世界選手権2020男子エリートロード:「てっぺん取った!」アラフィリップが快心のアタックで念願の金メダル!ファン・アールトはITTに続きまたしても銀、ツールで躍動のヒルシが銅メダル
世界選手権は誰もが欲しがるタイトルであり、毎年一人その頂点には立つことができない。グランツールの総合優勝は狙えないが、クラシックに近い世界選手権であれば、だれにでも平等にチャンスはある。もちろん各国選手数も違い、その層の厚みも違うが、普段は違うジャージを着ている面々が、母国の栄光と名誉のために戦った。
今年の世界選手権は見ごたえ十分、まさに王道のクラシックスタイルのコースレイアウトが用意された。そうなれば必然的にクラシック系の選手たちが狙いを定めてくるのだが、今シーズン思ったように活躍しきれていなかった男がここへきて目を覚ました。クラシックハンターのジュリアン・アラフィリップ(フランス)は、鮮やかすぎる単独アタックを最後の上り口で敢行、そのままゴールまで猛追を振り切り逃げ続け、独走で世界チャンピオンの証、アルカンシエルを手に入れた。
258㎞の長丁場はスタート直後の逃げから始まる。まずは新城幸也を含む7人が飛び出していく。逃げは最大で6分以上にタイム差を広げるが、レース中盤を超えると徐々に脱落、逃げはわずか二人となる。そして残り70㎞を切ると、勝負をめぐる戦いがいよいよ始まる。
フランスチームがナンス・ピーターズ(フランス)が牽引し逃げを吸収すると、残り56㎞からは今度はベルギーチームが主導権を握る。ここでタデイ・ポガチャル(スロベニア)はバイク交換をし隊列に復帰、勝負に出る。残り42㎞、ツール・ド・フランスを制した22歳は一気に独走態勢へと持ち込むあまりにも長すぎる距離、無謀ともいえる賭けにあえて打って出るあたりが、勢いともいえるだろう。
この動きに集団は慌てふためく。まさかの大博打だが、最後まで逃げ切りかねない独走力に、集団は冷静さを取り戻し追走を始める。しかし少しずつタイム差は広がり、周回コースの最終ラップにポガチャルは25秒のリードをもって突入していく。しかしその差はなかなか縮まらず推移していく。
しかしスペインの牽引でその差が詰まり始めると、残り22㎞でトム・デュムラン(オランダ)が単独追走を仕掛ける。ツール覇者をジロ覇者が追いかけるという豪華な展開はあっという間にデュムランがポガチャルに合流を果たすが、結局残り21㎞で二人はペースを上げたベルギー勢により捉えられてしまう。
すると今度はワウト・ファン・アールト(ベルギー)、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア)、リゴベルト・ウラン(コロンビア)、ミケル・ランダ(スペイン)の危険な4人が仕掛ける。だがこれもフランスチームがそれを容認することなく吸収してしまう。そして残り17㎞、最後の上りでアラフィリップが渾身のアタックを決める。クラシックでおなじみの一撃必殺はここでも健在、一気にメイン集団を分断、さらに追走集団にも大きなダメージをあたえる。そしてわずかなタイム差で頂上をトップ通過すると、そこから驚異的な単独逃げを見せる。
追走ではプリモズ・ログリッチ(スロベニア)が、同胞ではなく、普段ユンボ・ヴィズマでチームメイトのファン・アールトのアシストに回る。しかしそれもあらフィリップの勝利への飽くなき執念の前では無力に等しかった。アラフィリップは独走で勝利、フランスに1997年以来の世界チャンピオンジャージ、アルカンシエルをもたらした。
「てっぺんを取ったよ。」アラフィリップは安どの表情でそうつぶやいた。「最後の上りでファン・アールトが動いたとき、全力でそれに対応したよ。僕の中では彼こそが最大のライバルであり、最も危険な選手だったからね。でもそこからゴールまでは本当に長かったわ。」勝利こそしたが、アラフィリップは最後の一滴まで力を出し切ったようだ。「このレースは夢だったんだよ。どんな勝利もそれぞれに格別なんだけど、でもこのレインボージャージは特に特別だね。これこそが夢であり、今の感情を冷静に語るのはむつかしいけど、とにかくこのジャージこそが僕の夢だったんだと実感したよ。」
そしてその背後では激しいスプリントバトルが繰り広げられる。先着したのはファン・アールト、個人TTに次いでの銀メダルとなった。「一つ目の銀はいいけど、二つ目も銀だとねぇ・・・今の段階でこの結果に素直に誇りを持てと言われても納得はしきれないんだよねぇ。結果を求めてきたし、勝てる可能性があっただけにねぇ。まあどちらも僕より強い男がいたのだと思えば納得もできるけど、ただ調子が良かっただけに、どちらも敗北しての2位というのはねぇ・・・。」ファン・アールトは悔しさをにじませた。
そして僅差の3位にはツール・ド・フランスでも躍動し続けたマルク・ヒルシ(スイス)が入った。何よりも価値があるのが、ミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド)、ヤコブ・フグルサング(デンマーク)、ログリッチという強豪を破っての3位というところだろう。「この3位は最高だよ!この結果は予想していなかったからね。調子は良くなかったんだけど、レースが動いたときに、すんなり体がついてきたんだよ。」ヒルシはまだまだ絶好調のようだ。
勝者は納得、2位は悔しみ、そして3位は驚きと三者三様の結果となった。クラシックを見ているかのような素晴らしい世界選手権は、見ごたえ十分だった。
世界選手権男子エリートロードダイジェスト
世界選手権男子エリートロード
金メダル ジュリアン・アラフィリップ(フランス) 6h38’34”
銀メダル ワウト・ファン・アールト(ベルギー) +24”
銅メダル マルク・ヒルシ(スイス)
4位 ミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド)
5位 ヤコブ・フグルサング(デンマーク)
6位 プリモズ・ログリッチ(スロベニア)
7位 マイケル・マシューズ(オーストラリア) +53”
8位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン)
9位 マックス・シャフマン(ドイツ)
10位 ダミアーノ・カルーソ(イタリア)
H.Moulinette