2023年グランツールで歴史を塗り替えたユンボ・ヴィズマの強さ、史上初!異なる選手でジロ、ツール、ブエルタをスイープ!その3人の覇者がブエルタで1‐2‐3の圧倒的組織力と連携

今年のブエルタ・ア・エスパーニャは歴史に残る大会となった。総合トップ3をユンボ・ヴィズマが独占した。 今シーズンのジロ・デ・イタリアを制したプリモズ・ログリッチ、そしてツール・ド・フランス連覇を成し遂げたヨナス・ヴィンゲガードの二人がアシストに回り、そのジロとツールでの二人の勝利をアシストしたスーパーアシストのセップ・クスのグランツール初制覇をアシストした。

©Jumbo Visma
これで史上初の同一チームの異なる選手による年間グランツール完全制覇(スイープ)を達成、そしてさらに57年ぶりの総合表彰台独占を成し遂げた。57年前に比べて圧倒的に繊細でスピーディーで緻密さが要求される近代サイクリングにおいて、これは快挙と言える。これだけを見れば至極一方的でつまらない大会になったか思われるが、決してそんなことはない。それはもちろん総合脱落したレムコ・エヴァネポエル(ソウダル・クイックステップ)の連日の山岳での逃げもあるが、それ以上にユンボ・ヴィズマという強豪チームが、絶対的グランツールエースのログリッチとヴィンゲガードを差し置いて、スーパーアシストのクスに総合優勝を狙わせるのか?という見どころが、最後まで分からなかったことが大きいかもしれない。
第17ステージの激坂アングリルでは、勾配20%越えの超絶山岳でログリッチ、ヴィンゲガード、クスの3人が先頭に立った際に、なんと残り1.9㎞でクスが脱落 それでもログリッチもヴィンゲガードもペースを落とすことなくさらに加速して行く姿に、どれだけのサイクルファンが心穏やかではなかっただろう。結果的にクスは自力で踏ん張りヴィンゲガードとのタイム差を8秒にまで縮める形となったが、総合リーダージャージを守り抜いた。

©La Vuelta
ユンボ・ヴィズマのチームの中では色々な話し合いがあったようだが、基本はフリー勝負、つまりこの3人は誰がエースという決め事抜きに第19ステージまで走っていたようだ。ただそこには当然お互いを潰しあうようなことはしないという大前提があり、その上でのチーム内での駆け引きはあったようだ。ヴィンゲガードは「クスに勝たせたい」という発言を何度かしていたが、ログリッチはそのあたりの発言を全くしておらず、ゴール後の3人の抱擁のシーンを見ていても、どこか100%複雑な表情が垣間見えた。
クスはもともと「僕はエースの器ではないし、アシストに徹したい」とかくに発言するなど、積極的なリーダーというポジションではない。アシストとは自分を犠牲にしてエースを勝たせる役割であり、ユンボ・ヴィズマが最強である一つの理由がこのスーパーアシストのクスが勝負どころの山岳ステージで常にエースをサポートしてきたらだ。
第19ステージのゴールで、実はヴィンゲガードはクスとのタイム差をあえて少し広げた節がある。クスに勝たせたいという思いと共に、前日までの8秒というタイム差では、僅かなメカトラブルでひっくり返りかねないという懸念から、同タイムでのゴールが可能であったはずにもかかわらず、敢えて脚を緩めた姿があった。この辺りのヴィンゲガードの細やかな配慮もあり、最終第20ステージを前に、チームとして明確にクスで勝利を挙げるという事が最終決定されたようだ。
事実第20ステージではログリッチも満面の笑みでヴィンゲガードとクスと肩を組んで納得のゴールとなった。クスに勝たせたいというチームメイトの思いと、それを汲んだチームの采配は見事だと言えるだろう。しかしこれは選手間同士の強い絆、さらにはチーム首脳陣と選手達の強い絆がなければ不可能だっただろう。誰もが納得しての走りで締めくくったチーム力の強固さはとてつもない。
もしログリッチとヴィンゲガードが本気でアタックを大会後半していたとしたら、間違いなくこの二人のどちらかが総合優勝をしていただろう。すでに何度もグランツールを制覇している選手であっても、勝利に手が届く位置にいる時点で勝利を欲するのは選手の本能ともいえるだろう。ログリッチは勝てば4度目のブエルタ制覇、ヴィンゲガードにとってはブエルタを制覇すれば、ツール、ブエルタ連続勝利からの来春のジロ・デ・イタリアでのグランツール3連続制覇という記録も見えるところまで来ていた。
それでも「僕らはクスのおかげで勝たせてもらってきた」と言い勝利をアシストするこの深い連帯感は、他のチームではあまり見たことがない。強いからこそできる芸当であり贅沢な悩みと言えばそれまでだが、これができてしまうチームの強さは歴代最強と言っても過言ではないかもしれない。歴史上初という記録を目にすることは、近代ロードレースでは稀なこと、それがこんなにも素晴らしい清々しい結果と共にロードレース界の1ページに刻まれ、そんな瞬間の生き証人となれたことは、幸運と言わずしてなんといえばいいのだろう。
来年もユンボ・ヴィズマが強いのかはわからない。選手たちに入れ替わりはあるだろうが、主力メンバーに変動はないだろう。それでもレースは生き物であり、また怪我などのリスクとも常に向き合わなければならない。機材革新と共に、一度のメカトラが命取りになる時代、”運”も味方に付けなければ結果を得られないのもまた事実。だからこ、まだシーズン中ではあるが2023年度のユンボ・ヴヴィズマの強さは際立っているのだ。
シーズンも残りわずか、ここからさらに結果を積み重ねるかが非常に楽しみだ。
H.Moulinette
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