このタイミングで遂にピドコックがイネオス・グレナディアスと契約破棄の合意、世界最強のオールラウンダーはプロチームのQ36.5 と複数年契約へ
シクロクロスの世界王者、MTBの金メダリストで世界王者、ロードのクラシック覇者と、まさにオールラウンドにその強さを発揮し、歴代最高クラスの万能選手であるトム・ピドコックだったが、今シーズン終盤においてチームとの確執が取りざたされていた。ここ数年チーム自体がうまく機能しておらず、首脳陣も様々なスキャンダルの声が上がるなど内部崩壊を起こしていたことが発覚、それによりチームのエース格であったピドコックは十分なチャンスもアシストも得られないとして不満を露わにしていた。そしてその不満を公言したことでチーム首脳から干された状況となり、チーム離脱は秒読みかに思われたいた。
しかし複数年契約を結んでいたことが状況を複雑化し、さらにチーム自体がピドコックの一件を受けて露呈した様々な問題をクリアにするために首脳陣を一新するなど、大幅なチーム改革が行われるなど、物事が解決しないままに話し合いが続けられてきた。チームはエース格のピドコックの引き留めを試みていたが、ピドコックはすでに契約の破棄と離脱を固辞しており、話し合いは平行線の一途をたどっていた。そしてほとんどのチームが来シーズンのラインナップを確定させているこのタイミングで、なんと両者が円満別離という形での今シーズン限りでの契約解除に合意した。
そうなれば次に気になるのはどのチームがこの大物を獲得するかだが、ピドコックのイネオス・グレナディアス時代の年俸はおよそ5億円ほど、すでにほぼ選手ラインアップを終えている最高峰のワールドツアー各チームにとっては、この出費は簡単なものではない。そこで手を挙げたのが格下のカテゴリーであるプロチームのQ36.5だ。ジャージメーカーでもあるQ36.5がメインスポンサーを務めており、チームを所有する大富豪のイヴァン・グレセンベルグが3年契約へのゴーサインを出した。ちなみにグレセンベルグは世界最大級の総合資源開発会社(鉱山の開発など)を手掛けるグレンコアの元CEOでもありやり手のビジネスマンだ。百億以上の資金を動かして来た男はビジネスの第一線を退き、趣味の延長ともいえるスポーツ界への投資を楽しんでいる。
今回移籍によってピドコックは長らく相棒としてきたピナレロからスコットに乗り換えることとなるが、世界を制しているMTBなどではその愛機であるピナレロに乗り続けたい希望がある。その前振りなのか、実はグレセンベルグは昨年ピナレロの支配株主となっており、これこそがピドコックをチームへ受け入れるための準備だったともいわれている。またチームはピナレロとイネオス・グレナディアスとの契約が切れる2015年度以降にスコットからピナレロにバイクを変える予定とされている。
タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)という存在が偉大過ぎるが故ではあるが、ピドコックは本来であれば間違いなく世代最強と言われておかしくない実力者だ。チームに恵まれたポガチャルに対し、その環境が故に今シーズンモチベーションも上げられずにライバルの活躍を悶々としながら見てきた男は、新天地で更なる飛躍を思い描いている。
「これはただチームジャージが変わるだけではない、これは特別なことの始まりなんだ。2025年の見通しは明るいよ。成長中のチームの力になれること、素晴らしいパートナーとスポンサーと仕事ができることはモチベーションが上がるね。ここで自分が一緒に何を成し遂げることができるかが楽しみだよ。」ピドコックはそう語る。
昨今はエース格を明確に絞ってのチーム作りが主流となっている。先にポガチャルに加え、マシュー・ファン・デル・ポエルを中心としたチーム作りをしたアルペシン・ドゥクーニンク、移籍騒動はあったものの、レムコ・エヴァネポエルを中心としたチーム作りをしてきたソウダル・クイックステップなど、若手世代をチームの中心に据えて明確な勝利を狙える体制づくりが一つのトレンドとなっている。そういった意味ではピドコックが入ったQ36.5 は来シーズン相当数のベテランワールドツアーチーム経験者と既に契約を結んでおり、結果が残せる体制が整った。またピドコック加入でワイルドカードでの主要レースとグランツール出場も見えてきた。将来的なワールドツアー昇格を明確に思い描いているだけに、来シーズンはますますワールドツアーの昇格争いが白熱しそうだ。
H.Moulinette