ジュリアン・アラフィリップという男:クラシックで勝利を量産し、その勢いのままに世界を驚かせ熱狂させたツールでの大活躍を見せた千両役者!世界ランク年間1位を果たして最後まで守り抜けるか

今年のワールドツアーのシーンは、世界ランキング1位を突っ走るジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)が間違いなく主役となっている。シーズン序盤から勝利を量産するにとどまらず、グランツールで世界中の自転車ファンを熱狂させた男は、間違いなく今一番熱い男だ。

©Bettini Photo
勝利を量産する個性派集団のドゥクーニンク・クイックステップの主軸であり、ワンデイレースや短めのステージレースを得意とするアラフィリップのツール・ド・フランスでの大活躍は記憶に新しい。総合優勝候補委では全くなかった、というかそもそも総合系ではないので、今回の出場は世界ランクを維持するためにステージ優勝を積み重ねることが大きな目的だったのだ。しかし一度総合リーダージャージに袖を通してからは、終始攻めの走りを貫き、不得意の個人TTでまさかのステージ勝利を挙げるなど、総合リーダージャージを守り続け、世界中にあわや究極の下克上を期待させた。
昨シーズンまではクラシックの勝利もあったが、イメージとしては1週間程度のステージレースを得意としているタイプだった。しかし今シーズンはストラーデ・ビアンケ、ミラノ・サンレモ、フレッシュン・ワロンヌを制し、クラシック最強を強く印象付けた。しかしそれ以外の結果を見ると、ティレーノアドリアティコでステージ2勝で総合6位、ツール・ド・サン・ホァンでステージ2勝で総合2位、クリテリウム・ド・ドーフィネではステージ1勝に山岳賞など、まんべんなく勝利し続けていたことわかる。

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それでもツール・ド・フランスでの総合での活躍はだれも予測すらできなかっただろう。それは本人も一緒で「まさかここまで総合争いができるとは思いもしなかった」としている。しかし持ち前の負けん気に強さで、「できる限り総合リーダージャージを守りたい」とコメントした後は快進撃、苦手の個人TTでの勝利には世界中の解説者が絶叫した。
その後山岳ステージになってもクライマー勢に対応、積極的に攻撃する姿勢を見せクライマーを置き去りにするステージさえあった。しかしさいごはその疲労の蓄積が重くのしかかり、クライマーに後れを取り、ジャージを失うことになってしまったが、そのポテンシャルの高さを見せつけた。
気になるのは契約を延長した来シーズン以降に関して、ドゥクーニンク・クイックステップがグランツール総合を視野に入れた布陣を組むのかということだ。これに関してはアラフィリップ自身が否定的だ。「僕はグランツールライダーではないし、来シーズンもクラシックを狙う」としている。またチームも「今からアシスト勢を揃えるのは現実的ではないし、それで勝利数が減ってはうちのカラーが薄まってしまう」と否定的だ。

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しかし今年の活躍はすごかった。マイヨ・ジョーヌマジックと言われ、総合リーダージャージを着用したものは己の力の100%を超える力を発揮すると言われるのだが、アラフィリップはまさに鬼神のごとき走りで、想定以上の力を発揮した。しかしおそらく今までのステージレースでの走りなどを見ていても、おそらくこれがアラフィリップ本来のポテンシャルなのだろう。総合を狙うなどの必要がなければ、無駄な力を使わず、力を抜くところは抜くこと、必要なところで爆発的に力を出すということでバランスをとるのがこの男の真骨頂だったのだ。
それが今年のツールでは常に全開状態を余儀なくされた。ある意味本来のポテンシャルの高さは見せつけることができたが、それは体を酷使しすぎた側面はある。ただこの活躍で、世界ランク1位はがっちりとキープ、世界ランキングを毎年狙ってくる”最強の安定感”アレハンドロ・バルベルデ(モビスター)を抑えて世界ランク1位をキープしている。このまま最後まで年間1を守り抜けるか、シーズン終了までに後まだ数レースの出場が見込まれている。
まだ27才、2020年の東京五輪のコースはまさにこの男の為にあるようなものともいえる。172㎝の小兵ながら、世界を魅了し続けるこの男の成長はまだまだこれからも楽しみだ。感情が表情に出ることで観衆を魅了する、それもまたこの男のチャームであり、それに心奪われるファンはまだまだこれから増えていきそうだ。
H.Moulinette