シマノの新しいコンポーネントが登場、互換性重視のワンネームグループセット「CUES」、9速から11速まで対応でトレッキングからシティーユースまでを幅広くカバー、戦略を変えてきた狙いはどこに?
シマノが新たなコンポーネントを発表した。その名は「CUES(キューズ)」、特徴はその多様性と互換性、今までの戦略を大きく変更したとも取れるこの動きの先には、いったいどんな思惑が隠されているのだろう。一つ想定されるのは、105以下の複数あるエントリーユーザー向けのコンポーネントをすべて廃止し、一本化するための大きな戦略転換かもしれないという事だ。これは開発と製造のコスト削減にもつながり、また増えすぎたラインナップの整理も兼ねており、低空飛行が続く自転車業界の当然の流れと言えるだろう。
CUESはCreate Unique Experiencesの略で、要約すれば「他にはない体験を創造する」という意味だ。今回のコンポーネントは、シマノお馴染みのトリクルダウン方式の開発ではない。わかりやすく言えば、レース機材の廉価版を作ったのではなく、一から根本的に設計しなおされたコンポーネント、上位機種とは完全に一線を画するコンポーネントという事だ。これはシマノとしての大きな方向転換でもあり、今現在E-bikeや電動コンポーネント(上位機種)になっていることからも、機械式をCUESという形で統合する方向性、つまり住み分けをするという事なのだろう。
今後MTBグレードのDEORE、ALIVIO、ACERA、ALTUSはCUESに取り込まれる形となり、更にはロードコンポのTIAGRA、SORA、CLARISも取り込まれるようだ。まずはフラットバーロード、トレッキング用のコンポが用意されており、U3000、U4000が9速、U6000が10,11速、そしてU8000が11速となっている。特徴的なのはそのすべてにおいて互換性を持たせる仕様となっていることだ。ブレーキは油圧ディスク仕様、フロントはシングルとダブル(ディレーラー仕様)が用意され、クランクもそれに合わせたものが用意される。カセットはLinkglideとなっており、耐久性と互換性が重視された作りとなっている。
これらは間違いなくシリーズの簡素化とコストダウンであるとともに、昨今海外で広がるグラベルの波と、彼らが好んで機械式コンポーネントを敢えて使っていることが多いことも視野に入っているだろう。グラベルが人気となってから、特に海外中古市場では、8,9速時代のMTBのリアディレーラーを買い漁る動きがあり電動化が進むコンポーネントの流れに対しての苦言が多く聞かれたからだ。これには海外のグラベル事情が日本とは異なり、キャンピングカーの代わりに自転車で旅をして楽しむ、という要素が多分にあり、電気のない大自然での充電などの心配や、廻りに民家などない荒野で破損しても、自分で修理して走れる、といった側面が影響している。つまりはユーザー側のニーズを向いた商品づくりとコストカットが見事にマッチングした結果と言えるだろう。
このコンポーネントは決してレース機材の格下にあるというものではなく、全く別のジャンルのコンポーネント、という立ち位置が正解なのだろう。強いて言うなら勢いがありシェアを伸ばしている中国系のサードパーティーコンポーネントブランドへの対抗策であるとともに、時代の流れとトレンドに合わせた動きであり、業界の巨人でもあるシマノにとっては大きな決断だが、その背景には材料費の高騰も含めた様々な状況と要因が絡み合っていると思われる。しかしここで思い切ったシフトチェンジができるのもまた大企業ならではと言えるだろう。
今回のコンポでただ一つ残念なのは、ワイヤーの引き量の関係で既存と旧モデルの各グレードや、他社のオールド系のコンポとの互換性はないことだ。つまり互換性はCUES内のみで、使いたいのであれば基本買い替えとなる。各コンポの価格はお手頃かもしれないが、今の経済状況を考えると直ちに買い替えるのは、厳しい人も多いのではないだろうか。
H.Moulinette