強豪3チームがあえてリムキャリパーブレーキで戦う今年のツール・ド・フランス、ここまで9ステージで5勝で語られた「プロのレースシーンでキャリパーにデメリットはない」

今年のツール・ド・フランス、熱いバトルが連日繰り広げられているが、ここへきて機材の話題がまたよく聞こえてくる。昨シーズンまでよく話題になっていたのが、ディスクブレーキ論争だが、正式に解禁になったことで今シーズン多くのチームがディスクブレーキ専用バイクを持ち込んできた。実際に今年のツール・ド・フランスでも多くのチームがディスクブレーキ搭載バイクで参戦しており、逆に従来のリムキャリパーブレーキを使用しているのは僅か3チームにとどまっている。
その3チームがユンボ・ヴィズマ、イネオス・グレナディアス、そしてAG2Rモンディアルだ。どのチームも総合系を軸にしたチームであり、勝利へのこだわりが徹底されているチームだ。機材面に関してもそのこだわりは強く、ユンボ・ヴィズマとイネオスは今大会でスポンサードを受けているシマノのホイールではない他社製の製品を、ブランド名を隠して使用しているのだ。ユンボはコリマを、イネオスはライトウェイトをあえて使用してまで勝利にこだわるこの2チームは、そろってリムキャリパーブレーキを採用している。

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ツール中休みまでの全9ステージでこの3チームは4勝を挙げており、残りのステージでも上位に入ってきていることからも、結果としてみる限りディスクの圧倒的なメリットがあるとは言えない状況だ。総合でも1位のプリモズ・ログリッチ(ユンボ・ヴィズマ)、総合2位のイーガン・ベルナル(イネオス・グレナディアス)、さらには山岳賞のベノワ・コスネフロイ(AG2Rモンディアル)と結果が伴っている。今年のツールもすでに悪天候のステージを経験しており、それでもなお少数派のチームがあえて使い、そして勝利するあたりが、「リムキャリパーが劣っているわけではない」という証明となっている。またタディ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)も山岳ステージではリムキャリパーブレーキバイクをチョイスしており、この勝利も含めると全9ステージで5勝がリムキャリパーブレーキでの勝利となる。

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ただし実はそれ以外の要素も、つまりレースならではの理由もそこにはある。その一つがやはりトラブル対策だ。現状ディスクブレーキバイクでは、パンクなどの際にホイール交換をすることはほとんどなく、バイク交換となる。これはディスクブレーキのパッドとディスク自体のクリアランスの調整のシビアさに起因する。急いで交換したいのに、少し装着角度がずれるだけでパッドとでディスクがすれて抵抗が生まれるのでは、勝負に集中できないのだ。その為バイク交換となるが、重要なシーンで必ずしもチームカーがそばにいるわけではなく、バイク交換自体が大幅に遅れて勝負を捨てる羽目になることさえあるのだ。またチームメイトがそばにいたとしても、バイクごと譲り受けてもサイズやセットアップが違えば、当然その選手本来の力は発揮できない。
リムキャリパーブレーキであれば、バイク交換をするまでもなく、バイクをそのままにホイールだけをチームメイトから受け取ることもできる。ライドポジションを細かくセットアップしている自分のバイクで、ホイールだけ交換すれば済むのであれば、それがベストなのだ。そのような側面も含め、強豪3チームはあえてリムキャリパーに徹しているという側面もある。

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実際に現場の声はどうなのだろう?開発現場の声では、「ディスクブレーキに空力効果のプラスがあるが、それはあくまでもプロのスピードで、しかもTTやトライアスロンのような完璧なエアロポジションやヘルメットがあってのこと」としている。「通常のライディングポジションではリムキャリパーブレーキのほうがアップダウンでの出力が出やすいことを踏まえると、どちらが優位なのかということはレースシーンでは絶対ではない。」とのことだ。さらには「一般人でも体重が70㎏未満であれば、ディスクの恩恵は極めて少ない。体重が重い人ほど恩恵がある。」との声もあった。
現場でメカニックを務める人間の声も聞いてみたが、「プロのレースシーンではキャリパーのデメリットはないよ。強いて言うのであれば、周囲が最新機材を使う中で取り残されている感ぐらいかな。」とのことだった。「リムキャリパーはメンテナンスも楽だし、選手の感じるストレスも少ないよ。バイク交換のことで神経質になると、レースに集中できなくなるからね。」との声もあった。
年々よくなっていくディスクブレーキは、一般ユーザーが街中で使うには、ディスクブレーキの恩恵というのはある。悪天候の中では特にその恩恵は大きいが、同時にメンテナンスが自分では行いにくいというデメリットもある。今では価格も落ち着いてきており、選択肢としては魅力的なものとなっている。
一般マーケット向きの安全対策の一つとしてのディスクブレーキというものには一理ある。本来はその販促やPRも兼ねてプロが喜んで使ってくれればよかったのだが、職業選手として勝負に徹することから、それを拒まれてしまったことも、ディスクVSキャリパー論争が長引いている理由だ。結果的に見れば、どちらも機材として優秀であり、適材適所で使えばいいだけのことではあるのだ。だが買い替え需要と技術革新として新しい方式への転換は一つの時代の流れともいえるだろう。ただそれらを踏まえても、ただの新しい物好きで終わらない為には良いものは良いのだと旧式であっても評価できる土壌がなければ、無意味な論争は続いてしまうだろう。
ディスクとリムキャリパー、あなたはどちらがお好み?
H.Moulinette