トランスジェンダーの世界チャンピオンが誕生、体格差や筋肉の付き方など差異はどこまであるのか?トランスジェンダーの競技参加はいまだ賛否両論、性同一性障害の競技界での扱いの現状
世の中は複雑だ。性同一性障害への理解がようやく世界に浸透していく中で、当然どこかの段階で、性転換をした競技者が結果を残し議論となることはわかっていた。そして今月行われたトラックのマスターズ世界選手権で、レイチェル・マッキノン(元男性)が女子35-44才部門のスプリントで勝利、アルカンシエルを手に入れた。レイチェルの本職は大学の哲学の教授でもあり、また長年にわたり性同一性障害の権利に関する活動をしてきたレイチェルの偉業をたたえる声は多い。しかしこの結果がまた一つ波紋を呼んでいる。
レイチェルに敗北し3位に終わったジェニファー・ワグナーが「不公平だ」とSNSで批判をしたことにより、レイチェルがそれに反論する形となったことで、この議論は再び活発になってきている。ワグナーはこの年代層では圧倒的な強さを誇っており、今回珍しく敗北したのだが、その言い訳にレイチェルの性同一性障害(性転換)を口にしたことは、安直すぎたといえるだろう。
レイチェルは今回の勝利が世界の注目を浴び議論されるということは、まだまだ世界の理解が追いついていないことを意味している。
「我々性転換者がこうして勝利すれば不公平だとか、元男性だからだとか批判されるけど、我々が2位や3位で結果を残しても、誰も褒めることさえしない。そうやって我々は直視されずに、都合のいい時だけ批判の的にされる。」
では競技の世界でトランスジェンダーはどのように扱われているのだろう。男性から女性への性転換の場合と女性から男性への性転換では条件が異なっている。それは骨格差などを考慮して定められている。男性から女性への性転換に関しては、2004年にオリンピックでトランスジェンダーの出場が認められたが、その基準は性転換手術を行い、そしてホルモン治療を2年以上行っていることだった。しかし2015年に基準が緩和され、手術は不要となり(体への負担が大きくリスクを伴うため)、テストステロンのレベルが過去12か月間一定基準値以下であることが条件となっている。その逆で女性から男性への性転換の場合は、一切制約はなくそのまま出場ができる。
しかし2020年の東京五輪からはその基準は強化され、テストステロン値は従来の半分の設定となることが決まっている。
では実際に元男性でトランスジェンダー女性アスリートとなった人間は、本当に肉体的にアドバンテージを得ているのだろうか?ロンドン大学が過去の実例、実数値を競技ごとの基準と照らし合わせて比較したところ、ホルモン治療などの効果もあり、実質的にアドバンテージはないということが分かった。ただそれでも、結果を残したトランスジェンダーの選手たちが批判にさらされているという現実も露呈した。
まだまだ世の中はトランスジェンダーを受け止め切れていないという現実、さらには偏見と先入観をぬぐい切れない社会の中ではまだまだこうした批判は出続けるだろうし、基準も何度も改変されていくだろう。誰もが望んでトランスジェンダーになったのではない、ただありのままの自分でいることを求めただけではあるということを我々は今一度考えるべきだろう。その上でどのような形が競技上ベストであるのかを熟考し、より分かりやすく不変の基準設定を行うべきだろう。
いつどんな時代においても、差別というのは醜いものだ。トランスジェンダーの問題はデリケートで難しい問題ではあるが、スポーツの世界においてはすべての意味で誰もが平等に競い合える場であってほしい。
H.Moulinette