フロントシングルは本当に有効なのか?今シーズン限りでチーム解散で唯一1Xを使っていたアクアブルースポーツの選手たちは酷評、果たしてどんなシーンで1Xは生きるのか
昨今話題になっているフロントシングル、フロントメカのトラブルが無くなる事でのリスク低減は間違いなくメリットと言えるだろう。しかし実際に走るうえでどれだけのメリットがあり、どれだけ有効なのだろう?プロレースの世界でアクア・ブルースポーツが採用し、既にシーズン中に勝利を挙げているが、果たしてそれは一つの新しい流れとなるのだろうか?しかしそのチームも今シーズン限りでチームの解散が決定、その一因となったと言われているのが3T社製のシステム搭載のバイクだ。
今回あえて自分の機材をフロントシングルへと変えてみることにした。その為にはまずフロントディレーラーを取り去る必要がある。シフターはあえて取り外さないで残してもいいが、軽量化を・・・と考える人はそれさえも取り去ってしまってもいいだろう。
そしてフロントシングルにして、今までと同じギア比を維持するためには、フロントダブルの時よりもはるかに大きなリアスプロケットを用意しなければならない。例えば普段フロントを歯数54X39 、リアを11-28Tのスプロケットを使っていたとしよう、それと同じギア比をフロントシングルでカバーするには、フロントを44Tにし、リアを9-32Tにする必要がある。(この場合の最小9Tはスラムのみの設定)
筆者自身フロント53X39T、リアを11-23にしているが、フロントを44Tにするとして、リアを11-28にしてみた。多くのユーザーは最初からリアの最大歯数を25~28にしている人が多く、その場合には30Tから32T以上を使うこととなるだろう。
必要となる交換パーツを見てみよう。まずはフロントシングル化でフロントの変速機はなくなるが、その分チェーンの脱落の可能性が増える。それを避けるためにナローワイドと言うタイプのチェーンリングが必要となる。これはフロントシングルにするために考えられた歯の形をしており、チェーン脱落を防止してくれる。それでも心配な人はチェーンガイドを装着すればいいのだが、そうなると重量的には結局フロント変速機をつけているのと変わらなくなる。
そしてリアだが、28T以上のリアギアを使いたいのであれば、MTBやシクロクロス用のロングケージのリア変速機が必要となる。ショートケージのリア変速機をそのまま使い続けるためのスペシャルパーツが一部メーカーから販売されており、それを使うこともできる。
パーツ交換の手間などを考えると、費用的には決して安上がりではない。それなりの出費を覚悟しておかねばならないだろう。
ではフロントシングルにしての乗り味はどうだろう?正直レースの現場でよくフロントシングルで走っているな、と言うのが正直なところだ。ギア比はカバーされているとはいえ、ギア数的には大幅に減るわけで、中間ギアが欲しいな、と感じる瞬間が何度かあったからだ。実際今年使用していたアクアブルースポーツの選手たちもそこを問題点として挙げており、ギアの選択肢の減少で「まるでトラック用自転車で勝負しているようだった」と話している。
ただレースを想定しなければ、フロントシングルはかなりいい選択と言えるのではないだろうか。一般公道を走るのであれば、そもそも最高速度はそこまで出すことはない。それを踏まえてのギア設定をすればいいのだ。つまり街中を走ったり、ブルべで走ったりと、まったりのんびりと走ることが好きな人にとっては、筆者の設定であるフロント44Tにリア11-28で十分に楽しむことができるのだ。もしアップダウンが多いところを走るのがわかっているのであれば、フロントを40Tぐらいにしておけばいいだろう。
フロントシングルの最大の恩恵は変速が片手側のみになることだろう。前後の組み合わせでギア比を考えるとき、フロントアウターでリア何速、その次に来るのがフロントインナーでリア何速、などと実際のギア比順にフロントまで変速をすることはほとんどない。ほとんどの人が、フロントはアウターか、インナーにどちらかに入れっぱなしでリアだけをアップダウンさせ変速しているのではないだろうか。それを考えたとき、片手側で全てが賄えるのであればそれに越したことはないのである。
現在フロントシングルでないのであれば、余裕があれば試してみるのはいいだろう。ただ費用面は思ったよりかかるのが現実、また純粋に速度を出して走行を楽しむ人にとっては物足りなさとギア選択減によるセットアップの難しさを感じるかもしれない。
ロングライドやのんびりと走る人にとっては、リスク軽減のみならず、メンテ箇所が減るという意味でもありだと思う。筆者も結局フロントシングルが便利になり、そればかり乗るようになった。遊び方次第でフロントシングルは今後も選択肢としては魅力的なものになるのではないだろうか。実際22速になった現在でも、有効なギア比(似たギア比を排除)は14速と言われており、後発コンポーネントメーカーのROTORはリア13段のフロントシングルをすでに発表するなど、フロントシングル熱はまだまだ衰えを見せない。最初は奇をてらったものかと思われたシステムは、今や一つの流れとなりつつある。レースシーンで最適なものが、必ずしも一般的にも最適とは限らない、フロントシングルはそれを体現する一つの例かもしれない。
H.Moulinette