コラム:チーム構成の難しさ:ブエルタ休息日に移籍市場に大きな動き、すでに公表のエヴァネポエルのレッドブル・ボーラハンスグロエに続き、ホァン・アユソもUAEとの契約を早期打ち切りで移籍へ
来シーズンに向け大きな移籍が決まっている。レムコ・エヴァネポエル(T-レックス・クイックステップ)はかねてからレッドブル・ボーラハンスグロエへの早期移籍が取りざたされてきたが、移籍市場解禁前という事もあり本人、当該チームともにそれを否定してきた。しかし移籍が解禁になると速攻で現在のソウダル・クイックステップ(グランツール中はT-レックス・クイックステップ)との長期契約の解除、そしてレッドブル・ボーラハンスグロエへの移籍が発表された。
昨今タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)、ヨナス・ヴィンゲガード(ヴィズマ・リースアバイク)とともに3強グランツアラーと呼ばれてきた男は、ピークは過ぎたかもしれないが、いまだに3強に匹敵するとも言われているプリモズ・ログリッチ(レッドブル・ボーラハンスグロエ)とチームメイトとなることが決まった。レッドブル・ボーラハンスグロエ自体がログリッチのチームと呼ばれるほど、ログリッチを中心に構成されている中、その後釜というよりはもう一本の柱として招聘された形だ。

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そしてこのブエルタ期間中にもう一人の大物の移籍が確定となった。まかチーム名こそ公表されていないが、ポガチャルの右腕として活躍してきたホァン・アユソ(UAEチームエミレーツ)のチーム離脱が発表されたのだ。こちらもエヴァネポエル同様に長期契約を解除しての移籍となる。アユソの場合はグランツールでの実績は2022年、2023年のブエルタ・ア・エスパーニャでの総合3位と4位のみ、ステージレースでは今年のティレーノ・アドリアティコでも総合勝利も収めており、今後はグランツールのエースとして迎え入れてくれるチームを探すことになるだろう。まだ22歳と若いだけにこれからの選手でもあり環境を変えたいという当人の希望が大きかったようだ。
ここでそれぞれが現在の所属のチームへ抱いていた不満をまとめてみよう。エヴァネポエル自身求めていたのはより強力なアシスト選手の構成だったと言われている。だがチームは長年個々が勝利を挙げる、誰もが勝利する曲者集団、ウルフパックとして君臨してきたことからも、エヴァネポエルだけのワンマンチームへの変貌へは降り切れていなかった。ラフェーブル監督含め、エヴァネポエルのチームという表現こそしてきたが、実際にグランツールでのアシスト勢はポガチャルやヴィンゲガードに比べれば圧倒的に劣るものであり、エヴァネポエル自身の力で展開を打破することを余儀なくされたケースが多かった。それに比べレッドブル・ボーラハンスグロエはログロッチを中心にグランツアーチームへと変貌を遂げており、その辺り更なる選手補強もうわさされているだけに、エヴァネポエルにとってもよりエースというポジションに専念できる立場となりそうだ。またログリッチ一枚看板のチームにとってはエヴァネポエルが入ることで2枚看板となり、戦略的自由も増えるだろう。
アユソにとって納得ができなかったのが、やはりポガチャルのアシストとして使われ続けるという事だろう。ポガチャルというロードレース界の至宝がいることで、求められるのはポガチャルの最強アシストの役割、だがまだ若く野望もあるアユソにとっては、我慢の連続だったと言える。一時不満を口にしたこともあったが、そこからはぐっとこらえて言葉を選んで発言してきた。だが今シーズンポガチャルのいないジロ・デ・イタリアでも絶対的エースという立場ではなく、さらには1歳年下のアイザック・デル・トロが想定以上の飛躍を遂げたことで、チーム兄での序列が下がってしまったことが大きかっただろう。デル・トロが総合2位を獲得したのに対し、自らは落車、さらには顔面をハチに刺される不運も重なりリタイアとなり結果を残せなかった。
では旅だたれることになった両チームの状況はどうなるだろう。エヴァネポエルに続くグランツアラーがいないソウダル・クイックステップにとっては、絶対的エースの離脱は今後を考える上ではかなり悩ましいだろう。チームはグランツアーチームへと舵切をしたうえで今の選手構成となっており、チームは今後ウルフパックに再建に舵を切るのか、それともグランツアーチームをもう一度目指すの、早急な再編が求められることになりそうだ。常勝軍団復活へ向けて、どのような方向性を目指すのかに注目が集まる。
UAEチームエミレーツはすでにグランツアーチームとしては選手層が厚く、アユソの離脱は大きな問題にはならないだろう。それよりは飼い殺しになる危険性より選手の未来を考えての双方合意の上でに契約解除に至ったと見受けられる。アユソは今回の発表に際してチームへの感謝を真っ先に口にしており、円満移籍となるだろう。
チームにとって選手は1ピースであるとともに戦略的に欠かせない存在、そして選手にとってチームは一人では成し得ないことを実現するためのファミリーであり同胞だ。昨今は長く同じチームに所属する選手が増えており、特にエース格ではその傾向が強い。果たして来シーズン以降の盤面はどのように変わっていくのか、注目されるところだ。そしてまだまだ本格的移籍市場はこれから動くが、チーム編成の難しさを改めて感じさせる状況となっている。
H.Moulinette












