ヴォルタ・アオ・アルガーベでヴィンゲガードが150㎜クランクを使用、去年まで使っていた172.5㎜から一気に短くしての試行錯誤か、ショートクランクの流れはどこへ向かうのか

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昨今ショートクランクが一つのトレンドとなっている。昔から言われてきた適正クランク長というのはそこまで重要ではない、というのが昨今主流になってきている考え方であり、ヴォルタ・アオ・アルガーベでは総合優勝を果たしたヨナス・ヴィンゲガード(ヴィズマ・リースアバイク)が、なんと150㎜という超ショートクランクを試していた。まるでジュニアサイズのような長さは、スポンサーのスラムのラインナップにもないが、どうやらエイペックス、もしくはライバル当たりのクランクをベースとしたワンオフのようだ。

昔から平均的なクランク長は各社170㎜から175㎜であり、それ以下のクランクはあまり製造されていない。スラムも今まで165㎜だったショートクランクを160㎜まで増やして作ってはいるが、その生産量は少ない。しかし昨年度からのショートクランクの流れがその生産量にも影響を与えている。だがさすがに150㎜は作っていない。その為ヴィンゲガード用には特注のクランクが用意されたようだ。

イネオス・グレナディアスのバイクフィッターによれば、クランクを回すトルクとケイデンスに関しては、最大出力状態でなければ、クランクの長さは長くても短くても大差はないとしている。これはクランクが短くなれば、ケイデンスが自ずと上がることによるものだ。そんなか短いクランクには大きなメリットがある。それは股関節と膝周りの怪我のリスクが大幅に軽減することだ。これはシーズンが長く落車というリスクもあるスポーツの中では、一つでもリスク回避をしたい選手たちにとっては大きな意味のあるポイントだ。そしてもう一つが、攻める走りの際により出力値が上がる傾向にあることだ。これは特にエアロポジションで大きく影響することがわかっており、空力抵抗の向上のみならず、脚の動きが小さくなることで、内臓、特に呼吸器にかかる負担が軽減され、結果出力が上がるという事のようだ。

ヴィンゲガードが何を意図してこのショートクランクを使用していたかまではわからないが、ポガチャルに勝つための手段をいろいろと模索しているのは間違いないだろう。ポガチャルの圧倒的強さに対して1秒でも削れるのであれば、何でも採用していくという心意気を感じる。昨年度はツール・ド・フランスの勝負所での直接バトルで力技で引き離されることが多かった。いかにそこで力負けをしないか、切れ味鋭いポガチャルの波状攻撃はじわじわと効いてくるのだが、そんなときの踏み込みを重視しての選択の一つにショートクランクを試しているようだ。

そんな試行錯誤でもヴォルタ・アオ・アルガーベを制したという事は、やはりこの男のポテンシャルは高く、そして今年は仕上がりを速めているという事だ。昨年度はケガによる調整不足の中でのレースを余儀なくされただけに、今年は機材のこだわりも含めての調整で打倒ポガチャルを目指す。

H.Moulinette