ブエルタ・ア・エスパーニャで見えたUAEチームエミレーツの本当の強み、総合争い脱落から切り替えステージ2勝(トータル3勝)と山岳賞、さらにチーム総合で圧勝という層の厚み
今年のブエルタ・ア・エスパーニャ、大会前注目に上がっていたのは、まずUAEチームエミレーツのの絶対的エース、タデイ・ポガチャルが出場してジロ・デ・イタリア、ツール・ド・フランスに続くグランツール年間スイープに挑戦するのかという事だった。だがポガチャルが選択したのは世界選手権でのアルカンシエル奪取、ブエルタに出てしまうとその調整が難しくなることからも、あえて史上初のスイープを見送ってまでも世界選手権にターゲットを絞った。
実はこの選択は非常にクレバーなものとなる。UAEチームエミレーツは代わりにポガチャルの両腕、アダム・イェーツとジョアオ・アルメイダをエースにしてのチームとしてのグランツールスイープを狙いうことに決めた。だが昨今の気候変動の影響をもろに受けた大会序盤は、40度越えの灼熱地獄で、熱中症や脱水症状に見舞われる選手が続出した。その影響をUAEチームエミレーツももろに受けることとなり、アルメイダもAイェーツも早々と総合争いから脱落してしまう。更にはアルメイダはコロナウイルスにも感染してしまい、結局不完全燃焼のまま大会を去ることとなってしまった。ポガチャルが出場していれば、そんな状況下での戦いを強いられることとなり、結果として世界選手権に調整を合わせるどころではなくなってしまう可能性が高かった。万が一にでも熱中症やコロナウイルス感染(当人はツール前に一度感染)となれば、ブエルタでの活躍も世界選手権の可能性も両方棒に振ってしまうリスクがあったのだ。そういった意味でポガチャルの「挑戦をしない」という決断は正しかったと言えるだろう。
チームとして狙っていた総合優勝だったが、を第8ステージでの決定的な敗北を受け、総合優勝が潰えたことで、そのまま勢いを失うかに思われた。しかし流石である。よく第9ステージはアルメイダが抜けたが、ここからチームはきっちりと立て直しステージ優勝へとまず目標をシフト、マイステージのようにマルク・ソレル、ジェイ・ヴァイン、パヴェル・シヴァコフ、Aイェーツらが動き回り逃げに乗り続けた。更にはその逃げを成功させAイェーツとソレルがそれぞれステージ1勝ずつ挙げた。これでオープニングの個人TTと合わせてステージ3勝を挙げて見せた。
さらにこの連日の逃げで大きくポイントを稼ぎ出し、ジェイ・ヴァインはワウト・ファン・アールトと山岳賞を競い合うこととなる。だがファン・アールトのリタイアを受け、ヴァインが山岳争い首位に躍り出る。だがここでチーム内での争いが勃発す。なんとソレルとヴァインのどちらが山岳賞を獲ってもおかしくない状況となるが、チームはヴァインを指名する。ソレルは色々と戦略的に不満の表情を見せるが、最終的にはヴァインが山岳賞を獲得した。
そしてこのアタックと逃げのオンパレードが思わぬ副産物を生み出すこととなる。毎ステージのようにメンバーが複数逃げが乗ることで、チーム総合(各ステージの際チーム内で上位3名のタイムの合計)がどんどんと積み重なり、チーム総合ではどんどんと独走態勢へと近づいていく。結果2位に30分以上の大差をつけてのチーム総合となった。
さらに山岳賞争いでも奮闘、更にそれによりチーム総合にも大きく貢献したソレルは総合敢闘賞を獲得しチームとしての組織力と実力を見せつけてくれた。
こんな実力もレースセンスも高い選手たちが支えているのだから、ポガチャルのジロとツールでの圧倒的な活躍にも納得ができる。ポガチャルが躍動した最初の年は、アシストなく孤立無援という事がよくあったが、この数年でチームはしっかりとポガチャルのアシストになれるメンバーをチームへと集結させてきた。それによりポガチャルは余裕をもって戦略的にライバルを倒してのステージ優勝と総合優勝、クラシックやほかステージレースでも勝利を狙えることとなり、今シーズンの歴史的躍動へとつながっている。
ポガチャルの絶対的エースというワンマンチームに見えがちだが、そうではなくそこにはチームメイトたちの捨て身の牽引や、要所要所での冷静な判断があるのだ。これによりポガチャルは安心して身を委ね、勝負に専念をし、そして伝説を積み重ねていけるのだ。今大会のUAEの走りを見て、改めてチーム力、組織力の重要性を感じさせてくれた。
H.Moulinette