いよいよ迎えるシーズン開幕、過密なスケジュールはチームと選手にとってはきついシーズンに、だが契約が切れる選手たちにとってはこれからが正念場、果たしてフルームは移籍するのか?
コロナウイルスは世界中で感染者数が915万人を超え、死者数も47万人を超えた。だが落ち着きを取り戻しつつある地域では、第2波に警戒をしながらも経済活動が徐々に戻りつつある。そんな第2波、第3波がいつ来るかという不安の中で、自転車レースもようやくシーズン開幕を迎えることとなりそうだ。UCIは8月から本格的に延期されたクラシックやグランツールを立て続けに開催することを発表、しかしあまりにも過密な日程が故に、チームと選手たちは誰がどのレースに出るのか、必死の調整が続いている。そして本来であればこの時期にはもう話題になっている来シーズンに向けた移籍も、水面下で激しい駆け引きが始まっている。結果を残さねば再契約や新チームへの移籍が叶わない選手たちもいれば、引っ張りだこの選手もいる。そんな中で注目されるのはグランツール覇者であり世代最強のグランツールライダーの一人、クリス・フルーム(チーム・イネオス)の動向だ。
今シーズンで契約が切れるグランツールライダーやクライマーが多い。これらの選手の移動はすなわち勢力図が変わる可能性があるという事だ。ただコロナの影響もありすでにいくつかのスポンサーは撤退の意向を示しており、例年ならば主力級選手の奪い合いさえ起きかねない状況だ。しかしどのチームも今シーズンの広告費がかなり無駄になっていることに頭を抱えるとともに、来シーズンの不透明な現状に財布のひもは堅く、心理戦が繰り広げられそうだ。
しかしそれ以前にフルームが短縮された今シーズン途中での移籍を考えているという噂が絶えない。それはフルームにとってツール・ド・フランスの栄冠がモチベーションになっているのに対し、チームイネオスとしては若いイーガン・ベルナルをエースにしたいという思惑があるからだ。この構図、何かを思い出さないだろうか?そう、ブラッドリー・ウィギンスがエースだったチームスカイ(チームイネオスの前身)と若手の筆頭株だったフルームのあの状況と全く同じなのだ。あの時は結局チーム側はフルームを残し、ウィギンスはチームを去ったのだが、今年の過密日程の中でのツール・ド・フランスに対して、チームはベルナル、フルームに加えゲラント・トーマスにも準備をさせているが、チームが絶対エース制ではなく、勝てそうな人間がエースとなるというモビスター方式を採用すれば、それはチーム内での絶対的なサポートを得られるのではなく、トーマスやベルナルとの駆け引きや時にはバトルまで覚悟しなければならなくなる。フルームとしてはそんな状況で5度目の栄冠を狙うよりは、グランツールでのエースを欲しがっているチームへのシーズン終了を待たずしての移籍という選択肢を考慮に入れていてもおかしくはない。
そしてシーズンが終わるまで、つまり契約満期までチームイネオスに残ったとしても、移籍の可能性は高い。モビスターは一度は関心を示したが、現段階では可能性は低いとトーンダウン、UAEチームエミレーツは成長著しいタデイ・ポガチャルとの契約を延長し、若手主体に切り替えたが、イスラエル・スタートアップネーション、さらにはアフリカ出身のフルームにとっては特別な思いもある南アフリカ籍のNTTプロサイクリング辺りもフルームは喉から手が出るほど欲しい存在だ。
ただフルームとしては、「勝てるチーム」つまり十分なアシストを得られることが移籍の前提条件であり、その辺りの準備までできるチームは、と考えるとなかなか難しそうだ。もちろんイネオスに残留するという選択肢もある中で、フルームはどのような心境でシーズンの再開幕を迎えるのだろう。
H.Moulinette