メタル復権の兆し:新技術と技術革新は金属フレームの復権へと繋がっているのか?回復の兆しの一端はニーズの変化にあり
一時カーボン全盛期となった自転車産業だったが、アメリカのNAHBS(ナーブス)や、イギリスのUKHBS(ビスポーク)などのハンドメイドビルダーたちの盛り上がりによって、金属フレームに脚光が当たり、”新しい素材”としてのメタルが復権しつつある。クロモリという極めてオーソドックスな素材も、「重い」という業界のミスリードによりハイエンドマーケットからは排除されてきたが、工作の自由さを武器にハンドメイドというジャンルで再び脚光を浴びると、さらには「扱いづらい」とされてきたチタンやステンレスといった素材も再び台頭、メタル素材のフレームは今では一つのムーブメントにさえなりつつある。
レース界においてはフレームは消耗品であり、使い捨て感覚というところを考えればカーボンという選択肢一択になっていることはある意味当然の成り行きではある。しかし一般人は劣化速度が金属に比べて著しく早いカーボンを、「一生モノ」と思い違いをしてしまっている節がある。本来利益率が極めて高い量産カーボンが定着してほしかった業界の思惑は、最先端素材でプロと同じものが買えると謳いながら、」劣化が早いので「買い替え需要がすぐに来る」事で多くの人が断続的に購入し続けるであろうという狙いがあった。しかし単価の高さに加え、「勘違い」から一生モノとしてしまう傾向が出来てしまい、思ったように買い替え需要が生み出せなかったのだ。
そこへ来て下火になりながらも生きながらえたクロモリなど金属フレームは、特にスチール系は最初から一生モノと言えるライフスパンの長さがここへ来て注目を浴びるとともに、「旅する自転車」の需要でさらなる光が当たっているのだ。長距離を乗るにはやはり金属のしなりが疲れを軽減するという特性が、最大限に発揮されるということが再認識されたことで、海外を中心にフレームビルダーによるオーダーメイド人気が上昇、さらには大手メーカーも再注目をしている。
旅する自転車の代表格であるランドナーの現代版と注目されているグラベルロードの登場は、少なくともメタル復権に寄与している。グラベルロードの多くがカーボンではあるが、「旅をする」という考え方の中にロード的に「速く走る」という概念があまりなく、さらには荷物を多く搭載する、頑丈であるべき、などの要素が加わり、より頑丈でラフに扱えるというメリットも手伝い、再び金属フレームが脚光を浴びる一因となったのだ。
実際に国内外のハンドメイドフレームビルダーに聞いたところ、「間違いなくグラベルロードやランドナー系などの旅する自転車の注文は以前より増加傾向にあるし、ロードでもキャリア用や泥除け用のダボをつけてほしいという要望が増えた」との回答がかなり聞かれた。
素材革新でより良くなった素材に加え、従来の頑丈さや取扱やすさが加わり、また時代のニーズにマッチしたことは金属系フレームにとっては必然だったのかもしれない。いつの時代でも「いいものは再び脚光を浴びる」という通り、クロモリやアルミなどの金属フレームは「過去の物」ではない。それらは間違いなく「現代のニーズに合った」素材なのだ。今回画像で紹介しているHELAVNA CYCLESのシティーシングルクロス、と呼べるような一台は、まさに今の時代とニーズを具現化した一台だ。
カーボン全盛期の現在に自転車を趣味としてを始めた方の中には、まだ金属系フレームを体験したことのない人も多いはずだ。食わず嫌いは損、一度実際に体感してみてほしい。「2台目、3台目は金属フレームが欲しい」と思う官能の世界がそこには待っている。
HELAVNA CYCLE
H.Moulinette