TDF Stage20:スロベニア頂上対決はポガチャルに軍配!圧倒的な速さで個人TTを制し大逆転で総合優勝を確定的に!がっくりログリッチ、TTでポガチャルに2分遅れの完敗
レースというのはいつ何時どんなドラマが待っているかわからない。特に長丁場のレースになれば、調子を維持し続けることも困難、必ずどこかでほころびが生じることがある。誰にでも起きうるバッドデイ、つまり最悪の日、そして追うものと追われるもの、攻めるものと守るもの、様々なプレッシャーに打ち勝ち、そして運を味方につけ、実力を発揮したもののみが頂点に立つことができるのだ。
そして第20ステージを制したのはタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)、圧倒的な走りで2位を大きく引き離して別格の走りでステージ優勝を果たし今大会3勝目、そしてそれと同時に同郷のプリモズ・ログリッチ(ユンボ・ヴィズマ)を大逆転し、総合優勝を確定的とした。これで明日のパレードステージを完走すれば、晴れてグランツール覇者の称号を獲得、自らの22歳のバースデーに最高のプレゼントを自らの力で獲得することとなる。
実質的な最終バトルとなった第20ステージ個人TT、昨日までの総合順位では2位のポガチャルに対して57秒の差をつけてログリッチが総合リーダーの証、マイヨ・ジョーヌを守り続けていた。そしてこの日の個人TTでは総合順位の逆の順番でのスタート、最終走者のログリッチは、前を行くポガチャルにタイムを追われながら、物理的にはその後姿を追うこととなる。
この日ながらく暫定トップタイムの選手が座るホットシートを温め続けたのは、レミ・カバーニャ(ドゥクーニンク・クイックステップ)、しかしレース終盤となり今大会2勝の元シクロ世界王者、ワウト・ファン・アールト(ユンボ・ヴィズマ)がトップタイムをたたき出す。しかし今度はそのタイムをトム・デュムラン(ユンボ・ヴィズマ)が更新する。するとリッチー・ポート(トレック・セガフレド)が驚異の走りでこちらも大逆転で総合3位の座をほぼ確定させるも、デュムランには0.5秒届かない。
そして最後から2番目スタートのポガチャルがスタートしログリッチが最後にスタートを切る。ポガチャルの走りは比較的重めのギアを力強く踏んでいくのに対し、ログリッチはハイケイデンス、つまり高回転のペダリングと対照的なライドスタイルでタイムを刻む。ユンボ・ヴィズマ勢がスロースタートで後半ピッチを上げる先方に出たのに対しポガチャルは最初からハイペースで刻んでいく。
最初の中間計測ではポガチャルがログリッチを上回ると、ここからどんどんと突き放ステージ中盤ではそのタイム差は30秒台にまで縮まる。この日の山岳TTは後半6㎞から急勾配となり、途中には劇坂区間までもある難易度の高いコース、お互いTTバイクからノーマルバイクへと交換をし、最後の上りバトルが始まる。するとここでポガチャルが一気にタイムを縮め始める。
ハイケイデンス走法のログリッチが決して遅いわけではない。ただポガチャルの滑らかで力強いペダリングのほうがそれを上回っている。激坂に入ってもペースが落ちないポガチャルは、あっという間にタイム差を逆転、そこからどんどんと突き放していく。ログリッチも必死のペダリングを見せるが、明らかに疲れと焦りが見える。
山岳でのユンボ・ヴィズマのチームワークに対し、アシストがほぼおらず「個」の力で対応し続けたポガチャル、「個」の力比べとなる個人TTでその圧倒的な実力とセンスを見せつけ、トップタイムでゴールしログリッチを待つ。
バーチャルで逆転されたログリッチは、ヘルメットがずれた状態でも最後まで踏み続けゴール、しかし結果はポガチャルから1分56秒遅れでゴール、大逆転を許し放心状態で座り込むログリッチに対して、デュムランが慰めの言葉をかけた。
