一時代を築いたイネオス・グレナディアスがトータルエナジーズと合併へ?スポンサーマネーで運営されるロードレースの常、スポンサーに翻弄されるチームと選手たちの行く末やいかに

イネオス・グレナディアスと言えば、2010年に発足した前身のスカイプロサイクリングの時代より、サー・ブラッドリー・ウィギンス、クリス・フルーム(現イスラエル・プレミアテック)、ゲラント・トーマス(現役)、イーガン・ベルナル(現役)、タオ・ゲイガンハート(現リドル・トレック)と5人のグランツール覇者を生み出してきた。グランツールで通算12度の総合優勝、メジャーステージレースでは積んさん33度の総合優勝、クラシック最高峰のモニュメントでは3度の優勝、クラシックでは12勝と、輝かしい成績を上げてきた。2010年代に最強チームとして2度の年間総合ランキング1位にも輝いたが、2020年代に入ると陰りが見え始め、勝利数は激減していった。また主力選手たちがほかチームへ移籍しエース格となっていくなど、戦力ダウンが著しかった。
ドーピングに対して極めて厳しい対応を取っており、一度でも過去にドーピングしたものは契約をしないというスタンスが物議をかもしたことがあったが、2016年にハッカー集団による世界アンチドーピング機構の情報リークで、主要選手たちがTUE(治療のための例外的措置による禁止薬物の使用:喘息薬など)が発覚し、それが物議をかもすこととなった。徹底した統率力の下、組織的に運営されてきたチームだからこそ、これが組織的な”合法”ドーピングなのではないかと騒がれ、イギリスアンチドーピング機構と激しくやりあう一幕もあったが結局違法性は証明できず、結局は強いものは叩かれるという典型的ケースとなってしまった。
2010年代後半のこのトラブルにより一部主力選手たちがチームを離れたことで、戦力は大幅にダウン、更に極めつけは昨年度チームの主力の一人であったトム・ピドコック(現Q36.5 プロサイクリング)が公の場でチーム方針を批判、電撃移籍を果たしたことで、”一時代は終わった”という印象が否めなかった。徹底して理路整然と管理されるチームスタイルは独特であり、これに合わない選手たちがいるのは仕方がないことと言えるだろう。
ロードレースはスポンサースポーツだ、弱ければスポンサーからの資金は打ち切られてしまう。そんな中、今イネオス・グレナディアスとフランスの大手エネルギー企業がメインスポンサーを務めるトータルエナジーズとの合併が秒読み段階となっている。トータルエナジーズと言えば怪童ピーター・サガンが最後に所属したチームでもあるが、プロツアーチームであり、現段階では2026年度からのワールドツアー昇格には程遠い状況だ。そこで話し合われているのがイネオス・グレナディアスとの合併だ。本拠地をフランスに移し、新チームとしてレムコ・エヴァネポエル(現ソウダル・クイックステップ)をエースとして迎え入れるという具体的なプランまで浮上しているようだ。ソウダル・クイックステップも2026年度以降のスポンサードがいまだ決まらない状況であり、その場合は間違いなく引き抜きにかかるものと思われる。
果たしてこれがどこまで現実になるかは未知数だ。しかしながら実際に話し合いはすでに進んでおり、イネオス・グレナディアスのオーナーでもあり、世界最強のサッカーチームの一つマンチェスター・ユナイテッドのオーナーでもあるジム・ラットクリフもイネオス・グレナディアスの予算カットを口にしており、またチームも新たなスポンサー探しに奔走していたことからも、この話は意外とすんなりとまとまってしまうのかもしれない。イギリスとフランス、犬猿の仲とも言われる両国が、ロードレースで手を組んで新チームが立ち上がるのか、レース以外の場外戦でも注目が集まりそうだ。
H.Moulinette