MPCC(自転車レース信頼回復委員会)が正式にWADA(世界アンチドーピング機構)会長の辞任を要求、WADA会長は反論とMPCC批判

ランス・アームストロングのドーピングスキャンダル、そしてそれに積極的に関与したとされる元UCI会長のヴァルブルーゲンとマックエイド、これらにより自転車レース界は大きな岐路に立たされた。薬物まみれともいえる時代のツケを払うことになった.。その際に設立されたのがMPCC、自転車レースの信頼回復に注力する組織であり、現在7つのワールドツアー、23のプロコンチネンタル、さらには9つのコンチネンタルに加え6つのUCI女子チームなどが名を連ねている。厳しい基準を設け手織り、その一つとして一度でも禁止薬物使用による出場停止がある選手は雇わないという大前提を掲げている。
そんなMPCCが公開書面で、WADA(世界アンチドーピング機構)に対して、会長の辞任要求を突き付けたのだ。その主な項目は以下の通りだ。
・トラマドールとコルチコイドはドーピング効果があるとされ、MPCCに加盟しているチームではすでに禁止、UCIも2019年度より使用禁止の方向なのに、WADAは問題視された2013年度より継続審査中として一切に対応をせず、そのことにより一連のフルーム騒動となったこと。
・過去にトラマドール使用で、数値オーバーした際の選手は出場停止処分となっているのに、フルームだけが同条件下での詳細な調査も行われないままに無罪放免となったことで損なわれたアンチドーピングのイメージ低下
・世界最大級のスキャンダルとなったオペラシオン・プエルトが、いまだに解決をしておらず、今頃になりまだ新事実が次々と表面化している
・出場停止処分中となっているロシア競技連盟の真相解明と、改善案の停滞、またロシアアンチドーピング機構の権限復活に関しての問題
・WADA内のガバナンス問題、現在のように特定の団体などに肩入れしない、独立した立場の会長、副会長及びメンバーの必要性
これらによりMPCCに賛同している18の国のアンチドーピング機構、さらには競技連盟などが連名でWADA会長の退陣を迫る形となっている。
MPCCとしてはフルーム問題に関しても、そもそも基準や対応をあやふやにしてきたから発生した一件であり、さらにはそれが言い訳となりあいまい決着となったことはWADAに全責任があり、正直アンチドーピングを司る機関としての信頼失墜を招いている、としている。
これに対しWADAも黙ってはいない。名指しで批判されたサー・クレイグ・リーディー会長は、任期満了まで辞めるつもりはなく、任期満了後は次の会長に席を譲ると、まずは辞任を拒否した形だ。
またトレマドールに関しては、治療薬として必要であり、その最終的な影響に関しては引き続き観察対象としていること、オペラシオン・プエルトではベストを尽くしたこと、WADA内のガバナンスは完全独立ではないが機能していること、さらにはフルームのケースはUCIが最終判断をしたことであり、WADAには責任がないとした。その上でMPCCは無知で偏見に満ちており、WADAの信頼を失墜させようとしている張本人だと徹底して反発する構えのようだ。
確かにWADAは様々な企業(製薬会社が主体)からの資金提供を受けて活動をしており、その影響がないとは言い切れない状況にはあるのは事実だ。しかしそれと同時に過去多くの大物を追い詰めて出場停止、追放処分へと持ち込んだ実績がある。
だがそれと同時にMPCCの指摘にも一理あり、今回の議論はこれからも繰り返されると思われる。その中でもトレマドールのようにグレーなものは使わないとするMPCCに対し、チームスカイをはじめとするワールドツアーの半分以上が加盟していないという現実もある。これも理由は様々であり、ドーピングからの出場停止処分明けの選手を獲得したいがため、すでにそのような選手が所属している為に(スポンサーの絡みもあり)加盟できないというのが多いようだ。だがしかし若手中心のプロコンチネンタルに関しては、27チーム中23チームが加盟するなど、その活動は間違いなく広がりと信頼を得ているのもまた事実なのだ。
サイクリングタイム自身は様々な形でプロチームをサポートする立場からも、MPCCに正式に賛同する立場をとっていく形となる。ただし現実問題としては泥仕合はやめてMPCC、WADA双方が協調体制を取り、より良い自転車界を目指していってほしいと思う。
H.Moulinette