ツール・ド・フランスで考えるリムキャリパーブレーキVSディスクブレーキ:プロの使用では現実的に大差のない状況、ツールでは少数派のリムキャリパー10勝に対しディスクブレーキ11勝
いまだに尽きないリムキャリパーブレーキとディスクブレーキ論争、さんざんリムキャリパーブレーキのデメリットを強調してディスクブレーキを推し進めるマーケットの違和感が、一般の間でも様々な議論を呼び続けた。ディスクブレーキが本格的に解禁となり、主要メーカーがディスクブレーキにシフトしていく中で、少数派となったリムキャリパーブレーキ派が今年のツール・ド・フランスでも勝利を量産、そこから垣間見えた実際のメリットとデメリットを選手たちの声も交えて考えてみた。
今年のツールでは、出場21チーム中、リムキャリパーブレーキバイクを選択したチームはわずか3チームに過ぎなかった。それ以外のチームは原則はディスクブレーキながら、選手たちに選択肢としてリムキャリパーブレーキを与えているチームもある。また中にはスポンサーメーカーがディスクブレーキモデルしか市販していないながらも、選手の要望に応えて特注でリムブレーキモデルを用意していたケースも見受けられた。
だがトータルしても、使用者数は圧倒的にディスクブレーキのほうが多かった。だがツール全21ステージの結果としては、リムキャリパーブレーキが10勝と、ほぼ半数を占めたのだ。実際にリムブレーキで勝利を挙げたのは、チーム全体がリムブレーキを使用していた3チームでワウト・ファン・アールト(ユンボ・ヴィズマ)が2勝、プリモズ・ログリッチ(ユンボ・ヴィズマ)が1勝、ミカル・クウィアトコウスキー(イネオス・グレナディアス)が1勝、ナンス・ピータース(AG2Rモンディアル)が1勝となり、個人的にリムキャリパーブレーキを選択していたタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)が3勝、ソレン・クラー・アンデルセン(チームサンウェブ)が2勝となった。
ポガチャルは1ステージのみディスクブレーキを使用したが、個人TTも含めた残りのステージではリムキャリパーブレーキを選択し、最終的に総合優勝を成し遂げた。また逃げを決めて2勝を挙げたクラー・アンデルセンは、市販品にはないリムキャリパー使用のフレームを特注で用意してもらっての勝利だった。
平坦ステージでのスプリンターたちは、ほとんどがディスクブレーキを使用している。ステージ勝利を挙げたアレクサンダー・クリストフ(UAEチームエミレーツ)は、ポガチャルのチームメイトでありながら、ディスクブレーキを選択していた。またステージ2勝のカレブ・ユアン(ロット・ソウダル)、ポイント賞とステージ2勝のサム・ベネット(ドゥクーニンク・クイックステップ)はチームがディスクブレーキのみとなっていた。例外的だったのが、純粋なスプリンターではないが、真っ向勝負で2勝を挙げたワウト・ファン・アールト(ユンボ・ヴィズマ)だろう。
元シクロクロス世界王者は、シクロクロスがディスクブレーキが主流になってから台頭してきており、圧倒的にディスクブレーキでの経験値が豊富だ。しかしチームがリムキャリパーブレーキを使っているので、ロードレースではそのままリムキャリパーブレーキを使用している。使用に関しても「全く問題ない」としており、大きな差異はないとしている。
クライマーに関しては、総合優勝と2位のポガチャルとログリッチがリムブレーキを使用していた。山岳ステージではルイ・アンヘルロペス(アスタナ)はディスクブレーキで勝利したし、総合3位に入ったリッチー・ポート(トレック・セガフレド)も未勝利ながらディスクブレーキ搭載のバイクで結果を残した。
パンチャー系の選手の多くはディスクブレーキを使っていた。ステージ勝利を挙げたジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)、レナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグロエ)、、アレクセイルチェンコ(アスタナ)、マルク・ヒルシ(チームサンウェブ)は皆ディスクブレーキを使用している。もちろんチームが準備しているのがディスクブレーキのみというチームが多いが、サンウェブに関しては選択肢が与えられており、ヒルシはディスクを選択していた。対してチームメイトでステージ2勝を挙げたクラー・アンデルセンはリムキャリパーブレーキと、チームとしてはどちらでも結果を残した形となった。ただフレームスポンサーのサーベロは、提供しているR5では市販向けにはリムブレーキモデルは用意していない。
選手たちの声で一つ気になったのは、昨今DH(下り)セクションでの駆け引きやアタックが勝敗を決めることが多い中で、「リムブレーキのほうが高速でのスピードコントロールがしやすい」という声が聞かれた。アマチュアとは違う次元で走るプロは時には100㎞以上の速度で下るのだが、ディスクブレーキは改善されたとはいえやはり急にブレーキの利きが増す瞬間があり、それが落車に直結しかねないだけに、その恐怖感のなかでブレーキをどこまでかければいいかのコントロールがシビアだという声が聞かれた。実際レースではチーム提供のディスクブレーキバイクを使うが、個人練習ではリムブレーキを使うという選手もいた。「慣れではないのか」の問いには、「慣れだけの問題ではない」との答えもあった。
重量面ではやはりディスクモデルが平均して300gほど重くなっていた。その対策としてフレームの軽量化を徹底しているメーカーもあったが、選手としては軽量化よりも剛性などが重要であり、大きな問題ではないようだ。実際UCI規定の6.8㎏にこだわっているチームは少なく、7.3~7.8㎏のバイクが平均的だ。
結局のところ、「プロが使えばリムキャリパーブレーキでもディスクブレーキでも大差はない」というのが現実だ。メーカーなどが買い替え需要などの為に新しいジャンルとして定着を狙ったのがディスクブレーキであり、一般ユーザーには選択肢として、街中のストップ&ゴーが多い状況や悪天候などを考えると、ディスクブレーキは魅力的だ。ただし悪天候には自転車には乗らない、郊外しか走らない、というのであれば、必ずしもディスクである必要もなく、プロのような脚力がないことも考えれば軽量化しやすいリムキャリパーブレーキ仕様のバイクも未だ魅力的な選択肢だ。
技術革新は見ていて楽しいが、出来ればメーカー側も、選択肢を減らすよりは、ユーザーにきちんと選択肢を残しておいてほしいものだ。それもユーザーフレンドリーの一つの形であり、自転車ファンの増やすうえでは必要な一手だと思う。
H.Moulinette