UCIが2019年よりトラマドールを新たに禁止薬物に指定、WADA(世界アンチドーピング機構)が禁止していない薬物ながらも独自の調査で危険性を考慮し禁止に

今回は対応が早かったと言えばいいのだろうか?WADA(世界アンチドーピング機構)の禁止薬物リストに載っておらず、自転車レースシーンでは使用が蔓延していると言われていたオピオイド系の鎮痛剤、トラマドールの使用を2019年度から禁止するとUCI(世界自転車競技連盟)が発表した。
この鎮痛剤を摂取することで疲労感などを抑え、体に強制的に無理をさせる事を可能とすることを目的とした摂取での悪用が行われているが、今回はその乱用が人体に健康的被害をもたらすとして今回の使用禁止となった。
「今回禁止薬物に指定したが、これからどの検査方法でそれをテストするかを考えていく予定だ。摂取していれば本来運動時の体の状況とは相反する状態(数値)が出ることで検知できる。つまりレース前にコルチゾイド値が低い場合は、チームドクターからの申請で最低でも数値が正常化するまで最低でも8日間はレースに出走できないこととなる(治療目的で使用の場合)。」
トラマドールは副作用があり、胃腸障害(悪心、嘔吐、便秘、消化不良)、心臓障害(動悸、頻脈、高血圧、低血圧)、神経系障害(傾眠、浮動性めまい、頭痛、多幸感)、腎および尿路障害(排尿困難、アルブミン尿)、皮膚および皮下組織障害(そう痒、発疹、多汗)などがあり、それ以上に常習性、依存症度が高いのが問題となっている。またトラマドール使用時に非常時局面となった場合の治療にも影響があるため、今回の禁止薬物指定と決定した。
WADAは禁止をしていなかったが、要注意薬物には指定しており、実証データを集めている最中ではあったが、いくつかのワールドツアーチームやプロコンチネンタルチームで形成されるMPCC(自転車競技信頼回復共同体)は5年前よりその危険性をWADAなどに訴えており、今回はUCIがそのWADAに先駆けて禁止を決断することとなった。最新の検査では検査全量のうち4%でトラマドールが検出されておりこれは極めて高い数字と言える。
今回の禁止は、筋肉増強など物理的に体の性能をアップさせるのではなく、体を騙し疲労感を感じない状態、つまりフレッシュな状態だと体に勘違いさせる極めてリスキーで危険故の判断だ。そこまでして勝ちたいのか?と多くの人が疑問を持つだろう。しかし多くの選手が結果を残さねば”首”という紙一重の現状を常に抱えており、そのストレスが手段を選ばずという危険なリスクを人に犯させるのだ。人の弱さ故と言えばそれまでだろうが、家族など守らねばならない立場に置かれた人間は、時としてそれを言い訳に安易な逃げに手を染めてしまう事も多い。今の段階で禁止できたことで、救えた選手生命と救えた命があったと言えるようになっていってほしい。
H.Moulinette