メイド・イン・ジャパンの系譜:工房探訪~MIZUSHIMA 昨年年末誕生の元一流競輪選手が世に送り出す「駆ける」バイク!

日本には多くのビルダーたちが存在する。海外から見ればそれは極めてまれな環境であり、それを支えてきたのは競輪という競技であり、その競輪があったからこそハンドメイドスチールバイクという文化が残ったのだ。そしてそんな競輪を選手として戦ってきた一人の男が、フレームビルダーとして新たなスタートを切った。男の名は水島章、ブランド名はMIZUSHIMA、一流選手だった男が目指すのは、一流のフレームビルダー、2018年年末にブランドはその産声を上げた。
競輪の世界では選手がフレームビルダーになるケースは稀ではあるが少なからず存在してきた。しかし一流選手だからと言って、必ずしも設計が出来たり、手先が器用なわけではない。どちらかと言えばそのような能力を持ち合わせる人間のほうが稀なのだ。

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水島の経歴は少し変わっている。多くの選手が競輪選手を目指して死に物狂いになるのだが、水島の場合オートバイ欲しさにバイトをしようと思ったところ、親から”NO”を突き付けられスポーツをやれと言われたため、同じ2輪だからという理由だけで自転車にまたがったのだ。そしてサイクリング部だと思い入部したのが自転車競技部だったのだ。そこからそのまま競輪学校へと入学し、トップクラスの選手にまで上り詰めた。憧れて選手になったわけではなく「偶然なってしまった」選手生活だったが、やはり引き際は来る。現役時代特定のフレームにこだわることなく、多くのビルダーのフレームに乗ってきた男は、そのころからフレームを作りたいという意識が強かったという。それは家業が職人系の会社だったこと大きく影響していたのだろう。
そして引退後、一度は家業をついだものの、自転車のフレームを作りたいという熱意は冷めることなく、ついにその思いの丈を妻にぶつけたのだ。「儲からないのはわかっているけど、どうしてもやりたい!」そう熱く語る水島の思いを汲み取った妻は「鬱屈されるよりはよほどいい」と、水島の人生の新たな挑戦を支えることを決意したのだ。最強の妻無くしてMIZUSHIMAは誕生しなかったのだ。
水島はその後、エクタープロトンとして有名な名ビルダー、橋口清の下で修業をし、持ち前の器用さでめきめきと上達、そして自らのブランドを立ち上げたのだ。

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水島には明確な目標がある。それはNJSの認定ビルダーとなることだ。これは競輪に使用可能なフレームであることを意味すると同時に、技術と経験が伴っていることを示し一つの指針である。選手だったからこそわかる選手が欲するもの、それを形にできるビルダーを目指し、今はひたすら経験を重ねている。すでに多くの現役選手が練習用フレームを水島に注文しており、勝負用のフレームと遜色なく練習できるフレームとして評価は高い。

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メインモデルはKEIRIN PRO、競輪のジオメトリーをベースにしたロードバイクで、短距離周回コースのクリテリウムなどで本領を発揮するバリバリのレースモデルだ。単なるノスタルジックなクロモリバイクではなく、「バリバリ勝利を目指せる」クロモリフレームなのだ。当然ターゲット層は自転車にある程度乗っている人間だ。「カーボンバイクからでも違和感なく乗り換えできる」と豪語するほどに、レーススペックなフレームだ。もちろんジオメトリーのオーダーも可能、塗装なども指定ができる。今現在納期は3か月ほどとのことだ。
さらに水島は自転車整備士の資格も持っており、パーツの組み換えや持ち込みでの組付けにも対応している。また昨今ホイールの手組ができない自転車専門ショップが増えている中で、ホイールも手組で行うなど、ほぼ全ての作業をこなせてしまう。
フレームビルダーとしては後発であり、また高齢化が進むフレームビルダー界においては新参者となる。プレッシャーはないのか問うてみたところ、「追う方が楽なんですわ、競輪と一緒」と満面の笑顔で答えてくれた。

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水島のフレームを体験したいと思ったら、まずはビルダーと直接話をしてみるのがいいだろう。まずは予約を入れて工房を訪れれば、さらにさまざまな話を聞くことができるだろう。そして普段乗っている自転車のジオメトリーや、どのようなコースでどのように走るのか、どのようなコースが好きなのかなどから総合して、自分だけの一台を作ってもらってみてはいかがだろうか。
カーボンフォーク付きのKEIRIN PRO(パイプは指定できるが、基本ジオメトリーの設計と合わせてビルダーが最適なものをチョイス)で14万9千円、これは決して高くないどころか、職人の手仕事であることを考えれば間違いなく安い。中国製のカーボンフレームに30万、50万と払うのもよいが、メイド・イン・ジャパンの匠の技を経験しないで自転車マニアを口にするのは単なる「世間知らず」、ハンドメイドの奥深さと神髄を知るためにも、まずはビルダーの元を訪れてもらいたい。
MIZUSHIMA HP:http://mizushima.cc-mak.jp/
MIZUSHIMA FB page:水島製作所(クリエイティブセンターmak)
H.Moulinette