シマノの電動コンポへのハッキングが実質可能だと判明、妨害行為が数万円程度の機材で可能に、電動の宿命?ハイテクの落とし穴?予想されていたことが現実に、シマノはアップデート対応へ
電動コンポ、過去にはマビックのザップがいち早くマーケットに登場しプロロードレースシーンで試験的に使用されたが、その際に問題となったのが電波の混線による誤作動だった。そしてそれから技術が大幅に進化し、電動コンポがレースシーンでは当たり前となり、一般ユーザーの間でも普及してくる中、当然意図的な誤作動はいずれ起きるだろうと予想され続けてきた。そしてそれが現実のものとなった。アメリカの有数の研究機関でもあるカリフォルニア大学とノースイースタン大学の共同研究チームが、僅か数万円の機材でシマノの電動コンポをハッキングして意図しない動作を行えることを公表した。すでにシマノには通達済みであり、情報を共有したうえでプロチームには8月に入りデータのアップデートで対応を済ませている。しかし一般的にはまだ行われておらず、いち早い対応が待たれるところだ。
ではこのハッキングが可能であればどんなことが可能となってしまうのだろう。これは対象の自転車の変速を固定してしまったり、意図しないシフトアップやダウンを行えてしまうのだ。また同じく電波を利用するドロッパーポストやパワーメーターなども自在にハッキングできてしまう。さらに、Rapsberry Piなどのシングルボードコンピューター(SBC)を用いて、持ち運びや体に装着可能なサイズでのハッキング装置が作れてしまうのだ。これらにより、競技の現場においては相手を妨害することが実質可能となってしまうこともあり、これは事故を起こさせる危険性すら秘めている。
条件としては対象となる選手が使用するコンポーネントの変則信号を入手さえすれば、ハッキングは可能となる。ハッキングというよりまジャミングであり、究極の場合では、自分以外の全員の電動コンポを同時に変則無効化させることさえ可能となる。
パソコンでの鼬ごっこを見ていればわかると思うが、電波信号は対応をしても、必ずそれを上回る手段でハッキングやアクセスすることができてしまう時代だ。昨今はSNSの乗っ取りが頻発しているが、それ以外でも簡単に他者のPCやスマホを遠隔で操作したりできてしまう。スマホやPCのウェブカメラなどが遠隔でオンにされ、プライバシーが覗かれるという事も日常的に発生する時代でもあるのだ。そんな時代に選手たちのみならず一般ユーザーも、電動コンポに命を預ける、頼りきりになることのリスクを考えたとき、安全なのはアナログのワイヤー式変速機であることは言うまでもない。しかし人間は電動という甘い木の実を手にしてしまった。利便性という誘惑はなかなかに拒否しがたいものがあるのだ。
今後間違いなくこの手のトラブルは増えていくだろう。今回は大学の研究者たちが実験を通して発表してくれた、内容的には趣味で個人でプログラミングをする人間でも難なく行えてしまうレベルの話であり、いろいろと考えねばならないだろう。レースシーンのみならず、悪意を持ってホビーサイクリストの変速機やサスペンションフォークロックアウトなどを操作し、事故を起こさせることさえも可能なのだ。いずれはミステリーで犯人の犯行手段に利用されかねないレベルだけに、我々は最先端技術を過信し過ぎてはならないだろう。
H.Moulinette