ツール・ド・フランス総括~総合編:逆境を跳ね返し総合優勝のGトーマス!プランB扱いを撤回させエースと認めさせた男のスマートな走り、近年稀にみるノーミス、ノートラブルの凄み
今大会前、チームスカイは記者会見でグランツール4連続優勝を狙うクリス・フルーム(チームスカイ)をエースとして指名した。しかしそれにすぐさま反応したのがメンバー入りしていたゲラント・トーマス(チームスカイ)、「エースは佳境に入るまで分からない、自分はプランBではない」と言い切ったのだ。しかしそれに対しチーム側は、「あくまでもエースはフルーム」と言うスタンスを崩すことはなかった。
このままでは、ブラッドリー・ウィギンスとクリス・フルームの時の再現となるチーム内不協和音の再来かと思われたが、大人のふるまいを見せたのはフルームだった。常に中立的立場で、「調子がいいものが勝つだろう」とのスタンスを崩さなかった。
そしてレースが進み、フルームが苦戦するステージが繰り返す中、Gトーマスは抜群の安定感を見せ続けた。蓄積するグランツール連戦の疲労感と戦いながらのフルームは、常に紙一重のところで推移する中、ライバルたちの執拗なまでのアタックに冷静に対処し続けたのはGトーマスだった。
そしてレース終盤には、フルームが「勝つのはGトーマス」と発言し、チームメイトがエースにふさわしいことを強調した。そしてそれからさらに遅れ、ようやくチームが公式に「Gトーマスが今大会のエースである」と認めたのだ。
自らの走りで、チームの決定を覆させたGトーマスの走りは見事としか言いようがない。とにかく今大会凄かったのが、まずノーミス、ノートラブルであったことだ。ノートラブルは運と言う不確定要素もあるが、ノーミスにも関係するが、どのポジションを取り、どのライン取りをするか、などその運を手繰り寄せるための選択は自らが行うものであり、それらが完璧に遂行されたのが今大会の走りだった。近年の技術革新が道半ばであることとレース高速化の側面を考えれば、これは極めてまれなケースと言えるだろう。さらには最終局面の要所要所で見せた圧倒的な加速力、元トラック金メダリストの称号とその特性、実力がここで大きくライバルたちを突き放すことに役立ったのだ。
大会終了後にフランス、レキップ紙は”プリンス・オブ・ウェールズ(ウェールズの王子)とGトーマスを名付けた。年齢的にはベテランではあるが、すべてにおいて初々しさが残る初の栄冠は、間違いなくGトーマスのこれからのを大きく左右することになるだろう。大会前は移籍の声も出ていただけに、チームスカイがこれでGトーマスをどう引き留めるのかに注目が集まる。「スカイとの交渉をする上ではいいタイミングで勝利できたね。」とGトーマスも語っており、ここまでの待遇への不満のあることから強気の交渉に出るものと思われる。
どうあれグランツール覇者にその名を連ねたGトーマスは、歴史にその名を刻む素晴らしい選手だということだけは確かだ。2つの五輪金メダルにツール・ド・フランス制覇という偉業は、偉大なる選手と呼ばれるに値する功績と言えるだろう。
H.Moulinette