートアップネーション)
8位 ワウト・ポエルス(バーレーン・マクラーレン) +1’35”
9位 マイケル・ウッズ(EFプロサイクリング)
10位 フェリックス・グロスチャートナー(ボーラ・ハンスグロエ) +2’15”
ブエルタ・ア・エスパーニャ総合順位
1位 リチャード・カラパズ(イネオス・グレナディアス) 48h29’27”
2位 プリモズ・ログリッチ(ユンボ・ヴィズマ) +10”
3位 ヒュー・カーシー(EFプロサイクリング) +32”
4位 ダニエル・マーティン(イスラエル・スタートアップネーション) +35”
5位 エンリック・マス(ドゥクーニンク・クイックステップ) +1’50”
6位 ワウト・ポエルス(バーレーン・マクラーレン) +5’13”
7位 フェリックス・グロスチャートナー(ボーラ・ハンスグロエ) +5’30”
8位 アレハンドロ・バルベルデ(モビスター) +6’22”
9位 アレクサンダー・ヴラソフ(アスタナ) +6’41”
10位 ミケル・ニエベ(ミッチェルトンン・スコット) +6’42”
H.Moulinette