最強の時代到来:史上最強のポガチャル、そして歴代最強クラスの選手たちがもたらす新たな時代、不可能と言われた領域に手を伸ばす強者たちはなぜこんなにも増えたのか
ファウスト・コッピ、エディ・メルクス、ベルナール・イノー、伝説と呼ばれる名選手たちが残した偉大な記録はたくさんある。だがメルクス以降長きにわたりそれらの記録を超える選手たちはなかなか現れてこなかった。機材の進化、競技人口の増加に伴い、「絶対的王者」と呼ばれる存在は影を潜め、長きにわたりロード戦国時代とも呼べる時代が続いた。しかし2020年代手前から、若手の対応が始まると、レース界自体の流れが大きく変わり始めた。変わり目となったのは2019年、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)がワールドツアーチームに昇格したタイミングと言えるだろう。

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僅か6年で史上最強と呼ばれるほどになったポガチャルは、ツール・ド・フランス総合優勝4回、ジロ・デイタリア総合優勝1回、主要ステージレースでの総合優勝14回、ワンデイとクラシックは通算25勝、4度の年間世界ランキング1位、ロード世界選手権王者2回と、まさにやりたい放題暴れていると言えるだろう。「攻撃は最大の防御」というモットーの下、躊躇なく攻め続ける姿勢は、間違いなくロードレースシーンをより面白いものにした。ロードレースの3ジャンルともいえる、ワンでとクラシック、ステージレース、グランツールのその全てで強さを発揮しており、まさにロード界の究極のオールラウンダーであり、伝説のエディ・メルクスと同じタイプの選手と言えるだろう。
だが、ポガチャルが輝くのは彼一人が強いからではない。彼の活躍に呼応するかのように最強の座を争うライバルがいることが、さらにレースシーンを盛り上げ、そしてポガチャル、そしてそのライバルたちの更なる進化を促していると言えるだろう。

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ワンデイとクラシックでその最強の座を争っている筆頭は、マシュー・ファン・デル・ポエル(アルペシン・ドゥクーニンク)だろう。ロードレースに限らず、シクロクロス、MTB、グラベルに至るまで、多ジャンルで世界の頂点に立ってきた男はロードでもその強さを発揮している。シクロクロス世界王者を7回という圧倒的な強さに加え、グラベルでも世界王者となり、MTBでも世界選手権シリーズ3勝、ヨーロッパ王者となり、ロードでも世界王者に輝いているなど、自転車レース界のオールラウンダーだ。ロードレースではワンデイとクラシックを得意としており、通算21勝とポガチャルと互角の勝負をしている。中でもクラシック最高峰の5大モニュメントでは8勝を挙げており、これはポガチャルの9勝に肉薄しているだけでなく、揃って歴代最多モニュメント勝利の3位タイと8位タイにランクしており、2人とも今現在ポガチャル27歳とファン・デル・ポエル30歳という年齢を考えると、まだまだ記録を伸ばしていくことは間違いないだろう。

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そしてグランツールでポガチャルにとっての最大ライバルとなっているのがヨナス・ヴィンゲガード(ヴィズマ・リースアバイク)だろう。ツール・ド・フランスというグランツール最高峰のレースでお互いに真っ向勝負を毎年繰り広げており、ここ5年はポガチャル総合優勝4回、ヴィンゲガード総合優勝2回、2020年を除いてはお互いが総合2位という2強のがっぷり四つの状態だ。ヴィンゲガードはグランツール専門ともいえるタイプの選手で、ステージレースでも勝利はしているが、長丁場のレースで本領を発揮する。こちらも28歳と若く、ポガチャルのグランツール通算5勝に対して通算3勝としており、ハイレベルな争いを繰り広げている。

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また忘れてはならないのがレムコ・エヴァネポエル(ソウダル・クイックステップ)だろう。ポガチャルと同じく、ワンデイとクラシック、そしてステージレース、グランツールの全てを得意とする選手であり、グランツールで総合優勝1回、主要ステージレースで総合優勝11回、ワンデイとクラシックでは19勝、オリンピックのロードと個人TTでの金メダル、ロード世界王者1回、個人TT世界王者3回と大舞台に強さを発揮している。個人TTスペシャリストでもある点が、上記の選手たちとの大きな違いと言えるだろう。こちらはまだ25歳と若く、まだまだ記録は伸ばしていくと思われる。

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そしてもう一人これら選手たちに割って入りそうなのが、トム・ピドコック(Q36.5プロサイクリング)だろう。ファン・デル・ポエル同様に自転車レース界のオールラウンダーであり、シクロクロス世界王者1回、MTBオリンピック金メダル2回、MTB世界王者1回、更にはロードではワンデイとクラシックで通算3勝を挙げているだけでなく、自ら進化を求めて挑んだ今年のブエルタ・ア・エスパーニャではヴィンゲガードと激戦を繰り広げ総合3位となるなど、探求心を追い求めて挑んでいる。こちらもまだ26歳と若く、これからが楽しみと言えるだろう。今現在今月11,12日に行われるグラベル世界選手権に向けて準備している。
最強の影には最強に匹敵する影あり、つまりこれらライバルがいることで、ポガチャル自身もますます進化を遂げているのだ。そしてそれに引っ張られレース界全体の底上げにも繋がっており、昨今のハイペースレースのみならず、駆け引き無用のパワー勝負など、見る者を魅了するレースが増えてきている。それに伴い一気に世代交代も進んでおり、ワールドツアーチームに10台の選手たちが昇格してくる事例が相次いでいる。もちろん皆がそのまま順調に結果を積み重ねることはないだろうが、下からのこうした突き上げは更なる競争を生み、さらにハイレベルのロードレースを生み出していくだろう。タデイ・ポガチャルというモンスターの登場が、今最高の進化の循環をもたらしている。
ポガチャルが狙うのは、この記録、エディ・メルクスのグランツール11回の総合優勝、モニュメント通算19勝となっている。
H.Moulinette












