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あまりにも唐突かつ、不透明な決断だと言えるだろう。レース界を大きく賑わし、昨日はついにツール・ド・フランス主催者のASOが「フルームの出場を拒否する」とまで発展した一連のクリス・フルーム（チームスカイ）のサルブタモール問題に突如終止符が打たれた。最終決断を待たずしてUCIはフルームの疑惑への調査そのものを断念すると宣言したのだ。

過去の同様のケースでは調査に時間がかかりながらも有罪となり出場停止処分が出ている中、突如UCIが下した決断は苦肉の策なのか、それとも職務放棄なのか、「この決定で我々UCIが批判に晒されるのは百も承知」としているだけにグレーなままで決着させたUCIの責任の所在は今後問われることとなりそうだ。

今回の問題では禁止薬物では「調査中は出場停止」なく、要注意物質の数値オーバーの場合は「調査中も出場継続が可能」ということが大きな波紋を呼ぶこととなった。過去のケースでは該当選手、もしくはその所属チームが「出場を自粛」したうえで最終判断を待ったのだが、今回はフルームもチームスカイもそれを逆手に取り、「最終判断が出ていないのだから出場可能」と強硬姿勢を貫いてきたのだ。これはもちろん違反ではないが、ドーピング問題に敏感になっている自転車レース界にとってはこの姿勢は”信頼回復への逆行”と受け止められ、各チームや現役選手、そして業界関係者などから厳しい声が相次いでいた。そして開幕をまじかに控えたツール・ド・フランス主催者のASOは昨日付で「レース規約にのっとり、フルームの出場を拒否する」と通達していたのだ。

これに対してチームスカイも即座に反応、このままではサルブタモール数値違反への最終決定とは別の部分でCAS（スポーツ仲裁裁判所）の判断を仰ぐ別ケースになってしまうと懸念したUCIが、「怖気づく形で妥協した」と言われても仕方がないだろう。

決着を見たのはいいことかもしれないが、これは今後へ向けて悪しき前例を作ってしまったのもまた事実、まるでフルームのごね得の様になってしまった。ASOが求めるように数値規定違反であっても「調査中は出場停止」とルール改正をしなければ、今後も同様のケースで選手やチームが”ごね得”を目論み出場を強行するケースが出てしまうだろう。さらには過去に同様のケースで罰せられた選手はいったい何だったのか、フルームだけ特別扱いなのか、との議論さえ起きかねない状況だ。

UCIは「きちんとした調査を遂行するために時間を割いてきたが、これ以上この問題が長期化するのはよろしくないという判断の下、UCIは今回の決断を下した。この決定で我々UCIが批判に晒されるのは承知の上で、今回の決断は専門家やWADA（世界アンチドーピング機構）などと意見交換をしたうえでの決断だったことを理解して欲しい。今後はレースを楽しみにしていたファンが余計な心配をすることなくこれから残りのレースシーズンを楽しんでいただければと思う。」としている。

©Tim D.Waele/Getty Images

今回の決断に対しフルームとチームスカイは歓迎の声を上げている。「この決定は自転車界にとって大きな一歩だよ。僕を無罪放免としてくれたUCIの決断には感謝するよ。もちろん僕は良くも悪くもレース界の歴史と伝統を理解している。これで僕への疑惑が晴れただけではなく、ぼくは王者の看板に泥を塗ることが無くなったわけで、僕の記録は”戦歴”としてしっかりと残ることになったね。僕はなにも違反していないんだよ。子供のころから喘息で薬を服用していたし、TUEも申請していた。ブエルタでの数値はBサンプルも数値オーバーと出たけど、その理由はわからない。でもその調査の中で情報が外部に漏れたことで問題が大きくなったのは残念だった。とにかく長引くのがもう嫌だったから、今回の決定には安堵しているよ。これでツールに集中できるよ」とフルームはコメントしている。

ASOはこれを受けて一転しフルームの出場を認めるようだが、ASOの代表プルドムは語気を荒げた。「昨年12月から判決が必要だと言い続けてきたのが、昨日のASOの判断を受けての急転直下これだよ。フルームの調査結果についてどうこう言うつもりはないけど、こんな形で知り切れ蜻蛉で調査がとん挫、何事もなかったかのようにされるのは残念で仕方ないよ。」

これでゆっくりとツール・ド・フランスを楽しめるようになるのだろうか。レースファンにとっても今回の決断にはしっくり来ていない人もいるだろう。ましてや長年レースを見てきた人ほどそう思うかもしれない。そしてレース界の内輪では、色々な意味でしこりを残した今回の決定で、これからがイバラの道となりそうだ。

それでもツール・ド・フランスは開幕する。そして選手たちの熱い黄色い夏が始まる。

H.Moulinette