ステージ優勝の確定が決まった瞬間ポガチャルとスタッフは歓喜の雄たけびを上げた。感極まり涙するポガチャル、21歳最後の日にとてつもなく大きな仕事をやってのけた。これで総合優勝のみならず、山岳賞、新人賞も獲得、ポイント賞以外のタイトル総なめとなった。
「夢を見ているようだよ。言葉が出てこないよ。ただただ信じられないよ!僕の夢はツール・ド・フランスの表彰台だったんだ。今その夢が叶ったんだ。あとはゴールするだけ、とにかく信じられないよ!」 「この勝利はチームのおかげだよ。最終日に大逆転で総合優勝なんて言うドラマチックな筋書きを実現できたことが驚きだよ!今日のコースは下見をしていたし、ピンポイントでどこを攻めるべきかをきちんと把握していたんだ。それで最後まで踏み続けた結果がこの勝利だよ」ポガチャルは流暢な英語で語った。
総合3位には大逆転でポートが入り、昨日までの総合3位ルイ・アンヘル・ロペス(アスタナ)は大きく順位を落とし、総合6位まで順位を下げた。
大逆転を許したログリッチに代わり、今大会大車輪の働きをしたファン・アールトがチームの思いを代弁した。「最後の最後で総合リーダージャージを手放すなんて受け入れがたいよ。今日まで完璧だった作戦に死角は無かったんだよ。ログリッチのあんな姿を見るのは心が痛むよ。我々はベストを尽くしたよ。今はまず結果を純粋に祝おうと思う。」
またデュムランも、「これ以上何が言える?現実にこれは起きたんだよ。正直どうやったらポガチャルが僕よりも1分も速く走れるかなんてわからないよ。でもこの結果はチームにとっても心折れるよ。勝利が指の間をすり抜けていったよ。僕はいい走りができたけど、もうそんなことどうでもよくなったよ。とにかくポガチャルが別次元の走りだったんだよ。ログリッチの走りは悪くなかったよ。ベストではないにせよ、よかったんだよ。それで十分だと思っていたんだけどね。」と悔しさを露骨ににじませた。
ログリッチは母国の後輩の勝利をインタビュー中に祝福、圧倒的な強さを見せた今年のツール覇者ポガチャルはそこでようやく勝利を実感したようだった。
TDF第20ステージダイジェスト
ツール・ド・フランス第20ステージ
1位 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ) 55’55”
2位 トム・デュムラン(ユンボ・ヴィズマ) +1’21”
3位 リッチー・ポート(トレック・セガフレド) +1’21”
4位 ワウト・ファン・アールト(ユンボ・ヴィズマ) +1’31”
5位 プリモズ・ログリッチ(ユンボ・ヴィズマ) +1’56”
6位 レミ・カバーニャ(ドゥクーニンク・クイックステップ) +1’59”
7位 ダミアーノ・カルーソ(バーレーン・マクラーレン) +2’29”
8位 ダビ・デ・ラ・クルス(UAEチームエミレーツ) +2’40”
9位 ピエンリック・マス(モビスター) +2’45”
10位 リゴベルト・ウラン(EFプロサイクリング) +2’54”
TDF総合順位
1位 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ) 83h29’41”
2位 プリモズ・ログリッチ(ユンボ・ヴィズマ) +59
3位 リッチー・ポート(トレック・セガフレド) +3’30”
4位 ミケル・ランダ(バーレーン・メリダ) +5’58”
5位 エンリック・マス(モビスター) +6’07”
6位 ミゲル・アンヘル・ロペス(アスタナ) +6’47”
7位 トム・デュムラン(ユンボ・ヴィズマ) +7’48”
8位 リゴベルト・ウラン(EFプロサイクリング) +8’02”
9位 アダム・イェーツ(ミッチェルトン・スコット) +9’25”
10位 ダミアーノ・カルーソ(バーレーン・マクラーレン) +14’03”
H.Moulinette