コラム:JAPAN CUPとさいたまクリテリウムで感じた世界の壁、日本はどうしたらもっと強くなれるのか、目指せ世界、その為に必要な心構えとステップを選手自身が考える必要性
今年も宇都宮でジャパンカップが行われた。世界の強豪チーム、そしてかなりの実力者ぞろいとなった今年のジャパンカップは大いに盛り上がりを見せた。しかし案の定結果は世界トップクラスの選手たちの圧倒的なパフォーマンスの前に、日本勢はトップ10入りもできない残念な結果となった。
日本人トップで入ったのは12位に入った中根英登、先頭から2分26秒遅れの集団ゴールでの結果となった。中根はNIPPOヴィーニファンティーニに所属しており、ヨーロッパなどでも走ってきた。それを踏まえ国内組で最上位に入ったのは同じく集団ゴールした宇都宮ブリッツェンの雨沢毅明の16位だった。集団ゴールなので、順位にさほどの価値はないが、国内で走る日本人選手が優勝争いに絡めないというのはもはや定番化しており、残念ながら海外チームの選手たちを引き立てるカスミソウのような状態だ。
またさいたまクリテリウムは世界中のトップクラスの選手たちが登場、今年は世界チャンピオンのアレハンドロ・バルベルデ(モビスター)がツール覇者のゲラント・トーマス(チームスカイ)とワン・ツーを決めエンターテイメントレースの醍醐味を感じさせた。
しかしここでも談笑しながら走る海外勢のペースについていけない日本人選手が早々に脱落し始めるという展開。そして最後は結局新城幸也と別府文之という日本を代表する大ベテランの二人だけが世界相手に対等な走りを見せるという形に終わってしまった。
正直そのような状況を悔しいと思う。ただどちらでも感じられたのが日本選手たちに大物食いをしてやろうというハングリーさが乏しいのもまた事実、「あこがれの世界クラスの選手たちとは知れるだけで幸せ」といったミーハーなファン心理で走る選手も一部おり、それでは到底世界には太刀打ちなどできない。
日本人選手たちに足りないものは多くあるといわれ続けている。例えば環境面、レースの数やその距離だ。しかし正直これはどうしようもない部分がある。道路使用許可を確保するのが難しく、どうしても周回コースしか組めない現状からすれば、レース距離はどうしても短くなる。そしてレース数もロードレースがまだまだマイナースポーツな上に集客力に乏しく(ジャパンカップや埼玉クリテリウムは例外)、費用対効果が薄いこともあり十分な資金確保が難しいこともあり現状のレース数と規模が限界に近いだろう。
では言われている練習量の問題だが、これはおそらく練習量よりも練習の質を変えていかねばならないだろう。海外経験選手が口にしていたのが、「練習強度」が足りない、つまり基礎的練習ばかりで、根本的に強くなるため、勝利するための練習の絶対量が足りないということだった。基礎的練習が悪いわけではない、ただそれに加えて勝負所での勘を研ぎ澄ませるようなトレーニング(レース嗅覚)であったり、物理なところでは海外レースではもっと選手、自転車同士の間隔が狭く、その中でも自分の空間を確保しながら自分の進路を切り開くようなトレーニングが全くできていないということだった。メンタル面では積極性がまだまだ不足しているとの指摘も多かった。
日本人選手たちはなぜ海外に出ようとしないのか?そんな言葉も海外選手からは聞かれる。ただこれには語学力の問題が大きい。口先ばかりで「将来の夢はツール・ド・フランス」と言いながら、語学の勉強すらしていない選手は多い。本気で海外で挑戦したければ、語学の勉強はチームワークなどのコミュニケーション面を考えれば必要不可欠だ。積極的に外国語を習得しようとはしていないだけでなく、また海外で走る自信がないからか、英語やフランス語の履歴書、経歴書、パワーデータ表などを作成して積極的に自らを売り込み海外へ飛び出していく選手が極めて少ないというのも、プロチームに携わる身としては不思議でならない一つだ。このあたりのメンタルの強化はこれからは重要になるだろう。ガラスの心臓ではなく、鋼の心臓を持つこともまた世界へ近づくために必要なピースと言えるだろう。
昨今様々なスポーツで、海外の学校へ進学し、そこでスポーツで結果を残すというケースも増えてきている。語学勉強も兼ねて海外の高校や大学、語学学校への進学、そこで現地のレベルを肌で感じるというのも、一つ選択肢としてはありだろう。「学力の自信がないからスポーツに打ち込んだ」などというのはもはや過去のセリフにすべきであり、文武両道で目指すことが世界には近道とも言えるだろう。
もちろんこれには資金的な部分も大きく影響するが、高価な車両を買う金額を考えれば、まずはそのグレードを下げ、差額を海外へと飛び出す費用の一部には充てることができるだろう。海外が無理なのであれば、まずは国内の語学学校へ通うところから始めるのもありだろう。「弱いのに機材だけは一流」などと海外メディアにいつまでも陰口をたたかせてはいけないのだ。最新機材を購入して、ただひたすらトレーニングするだけでは、なかなか世界は近くはならないのだ。いつまでも脳みそまでもが肉体派のマッチョな考えではなく、世界で戦うためには何をすべきか、そのあたりを柔軟に考えられる頭脳を育てることもまた今の時代必要不可欠になってきている。
一日も早く日本人自転車選手たちが世界で活躍する姿が報道されることが当たり前になるような時代が来てほしいと切に願う。ただそこまでの道のりはまだまだ遠いと言わざるを得ない。国内関係者も口をそろえる通り、東京五輪では、コースを考えても母国開催の地元勢が惨敗する可能性は極めて高く、正直このタイミングでの現役、若手選手の大ブレークは期待薄と言わざるを得ない。ならば5年後、10年後を見越した選手育成を徹底しておこない、日本と同時期に世界挑戦を始めたが今や世界トップクラスに這い上がったオーストラリアのような一大帝国を築き上げてほしい。
H.Moulinette